1話 〜オレの名は〜
初めてなろうに投稿します!
いろんな素晴らしい作品の箸休めに読んでいただけたらな。と思います。
「痛ってえええぇぇぇっ!!!!」
オレは力の限り、叫びを上げた。
凄まじい激痛が身体を駆け巡る。自身に何が起きているかがさっぱり分からない。指の一本も動かせないような痛みに、ただただ困惑し、耐えている時、声が聞こえた。
「い、生きてる!!!!」
声の主の方に目を向けると、両手を胸に当て、信じられない。といった表情でオレを覗き込んでいる。
「よかったぁ……。急に空から人が降ってきて、動かなくなったから、死んじゃったのかと思ったよ」
心配そうな顔をする少年は、ホッと胸を撫で下ろす。そして立ち上がり、俺に向けて言った。
「それじゃ、僕は行くね」
「待てい!!!!!!!!!!!!!」
思わずツッコんでしまった。
だってそうだろう?あれほど心配そうな顔をしていた人間が、それじゃ、行くね。ってあまりにも切り替えが早過ぎないか?
「わっ!!!」
少年が驚いた声を上げる。
今度は両手を口元に当て、またも、信じられない。といった表情で俺を見た……。なぜ驚いているのか、理由がわかった。
なんと、オレの身体が光に包まれているのだ。
「なんだ……これ?」
オレ自身も驚いている。オレはなぜ痛みで目が覚めたのか、なぜ今光に包まれているのか。わからないことだらけだ。
ただ、一つだけわかることがある。
「痛みが、消えた……?」
光に包まれたオレは、身体から一切の痛みが消え去っているのである。それどころか、身体中に力がみなぎる。
指一本動かすことができないと思っていた身体がとても軽い。
「ひゃっほーーーーい!!サイコー!!!」
叫びを上げ、オレは辺りを走り回る。
「ほぇ……」
少年が目を丸くしてポカンとオレを見つめていた。
ひとしきりはしゃぎ回り、一息ついたところで少年がオレに尋ねてきた。
「あの、今の光は一体なんでしょうか?」
少年はオレに起こった現象が気になるようだ。
「今のは、『ツッコミをすると元気になるスキル』だ」
………………。
オレは何を言ってるんだ?スムーズに受け答えをしたが自分でも何を言っているのかが分からない。
「は?」
少年が何言ってんだこいつ。と言った表情で見てくる。そりゃそうだ、オレだって何言ってんだ。と思ってるし……
「や、変なことを言ってるのは自分でも自覚してるんだが、そうとしか言えないんだ」
頭のおかしなやつだと思われただろうな。
「おかしな人ですね、見たところ、この辺の人ではなさそうですし……どこからきたんですか?」
「分からん、どっからきたんだオレ?」
どこからきたかも何も、ここがどこだかすら分からない。
「じゃあ名前は?」
「分からん……」
困ったな、誰なんだオレは?
「じゃあさっきの光は?」
「『ツッコミをすると元気になるスキル』」
これは分かる。
「えっと、あなたはどこから来たかも自分が誰かもわからない『ツッコミをすると元気になるスキル』を持つ人ってことですか?」
「そうなるな!」
少年は両手で頭を抱えている。
こいつ、胸、口、頭って両手をどんどん上に上げてるな。次はバンザイでもするんじゃなかろうか。
「うーーん、どうしよう。困ったなぁ、記憶喪失っぽいしこのまま放っておくのも気が引けてきたな。ほんとは置いていきたいけど……」
さらっとひどいこと言われてる気がする。
「あ!!!思い出した!!!!」
身体に電気が走るような感覚がした。
「ほんと!?これで置いて帰れる!!」
置いていかないで、話を聞いてくれ。
「聞いてくれ、さっきの『ツッコミをしたら元気になるスキル』は、オレが持つスキルのうちの一つなんだ」
オレの中に情報が流れてくる。
「オレは毎日ランダムで100個のスキルが使える『スキル福袋』っていうスキルを持ってるみたいなんだ。」
「なにをバカなことを、そもそもスキルってなんですか?」
いや、俺もそれは分からん。
「スキルについては俺もよく分からん、でもそうとしかいえないんだよ!!そうだ、俺がさっき空から降ってきたって言ってたよな、無事だったのは『どんな高さから落ちても怪我しないけどめっちゃ痛いスキル』のおかげなんだよ!」
多分、その痛みで気を失いかけたんだと思う。
「はぁ……、その話は半分くらい信じるとして、結局あなたはどこの誰かは思い出せたんですか?」
「まっっっっっったく思い出せない、逆に君はどこの誰なんだい?」
何も分からないまま置いていかれたらたまったものではないので、なんとか話をつないで引き止めよう。
そして、できたら面倒を見てもらうんだ。
「僕はこの山に住んでる、カナタと言います。これから、仕事に行かないといけないので、それじゃ」
「へー、カナタか!これからよろしくな!」
オレはニコニコとしながらカナタについて行く。
「何ついてこようとしてるんですか!?僕はこれから仕事へ行くんです!忙しいんです!」
カナタと名乗る少年は、オレを振り払うようにして山道を進んでいく。
「待ってよカナタくーーーーん、ほらオレスキルいっぱい持ってるからきっと役にたつよ!連れてってよ!」
自分でも悲しくなるくらいの必死な自己アピール。そうでもしないと、右も左もわからぬ場所に放り出されて即、野垂れ死に!!なんてことに……それは絶対嫌だ!
「僕の仕事は、山のキノコを採ることです。そんなことに役立つスキルなんてないんじゃないですか?」
冷たい目線を向けてくるカナタ
「うっ、ま!待て!あるから!きのこ採取に役立つスキルが沢山あるはずだから……!!」
頼む、『スキル福袋』よ!きのこ採取に役立つスキルがあってくれ!!
自分が誰なのかもわからない、けれどなぜか、『スキル福袋』についてだけは、感覚でどういうものかを理解していた。
「ふっ……」
オレはニヤリと笑う
「カナタくん、キノコ採取に必要なスキルあったよ。『毒の有無を完璧に見分けるスキル』これでどうだ!」
「………」
カナタは無言でこちらを見つめてくる。
しまった!キノコ採取で生活してるんだ、毒キノコの見分けなんてカナタだけでもできるはずだ。
「本当ですか!?ほんとに毒の有無を完璧にみわけることができるんですか!?やったーーー!」
カナタは両手を上げて喜んだ。
「バンザイした!!」
やっぱり、両手がどんどん上に上がっていった!
「……?」
不思議そうにこちらを見るカナタ
「なんでもない、気にしないでくれ」
「ふふふ、『毒の有無を完璧に見分けるスキル』なんていい響きなんだ!これで、見た目で判断できないレアキノコが取り放題!やった!やった!」
ふふふと笑い出すカナタ
「じゃあ、ついていってもいいんだね!?カナタくん!!」
「もちろん!それに、カナタくんじゃなくてカナタでいいよ。えーーと……僕は君をなんて呼べばいい?」
そういえば、自分の名前、わからないんだった。
「カナタが決めてくれ、任せるよ」
この地域の人につけてもらったほうが、それっぽい名前になるだろうし。
「えぇっ!?僕が決めるの!?じゃあ……天から降ってきたから"テンタロー"で!よろしくね!テンタロー!」
オレの名はテンタローになった。
「こちらこそよろしくな、カナタ!オレの『毒の有無を完璧に見分けるスキル』は一口齧ればどんなものでさえ見分けることができるぜ!!」
「…………は?」
カナタが険しい表情をする。
「一口齧ればって……そんな判別方法じゃ意味ないじゃないかぁ!!」
「確かに……」
これは一本取られた。
「もー、期待して損した。でもまぁ、ついてきていいって言っちゃったしなぁ……。しょうがないかぁ」
こうして、オレ、テンタローは見知らぬ場所でカナタと行動を共にすることになった。
何もかもがわからないことだらけだが、ただ一つだけ言えることがある。
カナタについて行けば、なんだかんだ面倒を見てくれそうなので、絶対に逃したくない。