誘導尋問
私の世界は着色を始めた。
あの人を依存させ屈服させたつもりが、私が依存していたなんて。
ー 鬼百合家 夜 ー
たった100年です。こうしてはいられません。
料理のレパートリーを増やさなくては!・・未来の話っすよ?
そうだ、洗濯を!・・1人分なので意外と楽。
掃除をしましょう!・・100年も家が持たないっすよ?
私の中の自堕落が正論を武器に襲い掛かってきます。
今は話し相手が欲しい。
自分自身の人形遊びも寂しさは紛れなくて、ただ空しい。
燃料ケースの注ぎ口から直飲みで補給。
銀のケースに銀の液体。ちょっと私の世界は明るくなっていた。
再び玄関のチャイムが鳴る。
正直スマホがあるのだからオンラインで話してほしい。
いや今の顔を見られたくないからマイクのみの会話で。
立っているのは財布様?
「おーい、チョコケーキ買ってきたぞ!一緒に食べないか?」
「私ってチョコケーキキャラって思われてます?今開けますから」
玄関から居間へ。財布様は元は緑髪ですが私の眼には銀に見えます。
ファンタジー世界のゲームに出てきそうなコートを羽織っているのに、
タイツは肌が透けている。寒くないのでしょうか?
「エアコンも付けて無いじゃないか!
トレンチコート着てきて正解だな」
「ハレンチコートの間違いでは?タイツも薄い素材のようですし」
やれやれ、と首を振る財布様。残念そうに私に語る。
「こいつはフェイクタイツ。そう見えるだけで実際は1200デニール。
つまり見て目に反して暖かいんだ」
「すいません。目に見えるもの全てが色を無くしてしまったのです」
「ふむ、機械ではなく心の方だな。まっ、一応チェックはするさ」
メンテナンスハッチを開いたり、目をライトで確認した財布様。
確かバイク以外は分からないのでは?
「なるほど分からん!」
腕組みながらドヤ顔で言うセリフではありません。
「少し厄介なことになってな。
レンジ君は火力不足
リリ君は目標達成後の喪失感
君は極度の自己嫌悪だ。これが意味するところは1つ!
私の利益の大幅減だ!!!」
「なるほど、私が立ち直って武器を買ってくれと?」
こんな時まで商売とは恐れ入ります。
でも神話級武器は百合アンメイデンがありますので。
「君だけの戦力など雀の涙だ。これから選択肢を与えよう。
1、レンジ君の火力不足で彼はヒーローから引退
2、1を回避するためリリ君がレン君とパートナーにして戦う
3、ハボタン君が悪の組織に鞍替えする
4、3人が協力するハッピーエンドのどれにするかい?」
「1はありえますね。
2は不死や機械でもないリリ様が戦場に出るには危険すぎます。
3は論外。あの人と戦っても私はおろか、通常兵器では倒せない。
4の結果はどうあがいても無理でしょう。私も考えましたが」
「質問を変えようか。実現可能か不可は置いておいて
君はどの選択肢を選びたい?」
「4番です。ただしリリ様を戦いに巻き込む気はありません」
少なくとも財布様は逆転する手段を知っている。
私が思いつかないような方法で。
「どうだ?XN-VRグラス、いやメイドグラスを使ってみては?
4の選択肢ならハボタン君とレン君のペアが必須だからな」
「分かりました。それでは」
「ン待ちたまへ!!君が真に願っているのは2番!
人であるリリ君なら殉職するからな。
そうなれば自然とレンジ君は君のもとへ戻ってくる」
「!!!!」
人差し指をビシィと私に向けながら財布様は揺さぶりをかけます。
多分2番を選べば失望して私のもとを去るでしょうね。
「鬼百合ハボタン!メイドグラス!メイドモード!!」
??。幾何学模様の紋章が出てきません。故障でしょうか?
「あはははは!覚悟無き者がメイドになれると思うなよ?
友を救えず、恋敵を見殺しにする野心が芽生えた君では使えないさ」
「っ!悔しいですがその通りですね。あの人の事を笑えない立場です」
「昼間のレンジ君の戦い見るかい?君なら何かわかるはず」
映像で見るレン様1人の戦い。
百合スカリヴァー鞘の制御すらできず、
掃除機とスプレー缶で悪戦苦闘。
何より私との連携前程の立ち回りですから、隙が大きすぎる。
勝ちはしたものの、こんなの長続きしません。
「へへ、俺1人でも何とかなるもんだ。
そうだ、ハボタンにチョコケーキ買ってやんねーと。
本気だせばこの状況をひっくり返してくれそうだし。
最後かもしれないのに、何で人に頼ってるんだろうな俺は」
あの人は泣きながら町のほうへ歩き出しました。
さっきまで泣いてる素振りなんて見せなかったくせに。
自分が無力と分かってる上で、私に頼ろうとやせ我慢して。
最後ぐらい本心を!!・・これは私もですね。
「さて、メイドになれないハボタン君。
こんな状態の彼からリリ君を奪ったらどうなると思う?」
「・・・・答えたくありません。
全てあなたが仕組んだこと。
リリ様があの人の電話番号を知っていた事、
スキャンダルをリークした件。これなら納得ができます。
この質問も結局は財布様の欲しい回答、4番へ行くための誘導尋問。
恐らくリリ様にも似た質問をぶつけるのでしょうね」
「4番に関してはレンジ君の離婚届が受理される明後日、
月曜朝10時が最速のタイムリミット。
回答はXXXXXXXXXXXXXXXXだ」
正気を疑いました。確かにこの方法なら3人のハッピーエンドです。
月曜朝が最速という理由も納得できますし、
それ以降でも形式は変わりますがこの回答を成立させれます。
「100年なんて待たずとも結果は出します!あの人を!
レンジ姉様達と共に過ごす未来を!!」
眼から見える世界は色を取り戻しつつある。
私の描く結論とは少し違いますが、姉様が笑顔ならそれでいい。




