バルツ教官
魔法競技大会も終わりこれまで通りの学園生活に戻った頃。
「おはようございます。」
教室の前の扉からロイス先生が入ってきた
「突然ですが、皆さんには今日から実戦的訓練を受けてもらうことになりました。」
「これまでこのような訓練は1年次はA・Bクラスのみ、2年次にはC・D、3年次にEクラスと訓練の始める段階が分かれていましたが、この度学園の方針が変わり全クラスが今週から実戦を見据えた訓練を始めることになりました。」
「皆さんは今日の1限目から第3訓練場で実習を受けてもらいます」
「詳しいことについては担当教官から話があると思います。」
「では、遅れることのないように行ってください」
朝のホームルームが終わりさっそく俺たちは第3訓練場に向かった。
1限目開始のチャイムが鳴ると教官室から一人の男が出てきた。
服の上からでも鍛え抜かれた肉体をうかがえるほどだった。
「皆さん初めまして、私は王国魔法軍第2大隊隊長のバルツ・ウィーガーです。」
「今日から君たちの訓練の教官を務めます。よろしく。」
まさか、軍の隊長レベルの人が教官を務めるなんて思ってもいなかったので、クラス中が少しざわついていた。
「静かに、今から訓練に関する説明をする。」
「まず、どうして突然全クラスが実戦的訓練をする方針になったのかについて説明する。」
「ここ数年で魔獣の活動が活発になってきていることから、今後の魔法軍の実力の底上げをするためである。魔法自体は苦手であっても、特定のジャンルに特化した才能を持つものは多く存在する。」
「この訓練はその才能を発掘する訓練の内の1つである。」
「続いてこの前の魔法競技大会での事件については君たちも知っているだろう。その件では報道された通り他国が関わっていた。魔法学園が他国の標的の1つだとするならば君たち生徒が巻き込まれる可能性がある。そのため皆には最低限身を守る技術を得てもらう。」
「Aクラスのよう魔法に秀でた者たちよりも君たちのように魔法を不得意にしている者の方が狙われやすい、だからこそ魔法以外の抵抗手段を学んでもらう」
「大体の概要はこの通りだが何か質問がある人はいるか?」
「いないようだし、さっそく訓練を始める」
「まずは基礎体力作りをする。三分後に第1グラウンドに集まってくれ。」
第3訓練場から第1グラウンドまでは1000m近くあるため俺たちは急いでグラウンドを目指した。
俺は日課のランニングの甲斐あって楽々1番乗りで到着した。
その時には既にバルツ教官も着いていた。
それから全員が到着してからバルツ教官は話し始めた
「3分40秒か、君たちは私が3分で来るようにと言ったにも関わらずそれを40秒もオーバーした。なので君たちにはペナルティとしてグラウンド1周だ。」
休む暇なく俺たちは一周1500mのグラウンドを走った。
「いいか、今後も私の訓練では第3訓練場に集合した後この第1グラウンドまで3分で来るまでをルーティーンとする。もし間に合わない人がいたらその時はペナルティを課す。いいな?」
「そんなの、無理です。中には走るのが苦手な子もいるんですから」
一人の女子生徒がバルツ教官に異議を申し立てた。
「君たちは分かっていないようだから説明してやる。」
「この魔法学園は王国魔法軍の育成機関。いわばこの学園は王国魔法軍の一部であるということ。」
「そして私は王国魔法軍の隊長で、君たちの上官だ。上官が3分で来いと言ったら部下は従わなければならない。軍隊とはそういう場所だ。」
「隊の全員が予定通り動けなければ実戦では死者が出る。」
「しかし、死者が出るなんてことはあってはならない。だからこそ我々は統率力のために厳しく鍛える。」
「たとえ相手が学生だとしても手加減はしない。」
「この中には自分は将来自分は軍に務めるわけでもないし、などと思っている奴がいると思うがその考えは捨てろ。いいか?お前たちはすでに他国から標的にされ攻撃された。」
「次、いつ敵が攻撃を仕掛けてきてもおかしくないんだ。その時死にたくないのであれば私の指示に従いなさい」
魔法軍で隊長を務めているような人に「死」や「敵」などといった言葉はまだ16歳の子供たちからしてみれば脅しとして十分だった。
話が終わりさっそく訓練が始まった。
この日は基本的な整列の仕方を教わり、残りの時間でグラウンドを2周走らされ終わったものから終了という形になった。
俺はさっさと2周走り終えた。
「君、さっきも最初にグラウンドにたどり着いていたね?」
「そうですけど・・・」
「君名前は?」
「リューヤ・アリウスです」
「君が…」
「普段から体力作りとかをしているのか?」
「毎朝ランニングをしてます」
「そうか、なら君には次回から別の訓練をしてもらう。」
「まじですか?」
「上官の指示には従えとさっき話したと思うが」
「はい…」
「そもそもこれは基礎体力をつくるものだから、その基礎体力ができている者がやるのは意味がないんだ。」
「教えなければならないことはたくさんあるんだ、先へ進めるものはどんどん進んでもらう。」
「分かりました。」
「ただ、最初のルーティーンはやってもらうから忘れないように。」
こうしてバルツ教官指導の実戦的訓練が始まった。