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「ウェンディ様っ、大変です!すぐに来てくれませんか!」
そう1人の男性が、ウェンディの元にすごい勢いで駆け寄ってきた。
彼の名はハンス。全身に火傷を負い痛みで眠ることすらできずに弱るだけだった彼だが、今や火傷の跡形もなく快調そのものだった。
別にウェンディは名前を覚えるつもりもなかったが、毎日のように話しかけられることで嫌でも住人たちの顔と名前を覚えてしまった。
ウェンディは狼狽えながらこちらに来たハンスを見て、うんざりした。
また面倒なことがおきたと。
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一体、何が起きているのだ。
「この、ガキを殺されたくなかったら、食料と薬をありったけ出せ!」
目の前にいるのは、人間に比較的近い個体もいるが、全身が体毛に覆われていたり頭部が熊そのものだったりと、外見に動物的な特徴を持つ者たちだった。
ウェンディは実際に見たことは初めてだったが、亜人に分類される種族だろう。
ちなみに亜人とは、ドワーフやエルフのように比較的人間に近い種もいるが、外的に動物と同じような特徴を持つ獣人であったりと、そのような人間ではない種族の総称として使われている言葉だ。
チラキアウス帝国ではほとんど見かけない(ウェンディが家に引きこもっていたからかもしれない)が、隣国のアンドーア王国では被支配階級として位置づけられていた。
熊だろうか。
全員身体のどこかに熊のような特徴ある。
そんな熊獣人10人ほどの集団の1人が、ロランダの街の子供を人質に取り、こちらに食料と医薬品の要求をしているのだ。
「ダンっ!」
あれは、アンナの弟のダンだ。
ダンは幼さ故、最初は自分の身に何が起きているか分からなかったのだろう。
知らせを聞いて飛んできたアンナと母親の叫びを聞いて、急にえぐえぐと泣き出した。
「近づくなっ!」
ダンの母親が一歩踏み出そうとしたが、ダンを拘束している頭部が熊の獣人が叫んだ。
「ウェンディ様っ、一体どうしたら……」
その場に膝から崩れ落ちた、アンナとダンの母親は縋るような声でウェンディへと呼びかけた。
大変だ。
これは本当に面倒なことになった。
ああ、このままこんな面倒なことは放っておいて、ベッドへと戻り今すぐ目を閉じたい
暖かな部屋で微睡が来るまま眠り、温かい布団に包まれたい
「…………はあぁぁ」
ウェンディは大きく深いため息をついた。
ロランダに来てから、ウェンディのため息の深さは更新されるばかりだ。




