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勇者の「しごと」

ゴーーーーーオオオオオオオーーーーン。

ドドドドドドドド

ドドドドドド

ドドドド

ドド


【ガオン!!!】


花火が上がった時のような爆音が室内に響いた。

まるで爆発事故でも起こったかのように、何度も何度も。

その音は広間中に振動を起こし、まるで大きな地震を連想させる揺れを発生させた。

瓦礫となった石材は飛び散り、敷物や旗だった布切れが空中に舞う。


「うげぇぇぇぇええ!!!」


飛び散る瓦礫と灰色の煙の中、漆黒の衣装に身を包んだ女が、断末魔と呼ぶべき呻き叫び声と大量の血液混じりの吐瀉物を撒き散らしながら姿を表した。


というより、何者かの手により驚異的な力で吹き飛ばされ、地面と平行に後方に存在するこれまた王様が座るであろう豪勢な作りの玉座の方へと強制的に移動させられていた。

この玉座は現在猛スピードで飛ばされている女の物では無い、だがこのまま飛ばされ続ければ近づく事でさえ憚れていた玉座に不本意な形で腰を下ろす事になりそうだった。


女は考えていた。


ほんの僅かな時間なのにも関わらず、思考はゆっくりと、そして鮮明に。

自分にこんなスキルが宿っていたのか?

思考加速、走馬灯とも違う感覚。


まず、自分は何をされたのか?

そんな事は明白である。

殴られたのだ。


ただの「腹パン」だ。


砂や瓦礫混じりの煙を女が巻き上げたからだろうか?

女の目に、自分の腹を穿った人間の姿が浮かび上がった。

その何かのワンシーンを切り取った様な格好のいいシュチュエーションに相応しくない格好をした男。


戦闘する装備というか、余りにもこの状況に相応しくない、白い少し皺でよれたシャツに埃まみれの黒いズボンという非常にラフな格好。

靴はサンダルとまではいかないが、今にも側面に穴の空きそうなボロいスニーカーを履いている。


攻撃の為に腕を伸ばした右腕は細く、筋肉もあまりついていない。

ただ、反対の左腕の先にはこの格好に相応しく無い自身の身の丈をゆうに超えるであろう大剣が握られていた。

男は右腕をまるで汚い物を振り払うかのようにブルブルと振る。

その手を一暼するとボサボサの天パ頭を手を伸ばしポリポリと掻く。

大口を開け、起き抜けのような間抜けな顔をすると大欠伸を一つ。

退屈そうにガリガリと大剣を引きずりながら移動を開始した。


その行動は自分の勝利を信じてやまない者が行う勝利の行進だった。


女は未だに体勢さえ変えられない、飛ばされながら女はそのゆっくりとした世界で、理不尽な存在に呆れと憤怒、そして恐れ、そんな感情を抱いていた。


ここまでなん?

【勇者】

ゆーんは・・・・・。


それに、何やったんあの音、最初で、多分、最後の一撃やのに、無駄にしか聞こえん連続的な爆発音。

そして無駄かどうか知らんけど、あのゲームや漫画に出てくる様な派手な光のエフェクト演出。


・・・・全部無駄やん。

こんな文字通りの規格外の化け物にどーやって・・・・。


常時張ってる多重障壁と結界の強度が足りへんかったら、こんな事を考える間も無く、あの時粉微塵にされて死んでたわ。

今頃、そこらの瓦礫に、ウチの肉片がこびりついてたかもな。


ジワジワと脳から全身に苦い痛みが回ってきた。


こんな苦しんやったら、一思いに爆発ドカーン行った方が楽やった・・・かもな。


自慢やった、むっつと、うっすら浮かび始めたプラスふたつに割れてた腹筋の辺りには・・・・大穴が開いてそうな感覚。

触って確かめてみたいけど

無理や!!

身体がいうこときかへん!!

指一本動かせへん。


アカン・・・・考え無し過ぎやった。

嫌・・・・ちゃうな。

考えても、無駄や。

もう。

しゃぁけど。


・・・あのパーティー、勇者以外、見えたオーラは常識の範囲内か少し上。


しゃぁけど、勇者・・・あれは、人間とちゃう。

別格、別枠、あれは人間やない、人間の形をした何かや。


女は当初、勇者とその一行と相対した際、勇者の格好と御一行様の装備の違いに言葉を失った。


荷物持ちの下男を従えてこの城に攻め込んでくるとは随分と舐められたものと、苛立ちからの感情から言葉を失った位である。

あの下男を、信頼している己の【解析の魔眼】を見た際、目に映ったのは、線の様に立ち昇る細い糸の様なオーラ。

それが見える者なら誰もが思うだろう。

あの男はただの食用にもならない「ゴミ」だと。


それを下男と、人間扱いした自分がいかに人間を理解している人道的な悪魔かと褒めてもらいたい位だ。


人間を無機物と同様に扱わない本質的な理由は他にあるのだがそれは今語るべき事では無い。


その頼りなさそうな人間が傍にいたメンバーの1人である女に耳打ちされ、乗り気で無さそうな音量で棒読みの、さも嫌々記憶した片言の口上をしたと思いきや、勇者の姿が消え、次の瞬間には目の前に拳を振り上げた勇者がいた。


あんなん、反則や。


間近で見た線の様なオーラは幾重にも、幾重にも膨大なオーラが凝縮された糸の様で、その一本一本が巻きつき絡みついて、異常とも思える位の細さを生み出していた。

隠す為なのか、欺く為なのか、それとも唯の暇つぶしで魔力を高度な魔力操作で操り、伸縮し、編んだだけなのか?

どちらにせよ、この糸の数本でも力を開放させたなら、あの王にも届くと言わざるおえない凄まじさを女は直感で理解させられた。


「・つぅ・・・!」

「ああああああああああああ!!!!」


永らく忘れていた。

これは「痛み」だ。


腹部からというよりも、痛みは脳から全身を一瞬で駆け巡り、くまなく苦しみと悲鳴を上げさせる。


半引き篭もりやったウチには痛みは無縁やったけど、久々のがこんなんって、、、。


反則や、程っちゅーんがあるやろ!!!


ドギャ!!!!


「ぐぃぅ・・・・」


聞きたくもない鳴ってはいけない音量の音が自身を中心として広間に鳴り響く。


「がぁぁぁぁあぁぁ!!!」


頭を強烈に打ったのが原因なのかゆっくりとした思考はそれと同時に停止し。

代わりに、ゆっくりと甘い痺れが身体を支配し始め、死ぬ前のご褒美なのか痛みが少しばかり薄れてきた。


「・・・・・・・ふっ。

えほ、、ごほ、、げぇぇ」


首を少し傾けると、玉座は健在だった。

安心したのだろうか?

安堵の息が口から漏れ出る。


「・・・・・」


言葉は出なかった。

が、口から出る血は止めどなく流れ続ける。


安心?

誰に義理立ててるん?

ここをウチに任せたんや、アイツらはもうここには戻ってこんやろう。


まぁあれか・・・・・。

見捨てられたんやろな、嫌、売られたっちゅーんが正解か。


・・・・よく言えば、殿やな。


自嘲気味に息と血液が溢れる。

もう顔を上げる気力もなく、頭を垂れたまま、視界の途切れた右目から滴り落ちる、ぬめっとした赤黒い液体をかすれながら機能する左目で見ていた。


ただの血やないな。

・・・あかん。

ウチ、今日死ぬんかな?


・・・・死ぬんやな。


眠気にも似た脱力感が女の全身を包んだ。


頭部からも血が伝い顎の先から、地面にボトボトと滴り落ちる。


煩わしい。


だが拭おうにも腕が動かない。

ダランと垂れた腕。

指一本動かせない。


もどかしい。


意思とは関係なく、今だに涎と血が混ざった液体が口から大量に流れ出たまま止まる気配はない。


右目の液体も、勢いは収まったとは言え、まだ何かを垂れ流している。

残った左目からは温い、血とも違った液体が流れ落ちた。


これは涙なん?

悪魔でも・・・・泣くもんなんやな。

他の奴らが知ったら、ようけ馬鹿にしてくるかも知れへん。


ガラガラと瓦礫となった壁が崩れ落ち。身に降りかかる。

だがその痛みは可愛いものだった。


「油断するな〜。

魔王の四柱がこれで終わるはずがないから〜」

「ああ」

「はい!!」

「おう!!」


別に聞き耳を立てていた訳ではないが、どうでもいいような、やる気を大幅に削がれる、覇気の全くこもってない号令が聞こえる。

周りの有象無象はその号令に応え、これまた意味もなく、何やらわいわいと盛り上がっていた。


何を勘違いしているのだろうか?

この【勇者】という生き物は・・・・。


あかん、、思考が回らへん。

どうにもこうにも。


もうとっくに終わってるちゅーーーーーねん!!!


お手上げや!!!!

よんちゅうゆーてもウチの役割は争い事の外やねんて。

それなりに戦闘能力はあるかも知れへんけど、他の三魔と比べたら、ウチの戦闘能力なん、控えめに言って「ゴミ」や。


勇者の一撃なん食らって爆散しなかったん、褒めてほしい位やわ・・・・。


「ゲホッ・・・グヘ」


あかん、、意識飛ぶ。

余裕で飛ぶ。


・・・・・せやな。


もう、一思いに殺してくれへん?

ウチ、苦しいのは嫌やねん。


言葉にならない。

項垂れた頭の目線では、視界に【勇者】を捉える事は出来ない。

近づいて来る【勇者】の気配からは、表情をよみとる事は出来なかった。


これでは、死を懇願するのでさえ難しい。

そんな馬鹿な事を考えてしまう。


「なあ、悪魔」


勇者のボロ靴が女の肩を、冷酷な声色が精神を踏みつける。

その力は徐々に強くなっていき、薄れはじめた、今にも飛びそうな意識を強引に留めた。


糞なんか

お前ぇ・・・・・。


自分の情けない考えが読まれたかのような、羞恥心と自分が今されている行為に対する憎悪と嫌悪感がドス黒い感情となって腹の辺りをぐるぐると回る。

だが睨もうにも身体は言う事を聞かなかった。


勇者の左手が真っ直ぐ伸び、人差し指が女の脳天に触れた。


「・・・と・・・さ・・すな・・・ん」


人を指でさすなて、親に言われんかったん?

育ちがでるで。

つむじあたりに嫌な感覚を覚えたので、まず間違いなく、勇者はウチを指さしているのだろう。


デロデロになった肉体はようやくスキルのおかげで再生を初めていたが、肝心の魔力は何故か身体から蒸気のようになって消えていく。

女は項垂れていても、自身の身体が感じる様々な変化から、もう自分の命に先がない事を悟り始めていた。


・・・・・あかんやつや。


『僕・・、俺の一撃で肉片にならないなんて・・・。


流石悪魔。


気持ちが悪い。


血みどろの気色の悪い醜態を晒して、何がしたい訳?

再生はしてるけど、中身はもう、空っぽだ、もう8・・9割・・・死んでるだろ?』


勇者の言葉?声?が頭に直接流れてくる。


「・・・・・」


『まだ死んでへんわ!!

気色わる。

直接脳に話しかけて来んなや!!』


勇者の指がピクッと震え、ボサボサ頭の向こうの目が少しだけ見開いた。


『驚いた・・・一瞬で解析?

理解したのか?

そんな状態で。

あはははは、面白い。

実に、愉快じゃないか!』


先程とは違い、心に響いてくる声の具合と違って勇者の表情に変化はなかった。

口角が上がることも、引き攣ることも無く、ただ無慈悲に女を見据えていた。


『念和の応用やんな?

テレパス、テレパシー?

超能力やったっけ?』

『・・・・・まさか。

・・・・・お前?』

『・・・・予想通りやんな。

【勇者】

お前も、アレか?

転生、、もしくは転移者?』


『・・・・・。

正解、俺は転移者だ。

正解しても商品は無い。』

『この状況で商品もろーて何が嬉しん?

もうあかんやろ、ウチ?

助かる見込みも・・・・なさそうやし。』

『も、って事は・・・・もしかして、お前も?』

『・・・・ウチは、転生のクチや。

内側から魔王を、この魔王軍を滅ぼす為に転生させられてん。

人類の脅威を滅ぼせ的なやつや。』


・・・・やけど。

何や?


『・・・へぇそうだったんだ、ならもっと早く言ってよ。

【あれ】の思惑に巻き込まれた者どうし、助けてあげられたかも知れないのに。』


・・・思惑。


『言えるわけないやろ!

問答無用やったやん!!』

『悪即斬だっけ?

あの漫画読んだ事ある?

俺はそれにのっとっただけだよ。

実際、魔族共の言い分を聞いてたって無駄に時間消費するだけだろ?

魔王を退治する。

効率的に考えたら、サクッとレベルを上げて、サクッと魔王を倒すこれが一番じゃない?

待っているのは、平和な世界で普通に平和に過ごす、リッチなスローライフ。

俺はその為だけに頑張ってるんだ。

今は前の世界と同じ、ブラック企業の延長線みたいな生活を送って身も心もすり減ってるけど、この状況を乗り切れば!!』


理想の生活を力説する勇者は饒舌で早口だった。

グイッと頭に触れる指の力が強まるのを感じる。

今こいつの表情は、少しだけかも知れないが、口角を上げているに違いない。


『そない生活、本当に送れると思うん?』

『・・・・どういう意味?』

『よくあるやん、魔王を倒した後、化け物じみた力を持つ【勇者】という存在を持て余したただの人間がどういう行動をとるのか?』

『ああ、前の世界じゃラノベ好きの隠キャだったからよく知ってるよ。

でも、必ずそうなる訳じゃないし、僕が会った王様は少なくてもそういう事をする様なクズ人間には見えなかったよ。

家族思いのいいお父さんって感じだった。

でも、君にはどれも関係無い話だ。

もう、死ぬんだから。

・・・ああ、ごめん。

殺したのは僕か。』


背筋、もう使い物にもならない肉体に悪寒が走る。

感覚があればサブイボの一つでも出来るのを実感できたかも知れない。


『・・・やっぱりやな』

『何が?

・・・・やっぱりなの?』

『君、人殺しても何にも思わないタイプの人間やろ?

実際、ここに来てから、もう何人か殺しとる。

自分の整合性をもたせる為だけに。

今、君がいるこの世界、ゲームか漫画の延長線か何かと勘違いしてへん?

自分に都合が悪くなったらリセットできる思ってんのとちゃうん?』

『・・・・・思ってないよ。

それに殺したのは、僕に敵意を示した、人間だけ、盗賊とか、暗殺者とか・・・。』

『この場合のリセットの意味は、殺し、殺人、虐殺やな。

ここにウチを転生した奴も本質を見誤まったんやな。

【勇者】の中身を』


『・・・・・・。

・・・・・。

・・・。


ああ、君のおかげでいい事思いついたよ

僕は、僕のスローライフを永遠に楽しみたいんだ。

飽きる事多分無い。

だって、君の言う通り、飽きたら滅ぼしてリセットすればいいんだし。

そうだ。

魔王も生かしておこう。

適当に人間を間引いてもらって、それがいきすぎたら僕が止める。

手を組んでもいいけど、そんな事したらアレにバレるだろうし、面倒臭いから、それにご褒美も貰えなくなる。

何かいいアイデアはないかな?』

『ご褒美?』

『アレは自分が作った世界なのに直接関与出来ないんだ。

だから、魔王を討伐する為に僕らみたいな存在をこっちに送っている。

言うなれば、僕もアンタも被害者ってわけだ、元の世界で死んで、楽になってたかも知れないのに、無理やりこっちに送られて、だから僕はこっちにくる条件として、何かしらの結果を出したら、チート能力を一つ追加してくれって頼んだんだよ、お陰で今は6つのチート持ちだ。

君のところの魔王なんて僕が本気を出したら、1分もかからずに殺せるよ、君と違って。』

『・・・・』

『俺、効率厨なんだ。

でも、礼を言わなきゃかもね、4柱である君を倒せば7つめの褒美を貰えると思う。

その時貰うのは、【不老】にするよ。

アレってけちだよな、なんで不老不死じゃないんだろう?

意味分からないよ。


まぁ、俺は滅多な事が無ければ、死ぬ事は無いだろうけどね。


これで、俺は永遠のスローライフへの切符を手に入れることが出来る。』


魔王を倒さない勇者、、、。

しかも、なんの冗談や。

こいつは、その魔王でさえ平気で利用する気でいる。

自分の都合が悪くなれば、自分の守べき存在である人間すら滅ぼしかねない。

こいつの方がよっぽど【魔王】やんか!!


ブチュ


「うぇ・・・汚っ

洗ったら、落ちるかこれ?」


勇者はその血を払うように足を揺らす。


勇者は仕事をした。

仕事を見届けた勇者のパーティメンバーは各々勝利を喜び歓喜の声を上げる。

重要なのは。

仕事をしたという事実だ。

4柱の一角を討伐。

これで彼は、アレからの報酬である【不老】を手にする事になる。

それは人類にとって何の始まりを意味するのだろうか?


女の頭は引き千切れ、首からは夥しい量の血が溢れ出ていた。

敗者の姿は見るも無惨な姿のまま捨て置かれる。

ただ、彼女の左手の中指だけは動かぬ筈の身体の割に、彼女の最後の意志を表現していた。







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