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5話・俺はそろそろ本気出す!

今話は、このストーリーのプロローグ的なお話です。主人公、健の生い立ちと世界の秘密が明かされます。


「あー、眠い、もう月曜日か。会社行きたくね〜」


 俺はスマホのアラームを止めて、二度寝した。


 次に目を覚ましたのは一時間後。午前9時。週の最初から遅刻決定。


 9時の朝礼には確実に間に合わない。もういいや。今日は有給使おう。


 プルルルル。ん? スマホの画面を見る。上司からだ。しぶしぶ出る。


「西陣織健。お前、まさか、今日もズル休みするわけじゃないよな?」


「はっ!? はい」


「おまえ、自分の立場わかってる? 有給消化率100%で、売上はビリ。今日、休んだらもういい。クビだ!」


 ツーツーツー。


 俺はため息をつき考えた。やっぱり俺は向いていない。一生懸命やっても、この世の中、むくわれない。


「そうだ! 異世界に転生しよう」


 人には向き不向きがある。俺にはこの世界は向いていなかった。


「年下の上司に嫌味言われるのも、取引先に頭を下げるのも、もういやだ」


 俺は、朝食を食べ、シャワーを浴び、ヒゲを剃った。


 スーツに着替え、通帳を持って家を出た。銀行で貯金をおろし、異世界堂の扉を開けた。


「やあ、健くん。久しぶりだね」


 異世界堂のオーナー主人の茜さんが言った。


「茜さん。お久しぶりです。この前の案件ってまだ残ってます?」


「え? どれだっけ? 最近、異世界案件が多くてさ。忘れちゃったよ」


 茜さんは茶髪の美人さんだ。少しおっちょこちょいだが、そこがこの異世界堂の常連にはたまらない。


「メニュー表ある?」


「はいよ」


 俺はメニューに書かれた案件に目を通した。


①転生したらスライム


②転生先でスローライフ


③チートスキルで異世界救う


「あっれ〜。前に来たときのやつ、無くなってる。あれって季節限定?」


 茜さんは、人差し指を頭に当てて考えこんだ。


「あれって、これのことかな?」


「そう、あれあれ」


「まだ残ってるわよ。人気なくってね」


『ヤンデレ姉とツンデレ妹と厨ニ病幼馴染に囲まれて、俺強ええする異世界微エロ冒険ファンタジー』


「じゃあ、それお願い!」


「うん。わかった。期間はどれくらいにする?」


「まずは半年かな。そしたら、失業保険もらいに一旦戻る」


「代金は今? あとで?」


「とりあえず、3ヶ月分、払っておくよ」


 茜さんに代金を支払う。俺は異世界の扉を開けて、旅立った。



●●●



 気づくと俺は、17歳の男子高校生になっていた。


 ヤンデレ気味の二葉姉さんと、ツンデレ気味の妹七華。厨二病の四織に囲まれ、ハーレム生活を謳歌してた。


 四十を超えたおっさんの俺が、異世界(今は現代日本だけど)に転生して、初めて迎えた青春だった。


 このままいけば、三人のうちの誰かと結ばれる。


 ハーレム展開だから、他のヒロインともイチャコラできる。


 そう思っていた。


 だから、先日、異世界堂に貯金をすべて払ってここに移住する権利を得たんだ。


 それなのに、目の前に転がっているのは、四織の無残な肢体だった。


 九魔惡は、俺に気づくと言った。


「よう、遅かったな。お前の幼なじみは、うまかったよ。はげしく抵抗したけど、な」


 四織の体に巻かれた白い包帯は、真っ赤に染まり、口をぱくぱくとさせている。俺はそれを理解した。


『たける、にげて』


 その時、俺の中で何かがはじけた。


魔王とか勇者とかおっさんになっても本気出せば異世界転生して一発逆転できるなんて信じてる俺は幸せだと思う


 リアルでずっと、そう思っていた。


 異世界に来れば本気出して、俺強えええできるんだろうって。


「なあ、九魔惡。お前は、二葉姉さんと七華、そして四織にまで手を出した」


「だからなんだ?」


「お前をゆるさない!」


 俺は、転移魔法の呪文を唱えた。


『月面転移』


 しんとした白と黒の世界。俺は真っ白な空手着に漆黒の帯を身につけて、立っていた。


『なんだよ。ここは? 健、お前はなんなんだよ。ただの格闘家じゃなかったのかい?』


 九魔惡は、長い金髪を亜空間にたなびかせて言った。声色が女に変わっている。サキュバスの姿だ。


『俺は、格闘家じゃない。戦士でもない。魔法使いでもないし、魔族や、モンスターでもない』


『じゃあ、なんなんだよ』


『日の神、倭建命だよ』


『和神様ってわけか、面白い。いくら神でも男である以上、淫魔の俺に敵うわけがないだろう』


『果たして、そうかな?』


 俺は両脚を開き腰を落とした。両手をぐるりと円を描き、正拳突きの構えを取った。


『さっきと同じうごきじゃ、私は倒せない』


『そうかな?』


 俺は、腹から息を吐き出し、薄目を開けて、九魔惡サキュバスを見た。


 どくんっ!


 すごい妖気だ。九回転生した最上位のサキュバスだけあって、並大抵の意思では自制出来ないほどの色香。


 豊満な肉体に、蠱惑的な瞳、濡れそぼった唇。九魔惡サキュバスは、妖艶な仕草で舞のような動きで誘いかけてくる。


『鋼の意思ドーテーを舐めるなよ!』


 俺は、九魔惡の顔面に正拳突きを叩きつけた。


 バキッ!


 空気のない、死んだ世界に音はしない。俺の拳に振動が伝わってきた。


『いたっ! ちょ、本気で女を殴るなんて、どういうつもり?』


 九魔惡が鼻血を抑えながら言った。


『俺が本気になっていたら、お前に触れずに消せるよ』


『異なことを。私の魅了に太刀打ちできるのは、神も悪魔も魔族も、たとえ同性でもいないわ』


『そういう設定なんだな』


『どういう意味だ?』


 九魔惡は、俺に次々と回し蹴りを繰り出しながら、言った。


『俺は、お前がさっき言った者を超越した存在だということだ』


 俺は、しんとした亜空間で瞬間移動し続ける九魔惡の腕を掴んで言った。


『ふーん。サキュバスのLV999の能力は、これくらいなんだな……』


『なっ! 貴様、ばけものか! 私の魅了も物理攻撃も効かないとは』


『そりゃあ、俺は異能を超える全能者だからな』


『だから、どういうことだ?』


『第一話からここまで、何回も書き直した。最初は俺はお前にズタボロにされた。でも、気が変わった。全能者は登場人物に負けることはない』


『全能者?』


 九魔惡は、俺の前にひざまづいて言った。


『そうだ。俺はこの世界を買い取った。つまりは、作者なんだよ。俺たちは、九魔惡サキュバスや二葉姉さん、七華、四織と一緒に、くそったれな人間界を滅ぼす』


『人間界を滅ぼすって、人間のお前が正気か?』


『ああ、正確には人間界の半分の存在。俺の眷族にならない男たちだけどね』


『そういうことなら、私も健さまの眷族にしていただきたいです』


 九魔惡は、その場に首を垂れた。俺は九魔惡の首に、仲魔の刻印を施した。


『ときに、九魔惡、お前の名前は九回転生した舞惡というのが真名と聞いたが』


『健さま、その通りでございます』


『よし、舞惡、お前は関東地方の制圧を任せる。できるな?』


『仰せの通りに!』


『では、行け』


 俺は、舞惡を新宿の東口駅前に、堕とすと、二葉姉さんと四織を回復させ、七華にことのなり行きを話した。


「健アニキって、本気でバカね。人間界の男たちを滅ぼすって、ありえない」


「ごめん。やっぱり、やめようか?」


 俺がしょんぼりしていると、ふわりと七華が抱きついてきて言った。


「なに言ってるの? 最高に楽しいじゃない! ありえないくらい」


 俺は七華の楽しそうな顔を見て、ほっとした。今日は、いろいろあってほんと疲れた。気づくと、深い眠りに落ちていた。


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