持たざる者の仮説
「よし来たな、さっそくついてきてくれ」
そう言われゲントに連れられて鍛冶屋の裏手にある演習場に来た
「あの的を相手にお前の剣技を見せてほしい」
演習場には数体の的が立っていた
「武器はこれを使え」
そう言って俺は一本の長剣を渡された
「その剣は俺が作った魔剣で、剣の切れ味を向上させる魔法が織り込まれている」
「ただ、切れ味が向上する半面雑に扱えばすぐに刃が砕ける仕組みになっているまさに諸刃の剣だ」
「お前にはその剣を使ってここにあるすべての的を切ってもらう、制限時間は10分だ」
俺は受け取った剣を眺める。
何の変哲もない剣にしか見えない
やはり、魔力のない人間には魔剣かどうかの見分けすらできないらしい
「準備はできたか?」
「いつでもいけます」
「ではテスト開始だ」
俺は開始の合図とともに目の前の的に切りかかった。
正直この程度の的であれば普通の剣で切れるため魔剣の魔法など必要ないそう思っていた。
「カーン」
演習場に金属のぶつかり合ったような音が響き渡った。
「ど、どうして」
俺は困惑していた。
完ぺきに近い一太刀で切りかかった的に刃が全く通らず弾き返されたのだ。
「なんで今ので切れないんだ」
その後何度か切りかかるも弾かれ続けた
「実はその的には特殊な魔法を織り込んでいて、お前に渡した魔剣の切れ味では絶対に切れないようになっている。要は、魔法を使わなければその的は切れないということだ。」
「どうしてそんな仕掛けが」
「魔剣を扱うには剣だけでなく魔法を扱う能力も必要だからだ」
俺はその場で立ち尽くした。
俺は正直自分の剣技だけでこのテストは合格できると思っていた。
まさか魔剣の魔法を発動させなければ絶対に合格できないとは考えてなかった。
「リューヤ、魔剣を発動させるんだ!」
テストを見学していたグリトが言った
「分かってるさ」
それができればとっくにしている、ただ俺には魔力がないからできないんだ、俺はそう心の中で嘆いた。
ただ、俺にはまだ一つだけ考えがあった。
要は魔法を発動するには二つの事をクリアすればいいのだ。
一つ目は魔法を発動しようという意思、二つ目は必要分の魔力を注ぐこと
一つ目に関してはそこまで難しいことではないく、今回の場合は俺が的を切りたいと思い続ければいいだけ、ただ二つ目に関しては仮説の段階で上手くいくかは分からない。
けれど、もうやるしかないので俺はいつか必ず切れるときが来ると願って、ひたすら的を切り続けた。
制限時間が近づいてくるもあきらめずひたすら切り続けた。
そして開始から8分経過したときだった。
スパーンと突然的が切れたのだ。
一個目の的が切れた時点で魔法が発動したことになる。俺の予想が正しければ魔法が発動しているのはほんの一瞬だろうと思い。
これを機に俺はすぐさま残りの的を切り倒し続ける。
最終的に制限時間ギリギリのところで無事、的をすべて切り倒すことができた
「よくやった」
そう言ってゲントが近づいてくる
「どうでしたか」
「合格だ」
そう言われ俺はほっとしてその場に座り込んだ
「正直途中で無理だと思ったんだがな」
「なんとかギリギリでしたけど」
「確かにお前には素晴らしい剣技と胆力があることがわかった」
「じゃぁ・・・」
「お前に魔剣を作ってやる」
「よっしゃー」
俺はその場でガッツポーズをした
「詳しいことはまた後日相談することにしよう」
「それより、テスト合格の祝いに一緒に晩飯でもどうだ?」
「是非!」
こうして俺はテストを何とかクリアし、グリト一家と夕飯を共にした後、魔剣について相談しグリト家を後にした。
帰り道に俺は魔剣のことについて考えた。
まず、今日のテストで魔力のない俺が魔剣を使うことで魔法を使えるという仮説がほぼ立証できた。
俺は以前からこの仮説を持っていた。
魔剣を使うことで魔法発動に必要不可欠な魔法を構築する必要がなくなるため、あとは発動するだけだったが、魔法を発動に必要な意思を持つことはともかく、魔力の供給が最大の難所だった。
しかし俺は魔剣について調べていくうちにいくつか魔剣の特性に気が付いた。
その中でも以前起きた事故で子供が魔剣で暴走し、魔力欠乏症になったことに注目し一つの仮説ができた。
魔剣に限らず魔道具は魔力を吸い取っているのではないかということ。
そして、それは使用者に限らずあらゆるものから魔力を吸い取るのではないかということ。
この世界は人間以外の動物も植物も海や太陽などあらゆる自然のものに魔力がある。
だとすればもし魔道具の使用者が全く魔力を持たない場合必然的に近くの魔力を持つものから魔力を吸い取るのではないかと考えた。
もしそうであれば、魔力がなくとも時間をかければ魔法を発動できるのではないかと考えた
ただ、そう考えるといくつか疑問が出てくる。もし魔道具が周囲から魔力を吸い上げるのだとしたら、放置してある魔道具が魔法を発動してもおかしくないということ。
そこで俺は魔法発動に必要な意思というのが関わってくると思った。
魔道具は発動しようとする意志を感知して初めて魔力を吸い始めるのではないかと考えた。
そして今日、俺はひたすら切りたいという意思をもって魔剣を振り続け、その結果魔法は発動した。
とわいえ発動まで約8分かかったし、こんな方法で集められる魔力はほんの少しで実際魔法もすぐに終わってしまった。
この世界の人間は皆、魔力を持って生まれてくる。
だからこそ、このことはこれまで誰も気づかなかったのだろう。
ともかく、魔力のない俺が魔剣を使えることが判明したことで魔法学園卒業に大きく前進したと思う。
しかし、まだ改善や努力していかないといけない。
まだまだ先が長いと思いつつも、今までで一番軽い足取りで帰宅した。






