18契約書は読んでます
扉が開かれてユーリの少し後ろを歩く。訳が分からないし胃が痛い。別に悪いことなんてしてないのに胃が…辛い。取り敢えずこの広間の装飾品でも眺めていよう。ぼんやりした顔をしないで顔だけ真面目にして。
ユーリが代わりに全て喋り、説明を貴族らしい言い回しで説明してくれているが私にはさっぱり理解ができない。もっと噛み砕いた表現にして欲しい。こっちは孤児院育ちの平民なんだから。
「ミカエラ嬢、誰でも同じものを作るのは可能かい?」
「っ可能です。できると思いますが、直ぐには出来ないと思います…私も5年以上練習しましたから。」
「ミカエラ嬢の魔力を測らせてもらうよ。」
道具やらが運ばれて魔力を測定される。魔力を可視化、数値化するもので触れたら分かるものだ。魔石が光ればいい。平民は10-15くらい。貴族になると50とか80とか最大100らしい。
「魔力値は18。神聖属性がありますね。聞いていた通り。」
神聖属性持ちで魔力が25以上で神官になれる。ミカエラの現状回復ポーションの劣化版だ。
「ここにこちらで用意した所謂クズ石があるので取り敢えず1つ2つ作ってくれますか?」
王城のクズ石が自分の標準より大きい。これでクズ石って失礼だろう。クズ石に。
「ユーリ様、こんな大きな石だと勿体ないです…」
「…取り敢えず適当に刻んでくれるかな。効果範囲拡大とか、魔力増強とか。」
いつも使ってるのより気持ち大きいがこの中では小さい石を数個手に取る。エイスを出して立った状態でカリカリと表面を削っていく。やりにくい。
「ユーリ様、すみません。自分のやりたいようにします。行儀が悪くても作業優先ということで目を瞑ってください。」
「?」
床に胡座をかいてドカッと座る。周りからザワザワと声がしたが無視して自分の仕事をする。スカートのペチコートやらパニエで下着とかは見えないだろう。作業台もないし仕方ない。この大きさなら2文字刻める。
「出来ました。石が大きかったので範囲拡大と増強を付与しました。」
鑑定をして危険がないか何人の手を渡り王様の元に行く。
「だが、効果が分からぬであろうな。」
「ミカエラ、それを使ってヒール掛けれるよね。」
「そうですね。」
別の石を持ち、エイスを杖にして広間全体にヒールを掛ける。ミカエラの魔力では到底出来ない広範囲で回復を掛ける。度が過ぎた魔法は基本不発になるがそれが効果を発揮し石が1つ砕けた。
茶番すぎるけれど…演出としてありなのだろうか。王様の装身具の宝石まじまじと見たいなぁ
…魔石???宝石だと思うけど…後でユーリ様に聞けばいいか。
実演も終わったので口を閉じて話を聞く。ユーリ様の部署で同様のことが出来るまで年単位必要であること。まず有用性効果の検証の為にも一定数量を研究目的で契約すべきだと。ただ好戦的な?貴族からは高値でも実戦運用すべきと意見が上がっている。
「ミカエラ、どちらがいい?作れるのは暫定貴方だけです。」
「はい。今私は本業の宝飾師の仕事で大量発注を頂いております。新規は納期未定で貴族のご婦人方にはお待ち頂いている状況です。その方々が皆様諾と言っていただけるなら鋭意努力致します。何分平民のため貴族の作法に明るくなく、先に注文と前金を頂いている方を無下にすることはできません。」
全員咳払いして目を逸らしたよ。どれだけ怖いんだ。貴族の既婚のご婦人方。
取り敢えず必要分を国の研究目的で納品。しかも王宮のクズ石も材料として支給される。ギルドを通してロズウェル侯爵家が窓口になるらしい。
材料費貰えるのにこの価格でいいの??破格の値段設定なので契約書の中身を確認して不利益も特にないのでサクッとサインをした。よし帰れる。さっさと終わらせて帰る。
「ミカエラ嬢、もっと条件引き上げて良かったんだよ?」
魔導師団のユーリの執務室で帰る前にお茶を貰う。ユーリはお疲れ様とお菓子も並べてくれているので有難くいただく。
「いえ、十分な報酬でしたので。ユーリ様私の考えすぎなのかもしれないですけど、今日国王陛下がここに着けていた宝飾品あるじゃないですか?」
権威を主張するために宝石や魔石を付けるのは珍しいことではない。よくある事だ。
「国宝のかな。」
「赤い石が主張しているものです。近くで見てないのでなんの石か分かりませんが1度いつもの人じゃないプロに鑑定してもらった方がいいと思います。カットが国宝の割に雑というか、年月ですり減ったならいいんですけれど傷を入れて綺麗に見せる方法もあったりしますが、アレはちょっとずさんというか…」
空気が冷えきった。誰かが動こうとした瞬間ユーリから魔力が立ち上り部屋を氷漬けにしてしまった。
「ミカエラ嬢、あの距離で分かるものかい?」
「宝飾師なら違和感に気付くと思います。だけど、間違ってたらどうしようとか面倒に巻き込まれたくないとかで口にしない人がほとんどだと思います。私は作った人仕事雑って思いました。」
「…さてと。イザーク、全員軟禁しておくからヘラルドを呼んできてくれるかな。」
「畏まりました。」
イザークは頭を下げて扉を開けて外に出たのにすぐに氷で閉ざされてしまったわ、それなのに寒くない。
「ミカエラ嬢、君は本当に優秀な宝飾師だね。」
笑顔の奥にあるのは黒い笑顔だった。
私余計なこと言っちゃった…?