今日も平和な日常に
中世界の中央大陸。ここにかつて東和と呼ばれる文化を持つ大国があった。でも、その大国は古代文明の文献と一緒に消え、今はその文かと血筋を継承した人たちが小さな集落を作って暮らす、和の里と呼ばれるコミュニティで今も生きている。その血を引いた今の子供の一人が、俺だ。
「もう、ハヤテ! 早く行こうよ!」
「うっさいな。俺は今、売られた喧嘩を買ってるとこなんだ。黙ってろよな」
ある日の放課後。俺たちが住む和の里、青梅の里は学校終わりの餓鬼どもで賑わっている。高校の授業が終わり、俺は幼馴染のリンカと駄菓子巡りの旅に出るつもりだったが、いつも俺に喧嘩を吹っ掛ける同級生の餓鬼の相手をしなきゃいけなくなった。いつもは週1のことだったが、今日はなにやら事情があるみたいだ。
「そんで、いつもは週末にやるのに、なんで今日なんだよ」
「うっせ! てめえのせいで俺の初恋がズタズタなんだ! てめえの顔ぶっ潰さねえと気が収まんねえんだよ! 覚悟しろ!」
「お前の初恋と俺ってなんか関係でもあんのかよ?」
当然の疑問に、リンカが暴露する。
「そいつ、あたしに告ってきたんだよ。嫌いだったからハヤテの名前出して振ってやっただけだもん!」
「ああ、こうなった原因がしゃべったぜおい。お前もこいつに振り回されてんな。こいつ、普通に嘘言うから気を付けろよな」
「ああもうそのお前の態度の時点でむかつく! さっさとやるぞ!」
そう言って、相手は木刀を手に持ち、構えた。俺も合わせて木刀を構える。俺たちが構えた瞬間、野次馬たちも静かになる。風は俺たちの緊張感を煽るように吹き、万年種の桜の花びらが舞台を演出する。リンカは和傘を開いて俺を見守っている。
風が止み、お互いの中心に花びらが落ちた。それが勝負の合図となった。
相手は一気に間合いを詰め、雑な太刀筋で攻め立てる。かくいう俺も、あまりにも美麗とはかけ離れた太刀筋で剣戟を披露する。傍から見たら遊びで木刀を振っていると思われるだろうが、お互い本気の本気、今まで稽古してきた技術を以て、相手に勝とうとしているのだ。
結局、この勝負の勝敗は力によって決する。俺が渾身の切り上げで相手に木刀を無理やり弾き、切り返しで相手の胴を打った。痛みで顔が歪み、その場に崩れる。
「いってぇ! ちくしょうが! 覚えてろよ!」
あまりにも幼稚すぎる捨て台詞を吐き、野次馬に木刀を拾わせてそいつは消えていった。俺も内心はかなり焦っていたが、表情に出さず、余裕の表情を取り繕っていた。
「ふん、一昨日きやがれ!」
俺は木刀を収め、リンカの方を見る。和傘を顔の前に構えて表情が見えない。
「おいリンカ、終わったぞ。今日はどの商店街に行くんだ?」
俺の言葉に反応し、和傘を挙げる。そしれ無邪気なお姫様は笑顔になって反応した。
「それじゃあ、新青梅商店街に行こ!」
無邪気なお姫様に俺は、幼少期からずっと振り回されている。
和風な世界のちょっとしたお話を、ぜひお楽しみください