チートもよこさないくせに1人で魔王を倒せとかコンティニューは7回までとか鬼畜仕様すぎると思うんだが
「チャンスは残り3回です」どこか楽しげに声は告げた。
なんで楽しそうなんだ。こいつが目の前にいたら殴りたくなるんじゃないかと思う。
こんな超常の存在に、殴る顔があるかもわからないが。
あと3回──もう5回失敗していることを考えると、かなり厳しい。
だいたい、なんで全部で8回なんだ?
こういうのって、普通は全部で3回とか10回とかじゃないのか。
しかも1回の挑戦に掛かる時間が長すぎる。
この前が3年半、最初なんか5年近く掛かってるんだ。
まあ、失敗しても、ここに戻ってくれば時間が巻き戻るらしいが。
ここ──真っ白な空間。霧が立ちこめてるとかじゃないのに、何も見えない。
あの声もどこから聞こえてくるのかわからないんだよな。
女の声に聞こえるから、女神か天使じゃないかと思ってるんだが。
「次の方針は決まりましたか? それでは6回目の挑戦です。頑張ってきてください」
また声がして、目の前が真っ暗になった。
決まりましたかと訊いておいて、返事しないうちに送り出されるのも、もう慣れた。
ったく、女神だか天使だか知らないが、一般人に魔王を倒せとか言って異世界に放り込むとか、頭沸いてんじゃないのか?
俺は大卒3年目のサラリーマンだぞ? 格闘技も武道もやったことないぞ?
魔王倒すのは勇者の仕事だろ? 俺が勇者だってんなら、せめてチート能力よこせよ!
なんて考えてるうちに、目を覚ました。
あの白い世界を出ると、毎回、寮の自分のベッドで目覚めることになる。
この世界での俺は、サガット・ブレイズ。田舎男爵家の三男って肩書きを持ってる。
家にいても穀潰しにしかならないから、魔法の才能もあることだし、王都の騎士団入団を夢見て養成学校に入ってきたって設定らしい。
俺に与えられた役目は、3年半後に復活する魔王の討伐だ。
随分昔に討伐されたという魔王は、復活すると眷属を増やし、勢力が十分大きくなったところで近くの街に攻め入って、そこを本拠にする。
そいつが3年半後に復活するんだとさ。
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1回目の時は、魔王がどんなもんかもわからなかったので、剣も魔法も結構使える魔法騎士になって騎士団に入った。
この体には特にすごい力はないが、成長力というか、訓練すればしただけ力が付くという素質は持っているらしい。
騎士団に入ってからも努力を続け、一端の魔法騎士になった。
それで、魔王討伐軍に入れられたんだが、所詮は騎士団の1人でしかなく、魔王と対峙することもなく魔王軍との戦いで死んだ。
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2回目は、騎士団に入っちゃまずいと気付いたので、養成学校を出た後、冒険者になった。
そんで、魔王の噂には気を付けていたんだが、結局、ある程度勢力が大きくなるまで気付けなかった。
ていうか、あのレベルの軍勢相手に1人で挑むとか、自殺志願者だろう。
結局、本拠の街に潜入して暗殺するしかないって結論に至ったんだが、潜入した途端あっさり見付かってプチッと潰された。
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3回目は、冒険者になった後すぐ、2回目の時に本拠だった街の近くを調べた。
魔王の勢力が街を襲った時、街近くの森から出てきたことから森の中を調べて、復活した場所にアタリをつけてから、養成学校で魔王討伐軍の編成を進言してみた。
結論から言うと、無駄だった。
田舎貴族の三男風情の言葉なんぞ、誰も聞いちゃくれない。
ましてや、その時の俺は一介の冒険者だった。
騎士の養成学校を出て冒険者になるのは、騎士になれなかった落ちこぼれって認識だからな。そんな奴の言葉、誰が聞くかよって話だ。
結局、2回目と同じく暗殺しに行って潰された。
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4回目は、復活直後のまだ大した力のない魔王を狙うことにした。
3回目で復活する場所の目星を付けておいたから、復活しそうな時期にその辺りで待ち構えた。
ある日、祠とも言えないような小さな石の周りに輝く魔法陣が現れ、光が収まると、頭の脇から水牛みたいな角の生えた男が立っていた。
身長は2メートルくらい、青い肌で筋骨隆々、目が赤くて口元から牙が覗いている。
鎧や武器の類は身に着けておらず、腰蓑みたいなのだけ。
やっぱり復活直後を狙ったのは正解だったと思いながら、魔法で炎の球を打ち出してみたが、当たったと思った瞬間に消された。
雷も水も消え、足下から土の槍を突き出しても、ただの土に戻ってボロボロと崩れてしまった。
どうやら、奴の体の周りには、魔法を無効化する結界みたいなものがあるらしい。
剣で斬りかかってみても結界に止められる。
だが、少しわかった。
まず、魔王は復活後1時間くらいは、その場から一歩も動けないらしい。
それと、魔法を消す結界と剣を受け止める結界は別物で、同時には張れない。
魔法を撃った直後に斬りかかると、剣を人差し指の爪で受け止められ、左の抜き手で胸を貫かれて終わった。
だが、結界が二種類あるとわかったのは収穫だった。
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5回目は、復活場所を事前に潰すことを考えた。
養成学校に、収納系の空間魔法が得意な奴がいる。
そいつは、攻撃魔法も身体強化魔法も使えなくて馬鹿にされているが、空間魔法は学校一だ。
警戒心が強くて苦労したが、荷物持ちとして便利だという評判があったので、そっち方面で接触し、なんとか同行してもらえた。
戦闘能力のない者を連れていく関係上、復活より早く行かざるを得ない。
彼女は収納したものを出した後、ある程度動かすことができるので、ドロドロに溶かした鉛を坩堝ごと収納してもらい、復活場所の石の上に出してドバドバ掛けてもらった。
彼女は、王都から何日も掛けて遠くの森まで連れ出した挙げ句、石に鉛を掛けただけで帰るという奇行に首を捻っていたが、代金をきっちり払ったから納得して1人で帰ってくれた。
魔法陣が出る辺りを鉛で固めたら復活しないんじゃないかという期待はあっさり砕かれ、魔王は何事もなかったかのように復活した。
魔法陣から奴の姿が見えた瞬間に魔法を撃ち込んでみたが、魔法陣に阻まれる。
ならばと剣で斬りかかってみても、魔法陣にはね返される。なんだよガチンって。鉄でも殴ったみたいだ。
魔法陣が消えるまでは魔法も剣もはね返せるらしい。魔王より魔法陣の方が優秀じゃないか。
こうなると、もう消化試合だ。俺に勝機はない。
結局なすすべもなく殺されてしまった。
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そして、今回、6回目。
次に試すのは、魔法と剣の同時攻撃だ。
漫画みたいに、剣に魔法を纏わせて斬るとかやってみようと訓練してはみたが、そんなことはできなかった。
となると、誰かと手分けするしかない。
他人を巻き込むことはしたくなかったが、やむを得まい。
考えてみれば、失敗したら巻き戻るんだから、気にしなくてもよかったかもしれないな。
雷魔法が得意な奴と組むことにして、連携を磨き、養成学校を出た後2人で冒険者になった。
そして、復活した魔王に雷魔法を連続で浴びせてもらい、俺が全力で突っ込む。
魔王は、魔法を消す結界を持っている。剣を止める結界もある。だが、両方同時には張れない。
ならば、同時に両方をぶつければどうなる?
予想は当たった。
雷魔法を結界で防いだ魔王は、背後からの剣を止めることができず、傷を負った。
これならいける、と思ったところで、結界に阻まれた雷魔法の余波を食らってしまい、動けなくなった。
こうなると、もうどうしようもない。
剣を掴んで引っ張られ、裏拳で吹き飛ばされた。
最期の「逃げろ」という言葉は、相棒に届いただろうか。
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「チャンスはあと2回です」
なんだか、本当に声が嬉しそうだな。
しかし、魔王に接近戦を挑もうとすると魔法の余波を食らうというのは厄介だ。
物理攻撃も遠距離でやる必要がある。
俺は、5回目の時に組んだ空間魔法使いともう一度組むことにした。
相変わらず空間魔法しか使えない彼女は、周囲から馬鹿にされていた。
「俺と組まないか?」
「何企んでんの? 私を笑い者にしようってこと? それとも囮にでもするつもり?」
今回もまたガードが硬い。
「俺は、君の空間魔法に可能性を感じるんだ。
騙されたと思って訓練に付き合ってくれないか?」
「騙されたつもりでなんて言われて、騙されるバカはいないよ。
2人きりになったところで、何しようってわけ?」
「じゃあ、こうしよう。
俺が言ったとおりのことができるか、1人で試してみてくれ。
それができたら、俺に見せてほしい」
俺は、ナイフを空間魔法の力場で包んで的に向かって飛ばすよう言った。
的の直前まで加速させてから魔法を切れば、慣性で飛び続けるのではないかと。
うまくいけば、攻撃魔法を使えない彼女にとって、強力な武器になる。
そして、俺にとっても、遠隔の物理攻撃の手段となる。
彼女に物理攻撃を任せ、俺は雷魔法を磨く。
彼女が納得してくれることを信じて、俺は雷魔法に絞って訓練した。
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「あんたの言うとおりできた!」
満面の笑みで彼女がやってきた。
「そうか! じゃあ、次は抜き撃ちに挑戦だ!」
「ぬきうち?」
彼女が不思議そうに言う。
「まず、ナイフを空間収納しておくんだ。それで、出すと同時に飛ばす。慣れてきたら、自分から離れた場所からも撃てるようにする。相手の背後とかな」
「なるほど。それは、普通の攻撃魔法ではできないやり方だな」
攻撃魔法は、自分を起点にしか撃てない。
投げナイフも当然そうだ。
だが、空間魔法なら、本人から離れたところから飛ばすことができる。
こんな攻撃ができたら、彼女にとっては大きなアドバンテージだ。
「そうだ。君の空間魔法には可能性がある。
これは攻撃魔法の代わりなんかじゃない。君だけの新しい攻撃魔法なんだ」
「私だけの…」
「君がこの力を使いこなせるようになったら、俺に力を貸してほしい」
「私の、力?」
「俺には、やらなきゃいけないことがあるんだ。
卒業してからの話になるが、君の力を貸してほしいんだ。
できれば、それまでは連携の訓練も付き合ってほしい」
「雷魔法の名手って言われてるあんたが? 私なんかの力を?」
「なんかじゃない。君の力は、誰にも真似できないものだ。
頼む、力を貸してくれ。君の力が必要なんだ」
「私が、必要…。
ねえ、あんたはいつ、こんな空間魔法の使い方を思いついたわけ?」
そうか、今まで接点のなかった俺から、自分でも思いつかなかった使い方を指摘されたら、不思議に思うか。
「実習で君の魔法を見たことがある。力場を動かしたのを見て、あれを高速で行えば慣性で飛ばせるんじゃないかと思ったんだ。
俺は連射できる遠隔物理攻撃のできる奴を探していた。
君の魔法は、まだまだ応用が利くと思うんだ」
「わかった、協力する。
だから、一緒に使い方を探してくれないか」
こうして、俺は今世での相棒を見付けた。
彼女は、その後、俺と一緒に訓練するようになった。
「いくぞ!」
的の脇に水球が現れ、的に向かって飛ぶ。
的に触れる瞬間、力場が解かれて水がはじけ、的に掛かる。そこに俺が雷を飛ばすと、雷は水を伝って的全体に降り注ぐ。
「うまくいったな、サガット」
「ああ、呼吸もぴったりだった」
彼女の攻撃はバリエーション豊かになった。
水を力場で包んで飛ばすことも、視界の範囲内で好きなところで収納から出すことも、時間差で2本のナイフを飛ばすことも、自由自在だ。
ナイフが刺さると同時に、ナイフに雷魔法を当てるなんて連携もできる。
魔王と戦うんだ、せめて彼女が逃げる隙を作れるくらいには戦えないとな。
そこからは、練習と金稼ぎを兼ねて、2人で魔物の討伐などもやってみた。
そうやって実績を積み重ねれば、彼女を馬鹿にする者などいなくなっていた。
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ペアは順調で、卒業しても2人で組んでいる。
冒険者として、順調に実績を積み上げてきたが、それももうじき終わるだろう。
魔王復活の日が近付いてきた。
彼女に事情を話しておかないのは、不誠実だな。
「もうじきこれまでの成果をぶつける日がやってくる」
「なんのことだ?」
「君に声を掛けた時のことを覚えているか? 俺にはやらなきゃならないことがある。
信じられないかもしれないが、もうじき魔王が復活する。
俺は、そいつを倒さなければならないんだ」
「なぜ魔王の復活がわかる? 噂も聞いたことがないじゃないか」
「俺はそのために生まれたからだ。
そのこと自体は信じてくれなくてもいい。
ただ、君との連携を磨いてきたのは、奴に勝つためなんだ。
頼む、力を貸してくれ」
「サガットが言うなら、どこにだって行くさ。
どのみち、死ぬ時は一緒だ」
「ありがとう。よろしく頼む」
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万全に準備を整えて、森に入る。
「作戦どおりで頼む。
もし通じなかったら、すぐに逃げてくれ」
「死ぬ時は一緒だと言った」
今回の作戦も魔王には通じないかもしれないから、その時は逃げろと言ったら、嫌だと返された。
卒業してしばらく一緒に行動するうちに、彼女は時折こういうことを言うようになった。
彼女の場合、信頼できる相手というのは確かに貴重なのだろうが、少しばかり行き過ぎな感がある。
俺にはもう一度チャンスが残っているし、死ねば巻き戻るのだから、ここで彼女が死んでも影響はないんだろうが、気分的にそれでは寝覚めが悪いのだ。
「無駄死にはするな」
「無駄死にはしない。きっと役に立ってみせる」
だから、そういうことを言ってるんじゃないんだ。
と、言い争っている間に魔法陣が輝きだした。
ともかく、全力で戦うしかない。
光が消えるのを待って、魔王に雷魔法を放つ。
俺の雷と同時に、彼女から剣が飛ぶ。
細く薄い、刺すことだけに特化した剣を力場で包み、更にその後ろを、同じく力場で包んだレンガが追う。
魔王の結界で剣の力場が消えても、その後はレンガを使って剣を押し出す仕組みだ。
さすがに慣性だけでは、魔王に刺さらないだろうと考えての二段構え。
これならレンガは結界まで届かないから、押し続けられる。
その間、俺は連続で雷を放ち、対物理の結界を張らせないようにする。
魔王が歩けないうちだからできる手だ。
「刺さった!」
「よし、次だ!」
魔王に抜かれないように背後から剣を刺した。
続いて、彼女の前に赤い球が浮かぶ。
俺の雷と同時に着弾したその球は、結界に触れると同時にはじけて魔王に降りかかる。
こいつは、4回目の時に使ったのと同じ、溶かした鉛だ。
力場が結界で消されても、鉛は慣性で飛んでいく。
いくら魔王でも、数百度の鉛を食らってノーダメージってわけにはいかないだろう。
位置取りを変えながら、同じ攻撃を続ける。
二撃目、三撃目。
五撃目から、魔王は対物理の結界に切り替えた。よほど鉛が脅威なんだろう。
そりゃそうだ。既に奴の両肩は鉛で固められて動かない。
剣で斬りかかれば、もう爪で止めることもできないんだ。
だからこそ、対物理の結界を張った。
けど、対物理の結界ってことは、雷浴び放題ってこった。
彼女にはまばらに攻撃してもらって、雷を撃ち続ける。
雷も多少は堪えたと見えて、また対魔法の結界に戻した。
すると、今度はまた鉛が襲う。
下半身を中心にして、足を縫い止める。
そろそろいいか。
奴の背後に回って、最初に刺した剣に雷を撃つ。
結界の外に出てる剣を通してなら、結界も役に立たない。
結界が対物理になったら、直接魔王に当てるだけだ。
やがて、結界も張れなくなったのか、どっちも当たるようになった。
馬鹿の一つ覚えのようだが、有効な攻撃を当て続けるのが一番効果的だ。
そのうち、魔王はぴくりとも動かなくなった。
用心しつつ、背後から近寄って最大威力の火炎の魔法をぶつける。
魔王の体は燃え上がり、黒焦げになった。
半分鉛に埋もれた首に剣を刺し、斬り裂く。
鉛で抑えられてるから落ちないが、確かに首を切断できた。
魔王の最期にしてはあっけないが、復活したての弱い状態を狙ったからな。
というか、これで倒せないようなら、もう俺には打つ手がない。
あと1回チャンスはあるが、何をすればいいか思いつけない。
「ふう」
ホッとしたら力が抜けて、地面に座り込んでしまった。
正直、立ち上がれないほど消耗している。
魔王が死んだフリをしていたら、俺は死ぬな。
「サガット、大丈夫か?」
彼女がそばに来て、手を差し出した。
「大丈夫だ。魔力使いすぎて立てないだけだ。
君は魔力は大丈夫なのか?」
「私は、入れているものを出しただけだからな。
大して使ってない」
「よかった。
君のお陰で勝てた。ありがとう」
礼を言ったら、変な顔をされた。
「ちょっと待て、なんだその別れの言葉みたいなのは!?
まさかこれでペア解消とか言い出すんじゃないだろうな!?」
別れの言葉?
「いや、純粋に礼を言っただけだが。
ずっとこいつに勝つ方法を探してたからな。
君がいてくれなかったら、絶対に勝てなかった」
「私でなくても、サガットならどうとでもできただろう」
「魔法以外であれだけの熱を使う方法なんて思いつかなかったよ。
君と組めて、本当によかった」
「で、次は何をするんだ?」
言われて気付いた。魔王を倒すことだけを目標にしてきたから、その後のことは考えてなかった。
「考えたこともなかった。こいつを倒すために必死だったからな」
「言っておくが、私はお前以外と組む気はないぞ。そのつもりで考えてくれよ」
「うん?」
「まさかこれで終わりとか思ってないよな?」
「あ、いや、本当に何も考えてなかったんだ。
まず、勝って生き延びるのが優先で」
負けたら、死んでやり直しだからな。
「わかってるんだろうな、私は今後もお前と組むって言ってるんだぞ」
そうか。彼女を巻き込んだのは俺だしな。終わったから、はいさようなら、というのも変か。
そういえば、失敗して死んだらやり直しだが、勝ったらどうなるのか聞いてなかったな。
「とりあえず…」
「とりあえず?」
「祝杯でもあげるか」
言うと、彼女が吹き出した。
「そうか、そうだな。
後のことは、また2人で考えるか」
彼女に引っ張り上げられるようにして立ち上がると、彼女が笑った。
「それで、いつになったら私を名前で呼んでくれるんだ?
まさか知らないとか言わないよな?」
「呼んだことなかったか? お前の名前は…」