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はずれものの恋、ユーラシアのはぐれ島で  作者: 神永遙麦
新婚時代:私が第二夫人?
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閑話 大人にならない妹

 両親は婚姻後、子どもを授かっては亡くし続けた。結婚9年経ってから生まれた僕も「また早くに亡くなるかもしれない」という諦めからやや適当なありふれた名前をつけられた。

 僕が6歳になる頃には弟が2人いて、そこにマカレナが加わった。マカレナの後にも弟妹が3人増えたが、いつしか兄弟は僕とマカレナの2人だけになっていた。マカレナが「嫁入り前だけ」という条件で文官を志した時は嬉しかった。可愛い妹に何かを教えてあげられるいい機会だと考えたから。尤も、マカレナは僕と違い要領が良くてあっという間に文官になったんだけどね。お兄ちゃん、ちょっと寂しい。


 マカレナは窓枠に肘をついたまま外の景色を見ていた。山道を走っているこの汽車はかなり揺れるのに動じない姿は流石だ。一番星を見つけたマカレナはため息を吐き僕を見た。


「ねえお兄様。今更なんだけど舞踏会に間に合うの?」

「かなりギリギリになるよ。なにせ片道4日半だから。家に帰ったら仮眠して風呂に入って、舞踏会の支度だからね」

「慌ただしいね〜」

「誰のせいだと?」

「私でしょ? でもいいでしょ? こんなこと、結婚してしまえばもう出来ないわ」


 マカレナは不満げに唇を突き出した。


 *


 帰宅し、数時間経った。王城までは僕が連れて行くことになっている。マカレナは王城でハイド伯爵と合流する。

 ワインレッドの外套を羽織ったマカレナは大人しく馬車に乗り込んだ。逃げ出すのではないかと心配していたが、何事もなく王城に到着した。化粧室で姿を整えたマカレナは強張った顔で僕を見た。


「お兄様。あのね、私……」


 マカレナが口を開いた時、ハイド伯爵が「すまない、遅れた」と到着した。

 僕は「いいえ」とマカレナの背を押した。


 ハイド伯爵はマカレナに手を差し出し、伸ばされたマカレナの手を自身の肘に掛けた。マカレナはぎこちなくハイド伯爵の顔を見た。どこか不満げに見えるマカレナの表情にハイド伯爵は笑った。

 遠目から見れば一対の仲睦まじい婚約者に見えるのだろう。正装のハイド伯爵は立派な男だし、ワインレッドのドレスを着たマカレナは綺麗な年頃の娘に見える。


 事実、大人の女性らしいドレスを着たマカレナは綺麗だった。

 スカート部分がワインレッドと金色の縞模様のようになっているのはかなり風変わりだが、あとは流行通りなのだろう。周りの女性と似たようなデザインだった。大きなパフスリーブ、長い手袋、大量の宝石。だけどマカレナだけが浮いて見える。他の女性と喋りながらもハイド伯爵に付き従うマカレナ。

 断言しよう。宮廷伯爵の第一夫人、という地位もマカレナには役不足だ。彼女なら辺境伯の妻にでもなった方がいい。いや、いっそマカレナ自身が辺境伯になってしまえばいい。女性であるが故に活躍が出来ないだけだ。


 1人の男がマカレナに近づく。何かを話しかけている。ハイド伯爵は男を睨んでいる。男が立ち去った後、僕はハイド伯爵に近づいた。


「失礼します。今のはどなたですか?」

「パース子爵だ。以前ヴェルディアでマカレナを見かけたそうだ」

「パース子爵とは確か旧ティレアヌスの……」


「厄介なことにならないと良いが……」とハイド伯爵は深々とため息を吐いた。マカレナの視線はパース子爵の背に注がれている。

色々、ちょっとだけ寂しいお兄ちゃん。

次回、明美エリザベスの母。

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