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はずれものの恋、ユーラシアのはぐれ島で  作者: 神永遙麦
現代から不思議の国へ:少女時代
19/89

閑話 初めて外国語で話した日

 『赤毛のアン』の翻訳を自力で試みていたマカレナは父ロイスの言葉に目を上げた。


「えっ? 私が行っていいの?」


 驚きと期待に言葉が砕けてしまった。そんな私にお兄様は呆れたような羨ましそうな視線を向けた。お父様はしっかりと頷いた。


「そうだ、マカレナ。君がヴァロワールの大使館に返礼に行くんだ」

「ですがお父様、私はフランス語が出来ませんわ」

「ハイド伯爵かエリザベス様に教わりなさい」


 お嬢様にフランス語を教わる? 素敵だわ! でも習得するのにどれくらい掛かるのかしら?

 ふと目を上げるとお父様が羨望の眼差しを明後日の方向へ向けていました。連日の伝達でお疲れなのでしょうね。


 私はわくわくしながら床につき、朝を迎えハイド別邸へと向かった。


「お嬢様! フランス語を教えてくださいまし!」

「マカレナ! 突然なんですの! あなたは主であるエルサ様に向かって……興奮をおさめなさい!」


 お祖母様に叱られちゃった。しょんとしているとお嬢様が「いいけど、何に使うの?」と耳を傾けて下さった。


「閣下にたくさんお見舞い品が届きましたでしょう! だから返礼に行くのですが、私はヴァロワール大使館を担当することとなったのです!」

「なるほど……」

「マカレナ、あなたの現在の主はエルサ様でしょう。エルサ様のお許しは得ましたの?」

「閣下からお嬢様に話は通しておいたそうです。しばらく私を借りる、と」

「そう言えばそんなの来ていたわね。一昨日来ていなかった、フリーダ?」

「そう言えば……。ではマカレナ、エルサ様に無礼を働かぬように」

「はい! お嬢様、よろしくお願いいたします!」


 それからお嬢様によるフランス語教室が始まった。ですが大使館に参るのは来週の水曜日。


 エリザベス様は。「1週間か……」と首を傾げられた。「マカレナ、返礼で使う言葉や単語をこの紙に書き出してちょうだい。翻訳するから。そしてそれを暗記して」

「かしこまりました。でもそれでフランス語を習得出来るのでしょうか?」

「習得は出来ないわ。でも返礼の時は凌げる、時間が足りないのよ」


 とりあえず紙にサササァーと書き、お嬢様にお渡しすると声に出しながらサラサラサラと翻訳なさった。すごい。


「とりあえず、フランス語の発音をこちらの文字に当てはめてみたわ。これならフランス語が読めなくても問題はないでしょう」

「『《《あなたのご厚意に感謝いたします》》』、これはどう言う意味でしょうか?」

「親切にしてくれてありがとう、と言う意味よ」


 

 ✳︎


「閣下、この度はハイド伯爵に対するあなたのご厚意に感謝いたします」


 私は深々とお辞儀をすると、あちら……大使の方が何かを話している。でも何を言っているのやら……。お嬢様助けて!

 茶菓子と紅茶を振る舞われた。お嬢様から教わった食べ物に対する感想文を言ってみた、「美味しいです」って意味だった。するとあちらは気を良くしたように頷いた。でも何言ってんのか分かんない。まさか返礼に行ってお菓子振る舞われるとは思わなかったけど。

 言葉が分からず頭から湯気が出そうなくらい熱い。すると1人のヴァロワール人の青年がゆっくりハッキリと喋った。


()()()()()()()()?」

()()()()()()()()()()()()()()()


 これはお嬢様に教わった。青年は何かを大使に言った。大使は何かを言ってから頷いた。青年は何かを書き、立ち上がった。


()()()


 それから私の手を取りエスコートしてくれた。どこに行くんだろう? 外国?

 この大使館の建物の作りはあまりハイド伯爵のお屋敷と変わらない。ただ内装の雰囲気が違う。ハイド伯爵のお屋敷が華美であるなら、こちらは無駄がなく不思議な物がたくさんある。

 ドキドキしていたけど、行き先は私の馬車だった。帰れってこと? しょんもりと馬車に乗ると青年は1枚の便箋を渡してくれた。何だろう?

 馬車が動くと手を振って見送ってくれた。


 別邸に着くと真っ先にお嬢様に便箋をお見せした。フランス語で書かれているようだから、今の私には意味が通じないの!

 お嬢様はクスクスと笑い、別の紙に意味を書いて渡してくれた。笑うようなことが書いてあったのかな?


 







 ローレンス嬢へ。


 今日はあなたとお会いできたことが幸いでした。いつかあなたと言語の隔たりなくお話がしたいです。

 

 モハメド・ギャスパル・ドロン。







 

 お嬢様に用があってやって来ていたお兄様が後ろから便箋を覗き込んだ。


「マカレナ、エリザベス様。絶対に父上には言わないでください。後が面倒くさいので」とお兄様は顔を顰めた。

 お嬢様は「そうなの?」と首を傾げられた。

「父上がこのことを知れば即刻、その手紙は没収されるでしょう。ご存知でしょう? 父上がマカレナの嫁ぎ先を探していることを。恐らくもう決まっているのでは?」


 そうだった。ワクワクしていた心が曇った。私はお嬢様に向き直った。

 

「お嬢様、この翻訳を預かっていただいてもよろしいでしょうか? 家に置くとお父様にバレそうなので」

「いいわよ。フランス語で書かれた方はどうするの?」

「持ち帰ります」と私は便箋を受け取った。


 お嬢様は小さく笑った。

フランス語で書かれた恋文(仮)だけを持ち帰ったマカレナ。フランス語が分かる人は少ないからね。


次回、フリーダからのお土産。

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