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エリネの休日

うちの名前はエリネ・ノース、魔法学園の一年生です。

飲食店を経営している両親の間に生まれ小さいときからお店の手伝いをしている。


うちの将来の夢はこの店を継ぐことでその修行もかねて休日は開店からお店の手伝いをしている。


朝九時になるとうちは扉にかかった札をOPENにし、本日のおすすめメニューの看板を出した。


開店するとすぐに3人の男性客がやってきた。


「エリネちゃんおはよう」


うちの店は昔からの常連客ばかりでみんな顔見知りなのだ。


「おはよう!みんないつものでいい?」


そう言って用意しておいた3つのお弁当を取り出した。


この人たちは運搬業の人たちで毎日昼食用のお弁当を買いに来る常連さんだ。


「いつもおいしい弁当ありがとね。」


そう言って笑顔で店を出ていった。


それからは誰も来ない。


うちの店が忙しくなるのは基本的にお昼と夕飯時なのでそれ以外の時間帯にお客さんが来るのはそんなに多くない。


ましてや、午前中に来るのはあの三人しかいない。


うちは軽く店内の掃除をして時間をつぶしていた


「すみません」


入り口のドアを開けて真っ白なスーツに真っ白のハットを深く被った男性が立っていた


「いらっしゃいませ」

「お一人ですか?」


「そうです」


「どうぞお好きな席に」


その男性客は窓際のテーブル席に座った。


「お水です」


うちは少しその男性を眺めていた。


「僕の顔に何かついていますか?」


ハットを脱いで男性が言った。


「いえ、ただ珍しくて」


「僕がですか?」


「この時間はめったにお客さんが来ないので」

「それに、常連の人でもなかったので」


「そうでしたか、たまたま通りかかったら看板にあったカツサンドに目を引かれまして」


「そうでしたか、ではご注文はカツサンドでよろしいですか?」


「はい、お願いします」


うちは厨房へ行きおとうさんに注文を伝えた。


「お父さん、あのお客さん知ってる?」


「見たことない顔だな、この辺の人ではなさそうだな。」


うちはあの男をどこかで見たことがある気がしていた。


「こちらカツサンドです。」


「これは、とてもおいしそうですね。」


そう言うと男は一口カツサンドを食べた。


「今は旅行中かなにかですか?」


「まぁ、そんなとこです」


「ちなみにどこから来たんですか?」


「そんなに僕のことが気になりますか?」


「いや・・・そういうんじゃないんですけど・・・」


「冗談ですよ。僕はバルデ地方から来たんです」

「この王都マルテールに比べるとかなり小さい街ですね。」


「私も家族とバルデ地方に行ったことがあります。」


「そうなんですか?偶然ですね」


「ちなみに、お仕事とかは何をされているのですか?」


「そうですね…人助けってところですかね」


「人助けですか?」


「そうですよ。」


服装も相まって詐欺師のように見えてきた


「お嬢さん、次はあなたのことを僕に教えていただけますか?」


「うちのことですか?」


正直他にお客さんが来る気配もないしお昼までの時間つぶしならと思い、男の向かいの席に座った。


「お嬢さんお名前は?」


「エリネです」


「エリネさんですか、お年は?」


「16歳です」


「ということは魔法学園の一年生ですか?」


「そうです。」


「僕の知り合いにも魔法学園の一年生の子がいるんですよ」

「ただその子は僕に学園のこととか話してくれないんですよ。なのでもしよければ学園生活のことお話ししてもらえませんか?」

「悩みとかあれば聞きますよ」


「初めて会った方に相談事とかするのは…」


「初対面だからこそ普段言えないこととか言いやすいかもしれませんよ」


「そうですね・・・」


なんとなくこの人だったら愚痴の一つや二つ吐いてもいい気がしたので少し学園生活のことを話すことにした。


「うち、小さいときからあんまり魔法が得意じゃなかったんです。まぁそのことは別に気にしてなかったんですよ。」

「でも、学園に入ってすぐに3人の子となかよくなったんです。」

「その子たちはうちと同じで魔法が不得意でした、けど彼らは魔法以外に十分すごいものを持っていました。モノ作りが得意だったり、生物学に長けていたり、勇敢な心と頭脳を持っていたり、どれも魔法なんか関係のない才能です」

「うちは自分と同じように魔法が不得意な人と関わって初めて自分の無力さに気づいたんです。」

「うちはいままで魔法を上達させようと努力をしてきませんでした。将来このお店を継ぐし魔法なんて関係ないと思っていたんです。でも魔法以外のことでもこれまで頑張ってきたことなんてなかったんです。」

「彼らと出会ってそのことに気づかされて、うちこのままじゃダメだって。」

「でも、何をすればいいのかわからなくて・・・」


「なるほど。エリネさんは自分と同じ魔法の力のない落ちこぼれだと思っていた人たちが実は自分と違って別の才能を持っていることに嫉妬し、そのギャップに悩んでいるということですね?」


その男の言葉は辛辣ではあったが的確だった。


「かなりはっきりと言いますね」


「自分の弱さを再認識させるためです。」

「ただ、エリネさんは勘違いをしているようですね。」


「勘違いですか?」


「あなたは自分のことを分かってなさすぎです。」

「僕から見るとあなたはとても頑張っていると思います。」


「そんなことないです、うちは今まで頑張ってきたことなんてないですから」


「僕は先ほどこの店のロゴの入った紙袋を持った3人組とすれ違いました。」

「彼らからとてもやさしい幸せの感情があふれ出ていました。おそらく彼らはこのお店のお弁当を食べるのが楽しみで仕方なかったんだと思います。」


「僕は他人に幸せを配るなんてこと誰もができることとは思いません。」


「人間は自己中心的な生き物です。それゆえ自分の幸せのために他人を不幸にするなんてよくあることですしそれが人間の真理だと思います。」

「しかし他人の幸せのために自分を犠牲にできる人は多くありません。けれど、あなたのご両親はお客さんに美味しいものを食べてもらおうと、料理の仕込みや食材の仕入れなどで身を削られていますよね?」


「そうですね」


「そしてあなたはその後を継ごうとしている。それって誰もができることなのでしょうか?」

「それにあなたは後を継ぐためにすでにその努力を始めているじゃないですか?」


「うちがですか?」


「そもそも休日に働くなんて人間の真理に反しているとおもいますが」


「そうゆう言い方もできるかもしれないけど・・・」


「それに、人の来ない時間帯でもさぼるわけではなく掃除をしたりとできることを探して行動してました。」

「こういう小さな努力を積み重ねて一人前になっていくと思います」


「うち、今のままで大丈夫ですか?」


「僕から見れば十分頑張っていると思います。でも、もし自分の中にもっと努力が必要だ、このままじゃだめだと思っているなら意識的に努力をしてみてもいいと思います。」


「うち、もっと努力します!やっぱりこのままじゃだめだと思うから、立派になってお店を継ぐために頑張ります!」


「ただそれは今まで以上に苦しい思いをすることになるかもしれないよ」


「うちはいままでそういうことから逃げました、でもそれじゃだめだと思うようになりました。」

「学園で3人い出会い、今日あなたに話を聞いてもらえてよかったです。」


「そうか、せめて僕は陰ながら応援しているよ。」


そう言うと男は残りのカツサンドを食べ切った。


会計を済ませると男は手のひらサイズの小さい箱をうちに渡した


「これなんですか?」


「オルゴールだよ、僕の地元で有名な勇気を与える歌が入ってる」

「落ち込んだ時や気合いを入れるときにでも聞くといいよ」


そう言い残し男は真っ白なハットを深く被り店を出た。


「勇気の出る歌が入ってると言っておきながらオルゴールだから歌詞とかないじゃん」


そう思いつつも箱のふたを開いた


オルゴールからは気着心地の良い音色が流れた。


「この曲どこかで・・・」


うちはようやく思い出した


昔家族とバルデ地方の街に行ったときそこの教会の前で同い年くらいの子供たちが白い服を着た人の指揮のもと歌を歌っていた。まさにその歌だった。


子供の頃のことで断片的にしか覚えてないけど、オルゴールの曲の一部と記憶にある曲が完全に一致しているし、バルデ地方から来た白い服の人持ち物だとすれば間違いなと思った。


「いつかまた行ってみようかな」


わざわざ追いかけて真相を聞くようなことでもないと思い、うちはいつかバルデ地方に行って自分の目と耳で確かめようと思った。

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