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はずれものの恋、ユーラシアのはぐれ島で  作者: 神永遙麦
現代から不思議の国へ:少女時代
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閑話 木工細工のクローバー

「おかえりなさい、フリーダ」


 私フリーダが旅から戻ると、エルサ様が玄関まで迎えてくださいました。


「ただいま戻りました」


 上の息子のもとに、と申しましても血の繋がりはなく夫の連れ子に当たる子。彼のもとに先月男の子が生まれましたの。上の息子にとっては第一子に当たる子ですから、お祝いのためカスティリオへと参っておりました。元々はロイスに行かせることを検討したのですが、彼は忙しいそうです。成人したマカレナの相手を探すためにマカレナを連れて行くことを、ロイスに提案してみたところ、「もう決まっている」と断られてしまいました。結局、ロイスの息子アーサーを旅の共としておりました。


 ロイスは「それではお祖母様、僕はもう家に戻りますね」と帽子を被りました。

 エルサ様は「泊まっていけばいいのに。もう夜の11時よ」と窓の外を見ました。

「いいえ、きっと母も心配しているので。おやすみなさい、エリザベス様、お祖母様」とアーサーはお辞儀しました。


 アーサーを見送った後、エルサ様の部屋に戻るとエルサ様は寝間着に着替えていました。私はぎゅうぎゅうのスーツケースから小さな包を出しました。


「エルサ様、こちらはヴァルデスの品です。どうぞ、お納めください」

「あ、ありがとう」とエルサ様は戸惑ったように小包を受け取られました。慎重に慎重にリボンを解き、丁寧に包を開かれました。

「エルサ様、壊れやすいものでも生き物でもありませんので、ご安心くださいまし」

 エルサ様は「わぁ、かわいい」と顔を綻ばせられました。


 お土産は木工細工のクローバーがついたペンダントです。この時期、ヴァルデスでは木工細工の出来を競う祭りが行われているので。

 エルサ様はすっとペンダントを身に着けてみました。


「フリーダ、どう?」

「よくお似合いです」


 やはりエルサ様には素朴なアクセサリーがよく似合うのでしょう。丸みを帯びた顎とやや彫りが浅く幼く見える顔立ち。華やかとは程遠い静かな蒼い瞳。白すぎず仄かに陽だまりを思わせる肌。顔の表情は豊かですが、目の奥に現れる表情はスンと乏しい娘。だからこそ温もりあるアクセサリーが馴染む子なのでしょう。


「話が変わりますがエルサ様。結婚式は6月8日に決まったそうです。先程ロイスから聞きました」


 その日なら月経の周期と10日ほど外れていますから問題はないでしょう。エルサ様はツンツンとペンダントの飾りを触っていらっしゃいます。

 

「アーサー様を送った時に聞いたの? それにしても急ね、1ヶ月もないじゃない」

「そうですわね。それからエルサ様、アーサーに敬称は不要です。あの子はまだ見習いの身ですから」

「知っているわ。でも年上の方だしマカレナのお兄様だもの」


 私は苦笑しました。アンネリースもエルサ様より年上ですが呼び捨てされています。時計が0時の鐘を鳴らしました。


「エルサ様、式まで1ヶ月もありません」

「ドレスはもうできたわ、アクセサリーも。ヴェールの刺繍も私がやっていいところは終わった。あとはお作法だけよ」

「当日はボーヴァー伯爵ご夫妻も出席なさいます」

 エルサ様は「そうなんだ。なんてお呼びしたらいいの? お養父様、お養母様?」とペンダントを弄くっていた手を一瞬止められました。

「それで良いのでは? 閣下からご指示が出ているのならそちらに従うまでの話となりますが」

「うぅー……」とエルサ様は頭を抱えられました。


 時折思うのですが、エルサ様のご母堂様はエルサ様の現在も結婚なさることもご存知ではない。エルサ様に御兄弟がいらっしゃるのかすら存じませぬが、きっとご母堂様は案じていっらしゃるでしょう。エルサ様が健全なご家庭で育ったとは思えませんが、母親なら多少は気懸かりに思うものでしょう。それからエルサ様は伯爵第一夫人としての執務が可能なのでしょうか?

 エルサ様とハイド伯爵の結婚は良いことなのでしょうか?


「おやすみなさい、フリーダ」

「おやすみなさい、エルサ様。美しい夢を」


 エルサ様は布団に潜り込むとスコンと眠りに落ちました。彼女のお心に多少問題があったとしても、今や健康なお体を持つ17歳の娘さんです。多少お心や閣下との関係に問題があったとしても、結婚式を控えた娘です。

 椅子から立ち上がり部屋から出ようとドアを開けました。しかし、エルサ様の枕元に戻り、するりとエルサ様からペンダントを外しました。寝ている間に首や髪に絡まってはいけませんから。その際、もう1つのペンダントも引っかかりました。2つのペンダントのもつれを解し、もう1つのペンダントを元通りエルサ様の寝間着の中に隠しました。私が贈った方のペンダントはサイドテーブルに置きました。

 エルサ様と初めて会った時からお持ちだったリボンを模したペンダント。閣下が贈ったものでもなさそうであり、エルサ様が人目につかぬよう服の下に隠し続けているリボンを模したペンダント。恐らく、とても大切なものなのでしょう。恐らくはこの国にいらっしゃる前、ご家族から貰ったものなのでしょう。


「エルサ様、どうか幸せな夢を」

次回で次章に進みます。結婚式です。

トントン拍子に進めます、ハイド伯爵が。

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