12胃が…
夕食前にレオンハルトが飛んで帰ってきた。
「ミカエラ嬢!!あ、あの!!そういうつもりは本当になくて…だからといって貴方を侮辱している訳ではなく…」
突然お詫びするみたいに真っ赤になって色々言われてしまうけれど、混乱しているのか、貴族独特の言い回しなのか判断もつかずに、こてん。と、首を傾げた。
「レオンハルト様?」
「未婚の女性を家に招くなんて…常識知らずですまない…」
「貴族でもダメなんですね。貴族の方特有の決まり事かと思いました。庶民は異性を家に招くのは恋人とかですから。」
「…ミカエラ嬢…失礼を重ねて申し訳ないが、年齢を聞いても…?」
「18です。よく16とかに見えると言われますが。」
「良かった…未成年だったら家族になんて詰られたか…」
早口で言い訳を凄いされているが、言い訳されるような関係ではない事に気づいて欲しい。そして家人とかの前で若様が真っ赤になりながら言い訳を捲し立てるように言っていること自体が誤解を招くと思います。
「ミカちゃん、家の愚弟を煮る?」
「焼く?」
「お世話になりますので、そういうことはご家族でおまとめ頂けますと幸いです。」
「姉上…いつの間にミカエラ嬢をそのように呼ぶことになったのですか?」
「女同士の友情なんて目が会った瞬間に成立することもあるのだから。知ってどうするの?」
「ずるいです…」
「じゃあ貴族の権力使って好きに呼びなさいよ。ね、ミカちゃん。」
ミカエラはマリアのぬいぐるみのように抱き締められて妹が出来たみたいだと、ニコニコと亜麻色の髪を撫でる。マリアとカノンもミカエラと最初は呼んでいたが、パトロンや素材を融通するお友達としてミカちゃんになってしまった。ミランダといい、この双子のお姫様方といい、貴族の女性は変わっている。
「ミカちゃん、今日の晩餐どうする?本邸には両親や兄が居るけれど。」
「恐れ多いですし…ご家族で過ごされるのが良いかと思います。」
「分かったわ。明日からは半日作法の先生みたいだから残りの半日はお仕事ね。次からはちゃんと伺ってから来るから心配しないでね。」
双子は本邸に移動してしまった。
「姉達がすまない…虐められてないですか?」
申し訳なさそうにレオンハルトがミカエラに尋ねるが彼女は首を横に振る。双子ゆえなのかどっちがどっちなのでしょう。という話題で盛り上がり、1度も間違えなかった事を伝えた。
「そうなのですか?だから姉上達に…食事はこちらで取りますから。」
「え?」
「本邸はあまり行かないので。…その結婚とか縁談の話とかばかりで、それに私が招いた客人を放置する方が問題がありますし。後先考えずすみません。」
「いえ…それでいつ城に呼ばれているのでしょうか。」
「衣装が出来次第?だったかな。」
なんということでしょう。レオンハルトはそういう上の人の会議のこととかよく分からなくて。と、謝るのだが、彼でわからなければミカエラは誰から情報を得るのだろう。思ったが口にしなかった。晩餐の為に着替えをと、メイドに言われた。
レオンハルトは夕食の時に。部屋から出てメイドに服を脱がされてドレスに靴に何から何まで用意された。借りてきた猫のように大人しくしていた。
「ミカエラ嬢、すごく似合っていますね。」
着替えたレオンハルトにそう言われたが服が可愛いだけだと思う…椅子を引かれて座る時にお礼を言うと首を横に振られた。別邸の人には行儀見習いで来ていると知られているので善し悪しが優先される。
「お礼も不要です。」
食事のマナーは最低限学園の授業で知識としてあるだけで、行儀よくというのはどうしたらいいのだろう。レオンハルトをチラっと見るが所作が洗練されている。
ミカエラの視界には値札がチラついて見えるようで、ナイフとフォークを使って食べるが味が分からない。
「ミカエラ嬢、そこまで神経質にならなくてもいいですよ?これでも平民貴族混合の騎士団所属なので。」
「レオンハルト様が気にしなくても私が気にしますので…」
「えと、兄に聞くのは日程と求められるレベルだよね。当日は俺がエスコートするし…そんなに大規模にはならないと思う。」
期待しないでおこう。詳しくないと言っていたし…
半日マナー教室を受けながら半日は仕事の為に作業を行う。話し方や貴族の爵位等の、王城に上がるためのマナー講座だ。
「…覚えられる自信ないです。」
「完璧である方が望ましいですが、付け焼き刃程度と伺っておりますので家名と序列は何となく知っている程度で構いません。姿勢は綺麗ですので気をつけるだけで良いでしょう。」
「ありがとうございます…」
今日はレオンハルトが遠征だとか。私が知ったところで関係ないし、授業を受けながら仕事をするだけだ。
「ミカエラ様、ユーリ様より面会の申し込みなのですが、いつ頃が都合がよろしいでしょうか。」
本邸のレオンハルト様のお兄様の次期侯爵様…何故???何時でも大丈夫としか言いようがない…執事さんにそう答えるしかないのも分かっているのか、本日の午後お越しになるようです。淡々とお仕事として伝達された。
まぁ、貴族でもないし、城に行くために礼儀作法をならいに来ただけで、敬意も誠意もそれなりでいいだろうし、執事とはいえどこかの貴族の血筋だろう。それを平民に丁寧にするのは苦痛だろうし。
「ミカちゃん?」
幼女が部屋に来た…そして何故ミカちゃんと呼ばれているのだろう。えっと…
ミカエラは作業着で仕事をしていたので手を拭ってご家族のお子様だろうか。
どう見ても貴族のお子様だ。
「ミカエラと申します。」
「ミリーナ・ロズウェルですっ。」
礼儀正しい。ユーリ様かレオンハルト様の姪あたりだろうか。
「ミカちゃんはキラキラしたものを作れるって本当?マリアお姉様とカノンお姉様が言ってたの。」
犯人はあの双子のお姉様方だったのか。幼女を抱き上げて椅子に座らせて適当にクズ石をハンカチに乗せてミリーナ様の前に置く。
「ミリーナ様はどれが好きですか?」
「んー。これ!」
サファイアのクズ石。
「飼ってる鳥さんと同じ色だから。」
じゃあ…と、原石を返してもらって形を活かして小鳥の形に形成して行く。
「こんな感じですか?」
「しっぽはもうちょっと長いの。」
尻尾を伸ばすなら全体的にスリムにすべきか…長く見えるように削る。ミリーナは興味深くじぃっと黙って手元を見ていた。
「わぁ/////」
「指輪、腕輪、ネックレスどれにしますか?」
「ずっと使えるのがいい!」
鎖の長さでどうにでも出来るネックレスかな。鳥かごに入れるようなデザインにして落ちないように、砕けないようにしてネックレスにする。こんな感じですか?と、見せるとすごい喜んでくれた。必要経費だけレオンハルト様とかに請求しよう。
ノックに返事をするとレオンハルトではないが雰囲気が似ただけのレオンハルトより細い男性だ。
「お父様!ミカちゃんが作ってくれたの!」
お父様でしたか…ミカエラは色々思ったが笑顔を貼り付ける。
「作ってくれたのじゃないんだ。ミリーナ。彼女はそれでお金を稼いでいるプロなんだ。お強請りはダメだよ。」
「あの、ユーリ様。私が勝手にした事ですのであまり咎めないで頂けますと…」
「ではどうして作られたのですか?プロなのですから…」
こういう感じでこういう話になりまして…と、誤魔化しもしないで説明するとユーリはあの双子…と、言葉が出ていた。
「分かりました。正規料金を支払います…」
「滞在費と相殺出来ますか…???」
「…滞在費や教師はこちらの必要経費なので相殺するものではありません。」
「鑑定書も付けれていませんので宝石としての価値はありませんから。」
「ミリーナ、お父様はこれからお仕事の話をするから、ミカエラ嬢にお礼を言って戻りなさい。」
「ミカちゃん、ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
護衛?従者???ユーリの後ろにいる青年も目を向ける。ぺこりと頭を下げられた。眼帯をして隻眼なのだろうか。
「あぁ、彼は私の護衛だ。全く女性に手を上げると思っているのだろうか…彼はイザーク。イザーク・スカルラッティ。気にしなくていいよ。」
ユーリからの話は城では型にハマったやり取りしか出来ないから事前に見ておきたいと言うことだ。
じゃあ城で説明する必要なくないですか???だってユーリ様が知っているわけだし。お茶も出されて口をつけるが美味しい。
「ミカエラ嬢、家の弟が迷惑をかけて済まないね。どうも男ばかりの騎士団に入ったせいで考えが至らなかったようだ。」
「私もトラブルに遭遇したばかりで渡りに船だと思ったので…申し訳ございません。」
「あぁ、君に手を出したマルセル工房だけど制裁金が支払えないからとか、支払いが色々滞っているのか、工房を畳んで王都からも叩き出されたみたいだね。」
え・・・・・???