7話・お引越しをしよう!
モンスター女子が5人に増えて、我が家は手狭になった。そのおかげでいろいろなハプニングがおけるわけで、とうとう引越しを検討することになったんだ。
「んんんー、たららーん♪」
朝、早く目が覚めてシャワー浴びていた。起きるといつものように、二葉姉さんと七華がベッドの中にいた。この二人はいったいどういうつもりなんだろう。
嬉しいけど、男に見られてないのかな?
二人を起こさないように、慎重に部屋を出た。朝風呂は俺の大好きなことの一つだ。朝寝朝風呂朝酒。
今は17歳の体だから、酒は飲めないけどね。石鹸をモコモコに立てて、体を洗い、水色の風呂に入った。
誰か、入浴剤でも入れたのかな? たぷん、ぬめっと肌に張りつくような感触だ。にゅるにゅるがだんだんとぽかぽか、じわじわしてきた。
「って、あれ? だいぶ熱くなってきたな。肌がピリピリしてきた。って、ぎゃー! いでででっ。あそこ噛みつかれた!」
俺が風呂から飛び出ると、不思議なことにぷりんと液体ごと外に出た。
「ま、まさか! イチル?」
「ン? タケル。ドシタノ?」
プルプルしていた液体がやがて少女の形になった。身長は七華より小さいが出るとこ出てる。
「ななな、なんで。風呂の中にいるんだよ!」
「フタバ、イナクナッタ。スイブン、タリナクテ、ゴメンナサイ」
「いいけど、これじゃあ。ベタベタすぎて出れないな」
「ン。ワタシガ、ベタベタ、トッテアゲル」
イチルはその水色の瞳で俺を見つめ、ペロペロと俺の体についたスライムベビー達をなめとりはじめた。
「ううっ。ちょっと、まった!」
俺の敏感な部分もお構いなしに、イチルは舌をはわせる。
「タケル。ドウシテ、ココ、オッキキナル?」
「ちょっと待ったーーー!」
ばあん、と七華が風呂の扉を蹴破って、入ってきた。
「きゃー、たーくんのおっきが、大変!」
どおん、と二葉姉さんが風呂の床に滑って転んだ。
「って言うか、なんでみんな裸なんだよ! おかしいだろ!」
「それはたけるっちが、うちらの主様だから仕方ないよ」
いつの間にか四織が脱衣所で包帯を解きながら言った。
「そうそう。私たちはタケルのいいなりなんだ。良くも悪くも」
そう言って魔惡がそのナイスバデーを見せつけながら、入ってきた。
バチバチと5人の視線が交錯する。え? なんで? 月面転移になりかけた。
「ストーップ! みんな俺がご主人様であるというのなら、今すぐ風呂から出て行って! 30分でいいから一人にさせて。頼む!」
みんなぶつぶつ言いながら、風呂から出て行ってくれた。俺はようやく一人になり、今後どうしたらよいか考えた。
賢者タイムになることはできなかったから、モヤモヤしっぱなしだったけどね!
「というわけで、お引越しをしたいと思います!」
俺は、七華が作ってくれた朝食を皆で食べ終えた後、そう言った。
「ヒッコシ、ッテナニ?」と一縷。
「私がイヤになった?」と二葉姉さん。
「うち、家にもどろか?」と四織。
「引越しってどこに?」と七華。
「うむ! それはいい。金なら心配ない!」と魔惡。
「今ここに、ナンバーズモンスターが5人いるよね。もしかしたら、あと4人増えるわけでしょ? ここは一軒家だけど10人になると手狭だし、プライバシーも欲しいでしょ?」
5人全員、首を横に振る。
あー、その立場にならないと分からないことってあるんだってはじめて知った。ハーレムって、いいけど、めんどくさい時もあるなーって。
「とにかく引越します。各自、自分が譲れないポイントを一つずつ、言ってください!」
5人はざわざわした。ぺちゃくちゃ、女子トークが始まる。長引きそうなので、俺はみんなに麦茶を入れた。
1時間後……。
「はーい。そろそろ、いいですかー? ナンバー順に当てるから言ってね。じゃあ、イチル!」
「ジメジメシタ、スイブンがオオイ、トコロ」
え? まじかよ。いきなりすごい変な要望が来たな。
「つぎ、二葉姉さん」
「ビリビリした。電気が多いところ。巨大な高圧線の鉄塔の近くがベストかなぁ」
え? それってめっちゃ人体に悪いはず……。
「つぎ、四織」
「うちはたけるっちと一緒なら、どこでもいいよ〜」
ほっ。やっと普通のやつが来た。安心安心。
「あ! でも強いて言うなら、近くにキリスト教系の墓地があって、棺桶に夜中入れるところが良いなー」
めんどくさっ! まじかよ!
「つぎ、七華はなしでいいね。魔惡は?」
「私は男どもの欲望渦巻く、新宿の歌舞伎町やホテル街がいいなっ!」
おい、具体的な場所はあかんやだろ! それに新宿区なんて家賃たかすぎ!
「まあ、みんなの意見は分かった。なるべく全員の希望が通るようの努力はする! でもむりなときは、ごめん。最初に謝っておくけど、全部を叶える物件はスーパーレアガチャのSSSR並みに難しい」
俺はそう言って、皆の顔を眺めた。それぞれ真面目な顔でコクコクと頷いてくれた。ただひとりをのぞき……。
ガチャリ。
女子たちはこんどは、きゃっきゃとはしゃいでいる。俺は部屋を後にした。ひとりの金髪ツインテール娘がプンスカと怒りながらついてくるのに、気づいていながら。
自分の部屋に入る。ソファに座る。七華も黙って隣に座った。
「……」
「……」
沈黙が痛い。下手に相手の考えていることが分かるだけに、胃がキリキリ痛む。
「……」
「……どうして?」
「え?」
やっぱり忘れていたのか。まあ、第2話のことだから仕方ない。俺は戦闘前にヴァンパイアである七華の血を飲み力を得た。そのついでに彼女が考えていることも分かるようになった。
「どうしてわたしには、物件の条件を聞いてくれないのよ。バカアニキ!」
「七華、ごめん!」
俺は七華がそれを忘れていたなら、もうその能力はないことのしよう。
「なにが、ごめんなの!?」
「七華のことは、一番分かっているって、うぬぼれてた」
えっ? と、七華が少し嬉しそうな顔をした。
「私のことわかってる?」
「うん」
七華は金髪を人差し指でくるくるしながら、上目遣いで言った。
「じゃあ、どういう条件?」
「え?」
七華の顔が近づいてくる。俺は前に七華の血を飲んだ。だから考えていることが分かってしまう。七華は期待している。
「日が当たらなくて、黒くて可愛い天蓋付きのベッドがあって、コウモリが入れる物件」
「わあっ! たけるあにきすごい! なんで分かったの?」
「七華のことなら、なんでもわかるよ」
俺、こええ、女子を理解できてるようなセリフが、さらっと出た。まるでホストのようだ。そして俺は、七華とパソコンで4人の女子たちが満足するような物件探しをはじめた。
でもやっぱり、5人のモンスター女子たちの要望を叶える物件は、ヒットしなかった。でも俺は、なるべくみんなの意見を反映したかった。
「そんなのありません……」
断られ続けて半年、春が秋に変わった頃、ある変わった名前の不動産屋から手紙がきた。
『怪し家不動産?』
俺は、その不動産を見て驚いた。
「こ、これは!」
なんとも怪しい物件だったんだ。
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