第一話
こちらでは初投稿になります。
「よぉ、久しぶり。鈴原って、いま彼氏いんの?」
心愛は、久しぶり、と返す間も無く繰り出された問いに目を見開く。目の前にいる男は、自分とは犬猿の仲であり、3年前に海外赴任して以来一度も顔を合わせることのなかった同期だった。
「3年ぶりだってのに、いきなりなに?……いないけど」
いない、と言うのは少しだけ屈辱的だった。きっと、バカにされるだろうと思ったから。この男は、心愛の記憶が確かならば海外赴任などに行く前には大学の後輩のミスK大キャンパスなどという女子と付き合っていたし、歴代の彼女は華々しい美女だったという噂を知っている。
だから、続いて言われた言葉に驚愕してまともな思考がストップしても仕方なかったと言えるだろう。
「じゃあ、俺と付き合わない?」
お茶でもしない?くらいにあっさりと、藤崎裕次郎はそう言ったのだ。
「はぁっ?なんで?」
「今、俺も彼女いないから」
「はぁ…?」
はて、それは付き合う理由になるのだろうか――
恋愛初心者の自分には分かりようもないが、恋愛最先端で生きている藤崎のような男にはなるのかもしれない。いや、それとも海外暮らしで恋愛感覚が狂ってしまったのか。
驚きのあまり混乱している心愛に比べ、藤崎は普通の、いたって普通の顔で話を進めていく。
「付き合うだろ?どうせ彼氏いないんだしさ」
「どうせってなによ!相変わらず失礼ね!」
この二人、犬猿の仲と同期の中で言われていた二人である。売り言葉に買い言葉、藤崎が馬鹿にして、心愛が突っかかる。
だから、いつもの通りに乗ってやることにする。
「はいはい、そんなに付き合いたいなら、この鈴原様が付き合ってあげるわよ」
貴方が飽きるまでは、そう心の中で付け足した。
藤崎は、頭が良いし顔もまぁまぁ良くて加えて実家も金持ちらしい。きっと、単なる思いつきのことだろう。実のところ、この話は心愛にとっては渡りに船だった。3年前のある出来事からずっと、心愛は藤崎に片思い、まではいかないものの、心奪われたままだったのだから鴨がネギを背負ってきたようなもの。
そんな会話があって、心愛は藤崎裕次郎の彼女となったのである。
でも、期間限定のお付き合いであるからには、社内には秘密にしたい、とお願いしたのも心愛にとっては当然のことだった。
だから、
海外赴任から帰国したイケメンエリートである裕次郎に女子が群がっているのも、
目があったところで舌を出されるか「ばーか」と口パクで言われるのだって自業自得なのだろう。
その上、社外についに本命の彼女が出来たという噂を聞くことも――
我慢しないといけない、のだろうか?
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