お金は天下をまわるもの?(タマゲッターハウス:童話の怪)
不思議な雰囲気の洋館の物語。
このお話は『小説を読もう!』『小説家になろう』の全20ジャンルに1話ずつ投稿する短編連作です。
舞台や登場人物は別ですが、全ての話に化け猫屋敷?が登場します。
洋館の中で僕がみつけたのは女の子のぬいぐるみだ。
それは少し変なぬいぐるみだった。
なにしろ、立ち上がって喋りだしたんだから……。
公式企画:冬の童話2023の参加作品です。
「はじめましてでございます。ご主人様。ふつつかものでございますが、よろしくおねがいでございます」
ボクの前であいさつしたのは、女の子の形のぬいぐるみだった。
おとといからボクは、じいちゃんの屋敷をかりて、一人ですむことになった。
じいちゃんの家は、町からはなれた森の中にポツンと立っている。
とても古い家で、町の子どもたちにはオバケやしきのように思われている。
ボクが家の中をかたづけているとき、見つけたのがこの人形だ。
じいちゃんはむかし、せかいのいろんな国でたびをしたらしい。
家の中には、じいちゃんがあつめたへんなものがある。
かべにかかった絵とか、たなにおかれたツボとか。
このぬいぐるみ、少しホコリがついていたので、きれいにしたところだ。
するとぬいぐるみが少し大きく……ようちえんの子どもくらいの大きさになった。
そしてしゃべりだしたのだ。
「……いや、なんなんだ。キミは……。それにゴシュジンサマってだれ?」
「もちろん、あなたさまでございます」
「キミ、『人をゆびさすな』ってお父さんやお母さんに言われたことはない?」
「わたくしを作ったマスターからは、言われてないでございます。ゴンザブロウさまには言われましたでございます。もうしおくれました。わたくしはヒルデガンド・フォン・ミアーノ。ようせいでございます」
「そうなんだ。ボクは瀬潟 四郎だよ」
「シロウさまでございますね。ひょっとしてゴンザブロウさまのごしんせきでございますか?」
「瀬潟 権三郎はボクのおじいちゃんだ。足が弱ってきてるから、今は町のおじさんの家にすんでいるよ。キミのことはヒルダってよべばいいかな」
「はい。かまわないでございます。ゴンザブロウさまからはミアとよばれていたでございます」
「じゃあ、ボクもミアとよぼう。ところで、まほうつかいみたいなかっこうだね。ミアは、まほうはつかえるの?」
「よくぞきいていただけました。ミアは、まほうでネコをよぶのがとくいでございます」
「やめてくれー。この家はネコがよりついてこまっているんだ。町の人からはバケネコやしきってよばれているよ。かってにあつまってきて、夜もうるさいんだよ」
「あら、おこまりでございましたか。それではミアのまほうで、しばらくネコがこないようにしておくでございます」
「おお、それはたすかるな。で、ほかに何ができるんだい?」
「そうですねぇ。シロウさま、紙のおさつを一まいかしてください」
「ん? おかね? まぁ、いいけど。もやしたりよごしたりしないでね」
僕はサイフから千円さつをとり出して、ミアにわたした。
「ミアのとくいのまほうをお見せするでございます。ミアちゃんマジック・カネふぶき~」
千円さつが何十まいにもわかれて、ミアのまわりをとんでいる。
つえを下すと、たくさんの千円さつがミアの足もとにあつまった。
「このまほうをつかえば、あっというまに大金もちでございます」
「にせさつを作るのはわるいことだよ。もとのおさつはかえしてくれ。まほうで作ったお金はけしといてね」
「シロウさまは、まじめなかたでございますね」
「まぁ本当にお金にこまったら、たよるかもね。ミアはなるべくこんな力は見せないでくれ。ミアがわるいやつにねらわれそうだ」
「べつの人がいるときは、ぬいぐるみになっているでございます。ほかにもミアは、風を動かすことができるでございます」
「それじゃあ、そうじをてつだってもらうかな。にわに、おちばがたまっているんだよ」
「かしこまりましたでございます」
ボクはミアをつれて、家のにわに出た。
けさ、はきそうじをしたばかりなのに、おちばがもうたまっている。
キリがないな。
「ミア。これなんだけど、まほうでどうにかできるのか」
「おまかせくださいでございます。ミアちゃんマジック・おちばふぶき~」
ミアがつえをクルリとまわした。
にわのまん中で、つむじ風がおきた。風がおちばをまいあげる。
つむじ風がクルクルまわりながら、にわのあちこちをそうじした。
つむじ風はにわをいっしゅうして、おちばをもってミアの前までもどってきた。
風がおさまると、ミアの前におちばがつもっていた。
「おお、これはすごい。やるじゃないか。ミア」
「おそれいりましてございます」
ボクはおちばの山を見て、思いついたことがあった。
「なぁ、ミア。もってくるものがあるから、ここでちょっとまってて」
ボクは家にもどってサツマイモとアルミはくをもってきた。
「シロウさま。それはおイモですか?」
「ミアは見たことないのかな。サツマイモっていうんだ。ヤキイモにするとおいしいんだよ」
ボクはサツマイモをアルミはくでつつんで、おちばの中に入れた。
おちばにマッチで火をつけた。
たき火のまわりをミアのまほうの風でつつんでもらった。
ボクとミアは、あたたかいたき火にあたった。
しばらくして、ヤキイモがやけたようだ。
ゴミひろいでつかうトングで、アルミはくのつつみをとり出した。
アルミはくをやぶると、ほどよくやけていた。
「シロウさま。とてもいいにおいでございます」
「じゃあ、これはミアのぶん。あついから気をつけてね」
ミアにヤキイモをわたす。「あち、あちち……」とか言いながらも、おいしそうに食べていた。
ボクも自分のヤキイモをほおばった。
あまさが口の中にひろがっていく。
やっぱり、やきたてはおいしいな
ボクはたき火をけして、後片付けをした。
どうぐをかたづけていると、きゅうにミアに立ちどまった。
「ん? どうした?」
「シロウさま、ミアはそろそろ時間切れでございます。今日はとっても楽しかったのでございます。また会いましょう」
ミアのからだが小さくなって、ころんところがった。
ミアはぬいぐるみにもどったみたいだ。
ボクはそっとぬいぐるみをだいて、口についたイモのかけらをとってあげた。
ボクはぬいぐるみをもって家にもどった。
そして、おうせつまにあるピアノの上にのせた。
後でじいちゃんに電話してミアのことを聞いてみようかな。
あ、じいちゃんのところにミアのぬいぐるみをもってってあげよう。
ミアは「また会いましょう」とか言ってたな。
また会えるといいな。ボクはそう思ってた。
だって、その時のボクは何もわかってなかったから……
その日の夕食をよういしている時、「おなかすいたでございますー」と言いながら出てくるなんて、思ってなかったのだ。
また会えたのはうれしいけど、早すぎないか?




