14どうしてこうなった!?
ユーリがまた来るね。と、仕事があるから部屋を退出した。付け焼き刃の礼儀作法じゃダメなんじゃ…いやいや、生まれてこの方粗雑な孤児院から工房勤務で友達も作らず石を削ることだけしてきた私に爵位????平民が買える爵位じゃなくて????
孤児院も予算が無くなったとかで近くの孤児院と合併してしまったし…
後ろ盾もなくてマルセル工房の前親方が拾って見習として置いてくれていた。
いやいや…まだ叙爵も決まってないし。目先の技術のお披露目?説明??あー訳分からない!!!!!考えても仕方ないし!!!私は宝飾師で物作りの職人でプロなんだから仕事しよ…仕事はありがたいことに溜まっているんだし。
ユーリは自分の執務室で書類を眺める。渡された疲労回復の石を見つめると日用品として普段使いできるデザインだと女性や文官にも好まれるだろう。
「ユーリ様、何故マルセル工房の話をしたのですか?」
「元職場だし、気にしてるかなって。最近代替わりした息子に絡まれて胸ぐらを掴まれたそうだし。」
「代替わりする前は工房としてもそこそこ有名だったようです。勿論彼女の技術ありきのようでしたが…」
イザークはミカエラ・フィルが別邸に来る前から周辺調査を始めた。新進気鋭の宝飾師。それなのに騎士団にクズ石と言われる宝石に付加価値を付けて騎士団や貴族たちの注目を浴び始めた。いざ本人を見てみれば至って普通の平民。技術、知識、新作のデザインはあるけれど、それだけで爵位を渡すというだけで固まってしまったほどだ。
「ユーリ様、何をお考えですか?」
「弟がその気にならないなら父上に養女として引き取ってもらおうかなって。早く囲い混まないと争奪戦だよ?彼女。」
「彼女に貴族のやり方は分からないかと思います。ただの職人が良いと言うかと。」
「うん、そうなんだけど…ミリーナがベスに自慢したのか笑顔の圧力からどうすべきか一緒に考えてくれないか???」
イザークはコーヒーを注いだカップを主に差し出した。果物の種より少し大きな原石をなるべく削らず鳥の形に削るのもそこまでいくと職人の才能だ。
「どうしてあの技術が外に出なかったんだろうね。本人はものとしているし、貴族に売ればもっといい生活も出来ただろう。」
「…マルセル工房では新規登録こそ本人でしていましたが、後ろ盾のない孤児が工房に入ることすら難しいので賃金も多くなくていいとしていたようですね。工房では食事付きだったようなので。」
「ガングはクズ経営者だけど、先代ローグ・マルセルもなかなか性格が悪い。食事代以上の利益を得ていたんだろうね。そしてガングは工房を養っていた、繋いでいたミカエラ嬢を女性宝飾師だというだけで叩き出した。そりゃ傾くよね。私や他の貴族の奥様方が手を出さずとも勝手に沈む。イザークも気になる?」
「…いえ。いつ城に?それが終われば彼女も工房に戻るでしょうから。」
「まぁ、付け焼き刃と衣装次第かな。本人の自信がつくまでと言ったらつかないだろうから。調整した結果でどうかな。イザーク、他に彼女を知っているのは第3騎士団とギルド長筆頭かな。」
「はい。」
「とりあえず、弟には頑張ってもらおうかな。」
ガング・マルセルは積み上げられた請求書と金額に目を見張った。
ミカエラをクビにした日から体調不良だの家族が危篤だのと職人達が離れていった。
すぐに戻ってくるだろうと思っていた。
職人を上手く使いこなして利用して1人前だと親父はそう言っていた。権利登録は最低限しないといけないが、それ以外の賃金はこちらで握ってしまえばいい。食事を提供して給料を減らす。工房の機材使用料で更に減らす。それで回っていた。これからも回すつもりだった。
なのにどうしてこうなった!?!?!?
親父に伝えたら殴られた。ミカエラが1番の稼ぎ頭だったのにと。アレの利益でほかの職人達の賃金も支払っていたのだと。
知らなかったし、女ひとりで邪魔だった。
「王都を出るぞ。制裁金も支払ったら手持ちが無くなる…」
ひとつの工房が畳まれることになった。