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何度ね?

ボケーっとしていた。


朝のまどろみの中、随分と久々に二度寝して惰眠を貪りたい背徳感に後ろ髪を引かれながら、その気持ちを何とか抑え・・・・・る。


・・・・・ダメやった。


小さい体を胎児の様に丸め、腕を交差させ肩を掴む。


「ん・・。」


涎を垂らしそうな暖かさと柔らかさを全身に感じながらウチ想う。


・・・・ああ・・・。


この寝床の心地よさはもう、アレや、人間をダメにさせるあれや!!


今日、何も無ければここに一日でもいられる。

ウチが恥知らずな人間やったら何日でもやな。


・・でも・・・あかん。

それをやったら違う意味で人間として終わりや。


あ、もう一回おわっとるか。



元の世界?

二つ前の世界では煎餅布団。

からの石畳ベット、嫌、あれはもうただの石やな。

からの天蓋付きの・・・ベット。

いやぁ・・・2度目の生活に関して言えば、金はあったんやからどうにでもできたんやけど、吸血鬼としてのイメージがそうさせてくれへんかった。

屋敷の何処かにアニメみたいな秘密の隠し部屋でも作ればよかったんやけど、あの時はあの駄犬もおったし、まぁ、寝床はあれで事足りてたしな。


「・・そうもいかんのが、営み、生活ちゅーもんやもんな。

そいっ!」


グイッと身体を起こしベットから降り、スタスタとクローゼットに向かう。


この家、『エンブレス家』にもメイドもいるにはいるのだが、大貴族とは違い数が少ない、今の時間は、朝食の用意か何かで手一杯だろう。

とは言っても、こちとら貴族のご令嬢なのだ、ベルで知らせれば誰かが来て朝の世話をしてくれるであろうが、これでもウチは気配りのできる女なのだ。


「ふん。」


軽く誇らしげに鼻を鳴らすと、クローゼットの扉を開けた。

そこには、いわゆる女の子の衣装がズラリと並んでいた。


・・・・というのは言い過ぎやな。


ウォークインクローゼット並の広さの小部屋には、それなりの数の可愛らしい衣装と女の子のクローゼットには似つかわしくない動きやすそうなズボンとシャツが吊るされていた。

それらは一様に生地がくたびれており、色も少し煤けていた。

その下の床にはくたびれた安全靴の様にガッチリとした形の靴が数足並べられている。


人間、悪魔ときて貴族の娘か、今回の神の思惑は分からない、何せそこらの記憶がすっぽり抜けている。


以前のように面倒な内容でなければいいんやけど、何せ、あの神やからな。

しゃあけど・・・・ウチ、前回で失敗しとるしなぁ。

何でウチにもう一度こない仕打ちをなさるんか・・・大いなる疑問やな。

こない小さな子に何が出来るっちゅーねん。


ノーティの人となりはこの間、ウチが自我を取り戻したあの時、この子の記憶が一気に流れ込んできたことで理解した。

今はウチがノーティなんやけど。

同一人物とは言え、心苦しい物がある。

11歳迄のノーティは何処にいったんや?

・・・・・まるで彼女の人生を乗っ取った様で気分が悪い。


母親と同じく騎士になる為、8歳になる頃から、木剣を握り母親の指導の下、振り下ろしてきた。

そしてようやくこの歳になって『剣の天才』と呼ばれた母親と木剣を交えて稽古をする迄成長した。

手加減はしているだろうが、剣を握った母親は幼子から見ても理解できる程の鬼だった。

我が子を我が子と思っているのだろうか?

一瞬でも気を抜けば、急所の近くに剣を打ち込まれる。

その閃光の様な剣捌きはノーティの目では追うことは不可能だった。


「鬼やんな、マジで。

あんなん、ガキが反応できる速度とちゃうで。


・・・・。


・・あの母親なりの・・・・・愛情・・・なんか?。」


床にベタっと座り込むと、かぼちゃパンツの上にあまり伸び縮みのしない生地で作られたズボンを履く。

立ったままだと必ずバランスを崩す固さなのだ、二つ前の世界のジャージが懐かしい。

四苦八苦しながら履き終わり、立ち上がるとシャツを羽織る。

ボタンは上一つを残してはめると、ズボンを履く時一緒に靴下を履かなかった事に気付き、チッと舌打ちをする。


・・・・11歳には似つかわしくない行為やな。


あの母親似の顔もさぞ可愛くなかった事だろう。


母親・・・・か。

母親なりの愛情。


そうでなければ、あの、冷たいようでいて、優しい眼差しでノーティを見る事は出来ないだろう。

そして何よりあの抱かれた時の温もりは心地よく、病気で寝込んだウチを介抱してくれたオカンの暖かさと似ていた。

ギューってしてとはよく言ったものだ。

パートナー同士の抱擁は言わずもがな、家族の愛情のこもった抱擁は何物にも変え難い。


くるりと回転しながらクローゼットにある鏡を見る。身だしなみは大事だ。

ファッションは気にしない派のウチやけど、ズボンからシャツをはみ出そうものなら、ウチだけやない、ウチの面倒を見ているメイドにまで被害が及ぶ、それは避けなければならない。


「・・・うーん」


綺麗なブロンドに少しばかり寝癖がついていたので櫛でとかすがチョンっと立ってしまう。

髪紐が置いてあったのでそれを後頭部でクルッとするとポニーテールで纏める。


「・・・・こんなもんやな」


靴を履き部屋の扉を開ける。

目指すのは朝食の準備が出来ている広間だ。

・・・もうおるやろうな。

反抗期、思春期かっ

流石に気まずくないというのは嘘になるが、、お腹も空いているし行かない訳にはいかない。


父親はいなかった。

ノーティの物心がつく年齢になる時にはもう亡くなっていた。

母親がノーティに語った死因は殉職らしい。

魔物討伐の際、仲間を庇って魔物の一撃を喰らって死んだそうだ。

なので今は優しげな表情を浮かべて描かれている肖像画でしかその姿を確認する事は出来ない。

ノーティの記憶の中を探るが、忙しい人物だったのか、それとも、ノーティから見て興味が無かったのか、印象に乏しい存在だった。


父親の爵位は男爵。

領地は広くはないが、それを母親が名誉男爵になり特例として引き継いでいる。

それなりに貴族として暮らしているので、財政的には問題は無い。

まあ、平均値を知らないから何とも言い難いというのが本音やけど、衣食住と事足りているのだから問題無いやろ?

それにあの母親は自らの訓練も一日として欠かさない。

それに加え、領地運営しているのだから、とても優秀な人物なのだ。


・・・・誇らしいがな。

・・・・大好きやもんな。

ただ、素直に言われへんだけ。

・・・・うーん。

ハードル高すぎとちゃう。


広間の扉を開ける。

中にいた人達の視線がウチに集まる。


「・・・ああ。おは・・・ようございます。」


視線に戸惑っていると、恰幅のいい、黒いメイド衣装に身を包んだオバチャンが口を開いた。


「まぁ、お嬢様、おはようございます。

こちらへどうぞ。」

「ありがとう、エルマ」


エルマと呼ばれたオバチャンが席を引き用意してくれる。

控えていた若いメイド女性も、私が近付くと。


「おはようございますノーティ様。」

「おはよう、マーシャ」


と声をかけてくれた。


そして、席前で立ち止まる。

見上げると、そこには女神が鎮座奉っていた。

嫌、母親やけど。

朝からオーラ半端ないわこの人。


「おはようございます、お母様」

「おはよう、ノーティ」


緊張なのか、朝ご飯を見る前に生唾をゴクンと飲み込む音が耳の奥に聞こえた。




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