閑話 花嫁修行
吹雪く2月から、6月の終わり頃となり私フリーダもまた1つ歳を重ねました。エルサ様の婚約が決まってから4ヶ月。未だ婚姻の準備を始められずにおります。
エルサ様には文官として、私の孫娘マカレナが就きました。また、お付きの護衛として男爵の未亡人であるアンネリースが就きました。
ですが、エルサ様は困惑なさっているようで、困ったように私を見ました。
「ねえフリーダ、文官にはどういう役割があるの? 私はどうすればいいの?」
「エルサ様はハイド伯爵の第一夫人となられるから、ついたのでしょう。主に事業や執務を行うさいに、手足として用いる者なのですが……」
本音を申しますと、外部との交流に制限を掛けられているエルサ様に文官がいるのか、分かりかねます。
エルサ様は考え込むように首を傾げました。それから何か思い浮かんだのでしょう。勢いよくマカレナを見ました。
「ねえ、マカレナ。レース編みや刺繍の仕方を教えてくださらない?」
「えっ? 承知しました」
マカレナは承諾はしましたが、助けを求めるようにこちらを見ています。マカレナ、困惑しているのは私もです。
婚約が内定したエルサ様1日でも早く初潮を迎えなければいけません。ですがそれは人の力ではどうにもならぬものです。その次にするべきことはベールの刺繍です。しかし初潮を迎えられぬ限りは婚姻の準備を始められません。そうなると、刺繍やレース編みの練習をなさることはとても良いことですが……文官にさせることなのでしょうか?
「こんな感じかしら?」とエルサ様が刺繍枠を掲げました。
エルサ様の刺繍枠にはピンク色のお花が咲いております。エルサ様は簡単な縫い物は出来るそうで、刺繍の模様が歪なこと以外はこれといった問題はないようです。マカレナは自分の刺繍枠を見下ろしています。どうしたのかしら?
マカレナは「エルサ様は飲み込みが早いお方なのですね。私が初めて刺繍をした時よりもずっと綺麗ですもの」と感動したように呟きました。
マカレナ、あなたが初めて刺繍をしたのは7歳の時だったでしょう。しかし、こうして見ているとマカレナは教師役としては優秀なのですね。ロイスからはマカレナに対する懸念点ばかりを聞かされますし、マカレナが幼かった頃ばかりの印象が強いものですから。女でありながら文官を志し選抜に通ってしまう、休日は1人で出かけてしまう、平民街にだって行ってしまう。ですがマカレナの花嫁修行が順調なようで何よりです。この子はどのような方のもとへ嫁ぐのでしょうか?
エルサ様が静かに立ち上がりました。どうなさったのかしら?
エルサ様は「フリーダ、少し席を外します」と、アンネリースと共に部屋を出て行かれました。
それからマカレナは両頬に手を当て感嘆したように私を見ました。
「お祖母様、お嬢様は本当にお美しい方ですね! それに外国人とは思えないほど綺麗にゴーディラック語を話しますのね!」
「マカレナ、分かっているとは思うけど」
「分かっています、お祖母様。お嬢様が外国人だということは内密なのでしょう。ちゃんとお兄様にもお母様にもお友達にも漏らしておりませんわ」
「それなら安心ね」
「でも誰もいない時にお嬢様に外国のお話を伺ってみたいわ。外国ってどんな所なのかしら? どんな言葉を喋るのかしら? 知りたいわ」
「旦那様から許可を取ってからになさい」
マカレナの「お嬢様」自慢を聞いていると、青白い顔をしたエルサ様が入って来られました。そして一直線に私のもとに近づき、私の耳に口を寄せました。
「フリーダ、月のものが来たの。アンネリースに貰った布を着けているのだけど……。私、どうすればいいの?」
明美が外国人であることをマカレナが知っている理由。
「勝手に暴かれるよりは先に知らせた方が面倒がない」とハイド伯爵が判断したから。




