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嫌な予感程的中するものだ。


猛スピードで移動する馬車は、ロランダの街の方へと巨大な魔物を引き連れ、移動してくる。


「お前らっ!戦闘の用意をしろっ!」


そうマルグが熊獣人の男たちへと大声で呼びかけた。

ロランダの街の住人たちはもうパニックだ。子供の泣き叫ぶような声や、逃げろと呼びかける大声が響き渡る。


「戦いの準備って、……マルグ、1つ聞くけど。あれ、……倒せるの?」


そう珍しく額に脂汗を浮かべるウェンディは尋ねた。

心のどこかでマルグがいつものようにからかうような余裕の答えをとると思いたかった。

 


「……………正直、……俺たち……だけじゃ」


唇を強く噛み、そう悔しそうに振り絞った声で、マルグは答える。


……ああ。……やはり。

あんな巨大な魔獣を10人にも満たない戦える熊獣人だけで倒すことは不可能だろう。

 

少し考えてみたが、ウェンディが加わり、魔法を使って応戦しても結果はそう変わらない気がする。




――ここで、死ぬのか。痛いのも辛いのも心底嫌だが、これでもう面倒事は終わるのか……――


 

この渦中の中、そんな諦めを含んだ考えが頭を過った。





 

「……ウェンディ。逃げろ」




そう聞こえた言葉に思わずウェンディは、呆気に取られてぱっとそちらに視線を向けた。


なぜか普通であれば絶望でしかないこの最中であるのに、マルグは笑っていたのだ。


「……俺さこんなだけど、……ほんと……は死ぬことがめちゃくちゃ怖くてさ」


苦笑いを浮かべながらも諦めと切なさを浮かべた表情で、ごつごつとした右手をウェンディの頬にそっと添える。


「たくさん……アンドーアにいた時、目の前で多くの仲間が死んだ。俺はあいつらの頭だってのに、そ、……それを助けることも、埋葬してやることも。俺は何もできなかったんだ」


自嘲するようにマルグは吐き捨てた。

 


「……そんな役目も果たせない俺のくせにって思うだろ?……それなのにな。……あの時さ、あのまま。……お前が助けてくれず、死んでたと考えると今でも怖くて怖くてたまらなくなる」


そしてそっと添えた頬を一度だけその大きな手に見合わず優しい力で撫でたのだ。


「……でも今、なんでかな。……お前のために死ぬのかと思うと怖くないんだ」


そう言って、ししっと歯を見せて笑って、ウェンディから表情を隠すように一歩前へ踏み出した。


どういうことだと疑問を問いかけようとしたウェンディの声はかき消された。



「俺たちだって!」

「ウェンディ様っ、俺たちのガキや家内をお願いします」


そう後ろから聞こえる声に振り向くと、熊獣人の男性だけでない。

ハンスを含むロランダの街の男性たちが、あの巨大な魔物と立ち向かうにはあまりに頼りない剣や槍を持って揃っていた。







***





ウェンディは理解できなかった。


私のために死ぬのが怖くない?

この男は一体何を考えているのだ。ウェンディは一度も感じたことのない感情が心中を支配する。


なんで到底かなわないだろう相手にそうまでして戦おうとするのだ?


理解できない。分からない。無駄死にだろう。


面倒、面倒、面倒くさい

ああ、こんな理解できないやつらのことを考えることが面倒くさくてたまらない。






面倒、面倒面倒。

これだから他人と関わることは面倒なのだ。


ロランダに来た日々全て、無かったことに。

これまでの出来事がいつものベッドの微睡の夢であればどれほど良かったか。



今からでもいい。早く夢なら覚めてくれ。


 

家にいた時のように。

誰からも相手にされなくてもいい。ノーラン家のあの部屋のベッドの中に戻りたい。





自分は、父のように偉大な軍人ではない。

母のように卓越した魔術師ではない。


英雄のように、ウェンディ1人ではロランダの街も皆もその身ひとつで守る事などできないのだ。



 

叶う事なら、今すぐにでもなりふり構わず我先にと逃げ出してしまいたい

 

  



ウェンディを守るように目の前に立つ、マルグやハンス、熊獣人とロランダの男たち


彼らがウェンディの足を、体を止める。

心は逃げないと面倒だと叫んでいるのに。




ああ、だからこそ面倒なことはこれだから大嫌いなの


 

 


私のために死なれても面倒だ

お前たちの家族や友を任せられても面倒だ


何よりも顔や名前を覚えてしまった存在達に、今目の前で死なれることが一番面倒なのだ

















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