痕跡
魔獣を倒し切った俺の前にアリア・ローズが表れた。
「これは一体・・・」
彼女は大量の魔獣の死骸を見て、困惑した表情で言った
「魔獣の死骸だよ」
「君がやったのか?」
「いや、ほとんどは彼らが倒したんだ」
そう言って俺は重傷を負った二人を指さした
「俺は助けが来るまで彼らを見守っていただけだよ」
アリアは周囲の魔獣の死骸たちを見渡す
「このヘルタロスも彼らが…?」
「そうだ、メイサの魔法で仕留めたんだ」
「そいえば、君はどうしてここにいるんだ?」
「私はタナリアでサリドたちに会った。すごい青ざめた顔をしていて、事情を聴いたら森でヘルタロスに襲われて仲間とはぐれたと聞いて、それで助けに来たんだ。」
「なるほどな。」
「まぁ、とりあえずここはまだ危険かもしれないし彼らを担いでタナリアに向かおう」
「分かった。」
「お前、意外と普通なんだな」
「どういう意味?」
「なんていうか、普段のお前って友達とかいりませんとか、話しかけないでくださいオーラだしてるからもっと冷徹な奴だと思ってたんだよ」
「でも、今話した感じだと普通だったから」
「そう、でも私あなたと会ったのは今が初めてだと思うんだけど、どうして私の普段のこと知ってるの?」
「それは…友達から聞いたんだ、お前有名人だしな。」
「ただ、そいつの言ってたことは噂に過ぎなかったってことだな」
「まぁ実際私はそうしてるし、彼の言っていたことも間違いじゃない。」
「私はこの学園に強くなるために来た」
「だから友達なんていらない、誰かとなれなれしくするつもりもない。」
アリアはそう言ってメイサを抱きかかえて歩き始めた。
そこからタナリアに着くまで、俺たちは一言も会話を交わすことはなかった。
「リューヤ!!」
そう言ってグリトとエリネが走ってきた
「無事でよかったよ…」
「グリトたちも無事でよかった」
俺はリンが周りを見てもどこにもいないことに気づいた
「リンはどうした?先に来ているはずだけど…」
「リンなら向こうで寝ているよ、かなり体力を消耗してたし」
「そうか」
俺たちが無事帰還できた安心しているときだった
「君が、リューヤ・アリウス君だね?」
そう言って一人の男が声をかけてきた
「そうだけど」
「ちょっと君に聞きたいことがあるから来てもらっていいかな」
言われるがまま俺はその男に連れられてタナリアにある王国魔法軍の聴取室に入った。
「初めまして、私は王国魔法軍第二大体のガイスです。」
「君にはさっきキルツ森林で起きたことについて話を聞かせてほしい」
「君以外はまだ話を聞けるような状態じゃなくてね、でも私たちも何が起きたのか早急に調査しなければならないんだ。だからぜひ話を聞かせてほしい。」
「分かりました」
俺はキルツ森林で起きたことについて話した。
3日ほど雨が降り続いた影響で、俺たちは4日後に王国魔法軍同伴のもとマルテール王国首都マルテールに帰還した。
「まさか、ヘルタロスとかいうあの魔獣を倒しちゃうなんて…うちには到底無理だわー」
「やっぱりAクラスはすげーな」
エリネとグリトが口をそろえてそう言った
「ちょっといいですか?」
リンに小声で呼ばれ俺たちは皆から少し離れて話をした
「ヘルタロスって、リューヤさんが倒したんじゃないんですか?」
「それに、周囲にいた魔獣たちもAクラスの人たちが倒したことになってますけど…」
「そのことなんだけど、ヘルタロスは調査の結果コアが魔法によって破壊されていたんだって」
「それって」
「メイサの魔法をくらった時点で死んでたってことだな」
「でも、それ以外の魔獣は…」
「リンが助けを呼びに行ったのと入れ違いでAクラスの人が助けに来たんだよ、その人が魔獣を倒したんだ」
「そうだったんですね」
「おーい二人とも早く来いよー」
グリトに呼ばれ俺たちはそこで話をやめた
「今いくよ」
そう言ってグリトたちのもとに戻った
そのまま何事もなく俺たちはマルテールに到着した。
―――― 王国魔法軍 第2大隊 バルツ隊長室 ――――
「昨日の魔法学園生徒の訓練中に起きたキルツ森林での事件についての報告します」
「キルツ森林で生徒たちはヘルタロスに遭遇。その後、半数は逃げ切れたものの残りの半数は森に取り残されヘルタロスと戦闘、メイサ・アルフートの魔法によってコアが破壊されたとのことです。」
「また、ヘルタロスに従属していた魔獣たちですが、助けに駆け付けたアリア・ローズによって討伐されたとのことです。」
「なるほど。」
「それと、派遣した調査軍が持ち帰った魔獣の死骸を解剖した結果いくつか不可解なことが分かったそうです。」
「不可解なこと?」
「はい。持ち帰った魔獣を解剖した結果すべての魔獣に切り傷のようなものが見られたとのことです」
「切り傷か・・・」
「それは以前ガラの森で起きたのと同じものか?」
「それに関しては何とも言えない状態です。死骸の腐敗がひどいため、以前のと同じかどうかまでは判定できなかったそうです」
「なるほど、ちなみにそれは本当に魔法によるものではないんだな?」
「報告書によりますと、魔法による切り傷にしては荒く、刃物などで切った際の断面によく似ているとのことです。ただ、腐敗の進み具合がひどく、何を使って切ったかまでは判定できないそうです。単純な刃物かもしれないし、魔獣の牙や爪などである可能性もあるとのことです」
「了解した」
「では、失礼します」
「魔法を使わず刃物で魔獣と戦う人間が本当にいるのだろうか・・・」