01
生きることはとても面倒くさい。
生きることも面倒だが、死ぬための行動を起こすことも面倒だ。
空腹も面倒、痛みも面倒、貧乏も面倒。
何も起きずに、満腹になり、静かな部屋で、ただただ柔らかな布団で眠っていられたらどれだけいいか。
人と関わるのは面倒だ。
しかし、生きていくには最低限はそれをしていかなくてはならない。
他人と揉めることも面倒だ。他人と揉めるくらいなら自分が折れてしまった方が楽である。
そんな風に生きてきたら、とうとうこんな所に来てしまった。
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チラキアウス帝国の東に位置する国境の地ロランダ
つい最近まで隣国のアンドーア王国との戦場となった場所である。
その長い争いに決着はつかず、両陣営ともにこれ以上の争いは大きなマイナスになると捉え、半月前ようやく長らく続いた闘いが終わり、2つの国は和平協定と不干渉協定を結んだばかりだった。
このロランダという地は、豊かな森が近くあり、大きな川沿いに位置し、かつては両国の国境の街として多くの人々が行き来する街だった。
しかし戦場となったことで、街は破壊され今やかつての面影を見ることができない程荒れ果ててしまっていた。
そんな地に一人訪れたのが、ウェンディ・ノーラン。
ノーラン家はチラキアウス帝国の一貴族である。そして、王家からこのロランダという地の管理を任せられたのだ。
ノーラン家は優秀な人材揃いで、一家の大黒柱の父は軍の高官としてその腕一つで名をあげ、母は卓越した魔術師であった。
長男は自領をしっかりと納め発展させ、長女は国有数の公爵家へ嫁ぎ公爵夫人であるし、次男は軍で魔法戦士として活躍し、文官として働く三男は博識としてその頭脳を生かし、三女は美しいと評判で婚約の申し込みが後を絶たない。
ノーラン家の次女のウェンディを除いて、名の知れた一家であった。
そんな中で次女のウェンディはというと平凡な顔立ち。そして、極度の面倒くさがり屋であった。
24歳を超えても婚約の話もなく、働くわけでもなく、日がな一日家にこもっていた。
王家からの命のため、断るわけにもいかないが、将来有望な子供たちにこの荒れた土地の管理を任せることに承服しかねた両親は、無為徒食のウェンディをこの地に派遣し、領主をやらせることに決めたのだった。
ロランダに着いてからは、終戦後一時的にこの地を管理していた文官から彼が生活をしていた拠点の案内や引継ぎの説明をされる。
引継ぎといっても荒れ果てたこの地には道行く人の姿もなく、全壊や良くて半壊している建物ばかりだ。
彼も何もないこの力から一刻も早く王都へ戻りたかったのだろう。
ウェンディの到着後、一気に引継ぎをした後、足早にこの地を去っていった。
ウェンディを置き、走り去る馬車が見えなくなるまで、その場に立ち途方に暮れる。
「ああ、……なんて面倒なのかしら……」
その言葉が口からこぼれずにはいられなかった。