建国祭
夏休みも終盤になったころ、俺はグリトに誘われて明日の建国祭に行くことになった。
建国祭は毎年8月1日から3日間開催されている祭りで、1000年近くの歴史があり毎年開会式閉会式に王族や多くの貴族が集まる大きなお祭りだ。
明日は建国祭の最終日で、最後に花火が上がるためそれを見ようと、グリト、リン、エリネとお祭りに行くことになった。
「こっちこっち~」
少し離れたところで聞きなじみのある声が聞こえてきた。
「悪い、少し遅れた」
「それにしても人多いですね」
「そりゃ年に一度の大イベントだから、各地から大勢の人が来てるんだ」
「ところでエリネはまだ来てないのか?」
「エリネさんなら両親の手伝いがあるらしくて、3時間後にうちの屋台に来てほしいって」
「エリネの家は飲食店だから毎年屋台を出してるんだってよ」
「ならとりあえず3人で回るか」
「そうですね」
俺たちはエリネとの待ち合わせまでの時間を屋台をまわってつぶすことにした
「リューヤは祭りで何するかとか決めているのか?」
「俺は初めて来たから何があるかも知らないし、特に決めてないな」
「まじかよ!この祭りに参加したことなかったなんてもったいないぜ」
「グリトは毎年祭りに参加しているのか?」
「もちろん!屋台がたくさん出てうまいもんがたくさん食えるからな」
「リンも毎年来ているのか?」
「うん、毎年行ってるところがあって」
「じゃあ今年も行ったの?」
「今年はまだ行けてなくて」
「でも平気、別に絶対行かないといけないわけじゃないから」
リンはそう言いつつも少し悲しそうに見えた
「なら、今から行ってみる?」
「そうだな~リンが毎年行くところって少し気になるし」
「なら・・・」
そう言ってリンが毎年行っているというお店に行くことにした。
大通りを抜けて少し抜け道に入ったところだった
「ここが私の来たかった場所」
フラワーショップ『ダリナ』看板にそう書いてある
「お花屋さんってこと?」
「そう、このお店建国祭の時にだけ貴重な花の種子を売っているの」
「いらっしゃい」
そう言って店の奥から一人のおばあさんが出てきた
「お久しぶりです」
「あらリンちゃん、今年も来てくれたのね」
どうやら二人は相当顔見知りのようだった。
「今年もありますか?」
リンが尋ねるとおばあさんは店の奥に戻り小さな袋を持ってきた
「はい、いつものダリナの種子だよ」
そう言って小さな種の入った袋をリンに渡した
「ありがとう」
「咲いたらまた見せに来てね」
「はい」
リンの買い物を終えて俺たちは店を後にした。
「その花は何か特別なものなのか?」
「ダリナは手入れがとても難しくて咲かせるのが困難な花なの、しかも咲くまで何色の花が咲くかもわからないの」
「私は初めてこの花を咲かせたときのダリナの美しさに魅了されてしまって、それからは毎年買いに行くようになったの」
「なるほど、じゃぁその花が咲いたら俺たちにも見せてくれないか?」
「もちろん、ぜひ見に来てください」
「そういえば、そろそろ集合時間じゃね?」
グリトに言われ時間を確かめる。
「よし、ちょっと急ぎ目で行こうか」
俺たちはペースを速めてエリネの屋台に向かった。
「あら、そろそろ来る頃だと思っていたわ」
そう言って頭にバンダナをまき、両手にピックを持ったエリネがいた。
「うちは毎年たこ焼きを出してるの」
「うまそ~」
「ちょっと待っててみんなの分作るから」
そう言うとエリネは手際よくたこ焼きを作っていく。
「おまち!」
たっぷりのソースとマヨネーズに、青のりと鰹節の乗ったたこ焼きが出てきた。
「うめぇ~」
グリトは瞬く間に食べ切った
「たこ焼きの味もそうだし、エリネの作る腕前にも驚いたよ」
「まぁこれでもかれこれ6年やってるからね」
「とりあえず今焼いてるやつでうちの仕事は終わりだからちょっと待ってて」
エリネはグリトにもう一皿たこ焼きを渡して仕事に戻った。
「おまたせ~」
エリネは10分ほどで仕事を終わらせてきた
「お疲れ様です。」
「よし、じゃあさっそく祭り楽しも~」
そう言うとリンの手を引いて人混みに入っていった
エリネはここ二日うちの仕事を手伝っていた分ここで発散したいのだろうと思った
「俺たちも行くか」
そう言って彼女たちの後を追った。
「悪い、俺少し休んでるわ」
人の多さと熱気にやられうえ、エリネとグリトの怒涛の食べ歩きに付き合った結果、気分が悪くなったので、3人と別れ花火の時間まで人の少ない広場で休むことにした。
ある程度体調も回復してきたころ一人の青いドレスを着た女性がこちらに向かって歩いてきた。
王家や貴族なども出席しているため決して不思議な格好ではないが、日も暮れたうえに人の少ないこの場所に一人で歩いているのは何だか不自然に思えた。
俺はじっと彼女を見つめていた。
「あっ!!」
彼女が近くを通り過ぎたとき俺は見覚えのあるその顔につい声を出してしまった
人のいない場所がゆえに、俺の声はかなり響いた。
彼女もその声を聴き足を止め振り返った。
俺はその顔を見てはっきりと確信した
「アリア・ローズ?!」
銀色の髪に青い瞳の彼女は間違いなくアリア・ローズだった。
彼女は少し立ち止まったものの一言も発することなく歩き始めた
銀色の髪が月光に照らされ一段と輝いていたが彼女の背中には少し悲しさを感じた
それから俺はグリトたちと合流し花火を見た。
「これを見ると夏休みもおわるんだな~って感じるぜ」
「そうね、うちも毎年これを見て夏休みの課題やらないとって思うわ」
「夏休みはあと一週間ですよ?」
「みんな夏休みの課題終わらせてないのか?」
「私は、終わってますよ」
「グリトとエリネは?」
「・・・・・・」
「これは二人とも明日から課題漬けの日々だな」
「リューヤ手伝ってくれるよな?俺たち友達だろ?」
「リン、私のこと助けてくれるよね?」
俺とリンは顔を見合わせて笑った
「まぁすこしだけな」
「そうですね」
こうして花火とともに、夏休みは幕を下ろしたのだ。
なお、残りの1週間は二人の課題に付き合わされた
2学期が始まるとすぐに俺たちは魔法競技大会に向けて準備を始めることとなった。