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2話・僕たち魔族なんすか?

 僕たちを置いて、海外やら暗黒空間(じゆうくうかん)? で仕事をしている父のおかげ、でふつうの生活を送らせてもらっている。今日までは、そんな父が誇らしかった……。はい、今となって、はは、過去形なんだよね。あの手紙を読んでから、イメージが、180度変わっちゃったんだよね。

春うらら、始業式に遅刻した僕は四織しおりと下校、いつものくだらない会話をしていた。



たけるっち、うちの眷属(けんぞく)仏教用語。親しく従う者,妻子や従僕をいう。になれば守ってあげるよ。二葉(ふたば)さんと七華(ななか)ちゃんてなんだか妙な、暗冷放霊魂ダークオーラを感じるんだよね」



 四織が、白い眼帯を右手で押さえながら「うっ! うちの魔眼が反応して、割れるようにいたむ! し、視線をかんじるっ。二葉か七華、あるいわ、二人の強烈な念を感じる! あの二人への陰口は禁句だった……。きゃあああ。助けてアルタイル!」と言う。ふう、始まった。



 自称『四(死)の織姫ベガオブデス』こと、幼馴染の四織が苦しそうに叫ぶ。たまたま僕たちは、同じ7月7日の七夕に生まれた。昔は織姫(ベガ)彦星(アルタイル)と呼び合い、幼心に将来(お互い二十歳までに結婚していなかったら結婚しようという)四織曰く俺たちをつなぐ運命の赤い鎖? とのことを誓ったりもした。しかし、まさに四織が厨ニ病を発症しているとき。俺がちょうど、ネットで観た総合格闘技にはまり、空手道場に通ったりして厨ニ病はあっさり治ってしまう。人見知りでアニメ、ゲームオタ、隠キャの四織は、俺以外に話し相手はいないという、高校カースト最下層でもがいている。



「は〜。初日から絶好調だなぁ。俺からしたら、四織の方がよっぽど怪しくみえるわ」



 真っ赤に染めたショートカットに、左目に眼帯。


 右目はいつも、真っ赤なカラコン。


 セーラー服から突き出た手足のあちこみに、所々に血痕がある包帯を、ぐるぐる巻いている。


 四織の頭の中は、一年中がハロウィンなんだろう。


 手のひらには赤いマジックペンで書いた、なんらかの術式でいっぱい。


 高二なのに、いまだに厨ニおたくを拗らせてます。



「うちのほんとうの姿を見ても、ズッ友でいてくれるなら、健っちに捧げてもいいんだよ?」



「ん? なにくれんの?」



「うちのバージン。鮮血。ぐはっ」



「あいかわらず、四織はバカだな。俺は、お前はただの悪友にしか思えんよ。昔から、一緒にエロ本回し読みしたり。ピンポンダッシュするようなさ」



「ふふふっ。それ全部うちが立てたフラグ。健っちは、いつかそれを回収するころには、うちの魅力にメロメロ。うちなしにはいられなくなる。ぐはっ」



 いつものように四織は、興奮すると吐血する。


 本物に見えるけど、血糊だ。



「春だな。お前のバカもはかどるな」



「今、ここでうちの眷属になれば、呪わしい健っちの姉妹から、助けてあげる。忘れないでね、あなたの本妻(メインヒロイン)はうちなんよ? ぐはっ」



 白い包帯に薔薇が咲いたような赤に染まる。



「な、ななな、お前、なに言ってんの? 春の陽気でくるったか」



「春の陽気、いや二葉の妖気いや殺気……ビシバシかんじるにゃ。うちはこの辺で、ドロンします。じゃね、ばいばい!」



 おい! 急にどうしたんだよ、と言いかけて、ずんと両肩に黒いオーラを感じた。



 大量の長い髪?



「たーくん、おそかったじゃない。さっきの子はだあれ?」



 え? さっき見えた長い髪って二葉姉さんの? 



 いやちがうよな。俺、ちょっと疲れているのかな。



「いやだなぁ。ほら、幼馴染の四織だよ。二葉姉さんだって、昔はよく遊んだじゃない」



「四織ちゃん? 知らないわ。たーくん、何回も言うけど知らない女子とは口を聞かないようにね。今は本当に危ない時代なんだから」



 ミニワンピ姿の二葉姉さんが抱きついてくる。う、ボリュームのある体がくっついて、嬉しいけど苦しい。



「偶然だね。いつも帰宅時間いっしょ」



「え? 私は3時からずっとそこで待っていたんだよ」



「え? 今、6時だよ? 3時間もこんなところにいたの。いくら春でもこんな寒風の中、むちゃだよ」



「だって、たーくんと一緒がいいんだもん」



「まったく、しょうがないなぁ」



「おかえりなさい!」



 胸の顔を埋めてきり二葉姉さんが愛しくて、ドキンとした。小さな手をとり、家路をいそぐ。

 

 かぁかぁかぁ、と電信柱の上でカラスの鳴き声。



「このマンションって、カラスがよく集まるよね」



「うん。カラスは死者の使いだから」



「ん?」



「え? あ、ああなんでもない。行こう」



 ウイーン、とマンションのエレベーターが開いた。ふわっと、 甘いココナッツオイルのような香りがする。


 二葉姉さんがショルダーバッグの中には、沢山の本が入っていた。


「人造人間の恋?」


 水色ワンピースの二葉姉さんに言った。


「ああ、これね。フランケンシュタインの恋っていう映画の原作本なの。これ読んでると切なくなって、たーくんに、ぎゅーしてもらいたくなる」


 周りを見渡す。誰もいない。ぼくは腕を広げた。


 飼い主を待っていた仔犬のように飛びついてくる。


 すんすん、 と二葉姉さんの長い黒髪に鼻をうずめた。


 甘いバラの香りがする。



「シャワー浴びたの?」



「うん。浴びてから、待ってた」



「湯冷めするって!」



「汗かいたからきもちわるくて、ほら見てまた汗が…」



 ワンピースの胸元をぱたぱたさせる。白くて大きな谷間が見えた。 僕はあわてて目をそらせた。



「あーーー! 今、たーくん、ふたばの胸から目、そらしたでしょ?」



「そんなこと…ない」



「ひぐっ、うぐっ、ふたばの…こと…。きらい…なんだね」



 うえーーーん!とマンション中に聞こえるような声。


 ぺたり、としゃがみこんで泣き出した。


 つややかな瞳からポロポロと、大粒の涙がこぼれ落ちる。



「そんなことない。大好きだよ」



「ふぐっ、あうっ、んっ…。んん…。ほん…とに?」



「本当だって、どうしたら信じてくれる」



「(キスしてくれたらなんて)…ここじゃ言えない」



「え? 前半部分、聞こえなかった。とにかく家、もどろ」



 僕は双葉姉さんを抱き起こした。 エレベーターの中のボタンを押した。


 双葉姉さんが赤い停止ボタンを押した。



 ガコンっ!!!



 大きな音がした。


 振動がした。


 エレベーターが2階と3階の間で止まった。


「ちょっ!」


 非情停止ボタンを押した双葉姉さんを思わずにらむ。


「めー! ふたば姉さん、これはさすがに、めー! だよ」


「ごめん…。ね!」


 涙に濡れた双葉姉さんの顔が近づく。

 

 僕は後頭部を壁に、 ごつんとぶつけた。


 グロスリップのピンク色の唇がアップになる。


 胸がバクバクいってる。


「ごめん、って、何が…。むぐーーー! むっ!! んーーー! ぷはっ!」


 そこから意識がない。


 気づいたらベッドで寝ていた。


「すー、すー、むにゃ…。すーすー」


 小さな寝息。


 振り向くと、七華の顔がどアップ。



「うわーーー!」



 思わずさけぶ。



「へ?!」



 七華は、白い手の甲で目をこする。



「たける!?」



「ななか、なんで、ここに寝てるの?」



「そ、それは…。たけるなんかに…。言えない」



「ふたば姉さんは?」



「え!?」



「ふたば姉さん、どこに行った?」



「…。いる。…へやに、いるよ」



「ななか、もしかしてキレた」



 七華はツインテールを横にぶんぶん振った。 僕の顔に金色の髪がぺちぺち当たる。



「なら、いい。俺、晩飯つくるよ。ななか何たべたい? ハンバーグ?」



「いらない…」



「カレーでもいいぞ?」



「いらないって! バカアニキ! こどもあつかいすんな! たけるなんて、ふたばと一緒にどっか行っちゃえばいいんだ!」



 ぺたん、とベッドに座り込んだ七華が泣き叫ぶ。


 青い瞳が炎のように揺れている。


 金髪ツインテールもしょんぼりだ。



「どうしたんだよ」



「どうしも、しない!」



「じゃあ、なんで」



 ぼふっと、七華が小さな体でぶつかってきた。


 甘酸っぱいような、 しょっぱいような独特の汗の味。


 七華は、 ぺたんこん胸で僕の顔を抱きしめた。



「むぐっ! んーーー! ちょっ」



 七華の体はどこまでも細くて、壊れそうで。


 そんな風に力を込めたらバラバラになってしまいそうな危うさがあ った。



「さっき、ふたばとエレベーターでなにしてたの…?」



 僕は思い出して赤面した。七華は…。


 その表情を見て顔を引きつらせた。



「そっか…。しちゃったんだ…」



 七華の目の光が消えた。



「しちゃったって、何を言ってるんだ」



「なにって、ナニをしちゃったんでしょ」



「めー! ななか、それはさすがに、めー! だぞ」



「ごめ…。ごめん…なさい」



 僕は七華の頭をぽんぽん、と叩いた。



「どうしたんだ? ほら、こうすれば言ってくれるかな」



 七華の体を両手で持ち上げると、僕の膝の上に座らせた。


 指で白く細い喉をくすぐる。ゴロゴロと猫のような声を出す。


 七華は、もとにもどって言った。



「わたし、見たんだから! エレベーターの中で、たけるばふたばとキスしてるの」



 ガコッ! バキッ! うぐっ。扉の外がうるさい。



「してないしてない!(俺の記憶の範囲では…)」



「なに? 後半部分、聞こえないよ?」



「わたしとはいいんだよ」



「なにが?」



「…す…」



「はっ? はい!?」



「…。き……。き……す」



「はいー? なんだってー???」


 ボケ老人か俺は。



「だからーーー! きっす!!!」



 ボハッっと頭が爆発しそうになった。


 こいつは、 七華は、いったいどうしちまったんだ。


 本当に様子がおかしい。


 おかしいと言えば、二葉姉さんもおかしかった。



「キスしてもいい? おれが? ななか、と?」



 かーーーっと真っ赤な顔でうつむくナナカ。


 こくこくうなづいている。だめだもう。口の中がからからで、コーラとかほしい。休憩タイムくれ。



 ぴんぴろりーん! 


 

 スマホが鳴った。


 ディスプレイには


『西陣織権三ぢゃ!』の文字。


 でたっ!!! 


 俺たちをずっとほったらかして、そのくせ、 男女関係や礼儀作法にはめちゃくちゃ厳しい。


 戦前生まれの頑固親父!!!


 とにかくメールとは珍しい。なになに?



「「なになに?」」



 その音を聞いてガチャリと扉が開いた。双葉姉さんだ。



「ちょっと!!!」と七華。



「もしかして???」と僕。



「してない! 盗み聞きなんてするわけないよ!」と二葉姉さん。



「あれ? これって?」



 七華は何かに気づいたようだった。



「ねえ、おにいさま」



 さま? 七華は初めて僕をそう呼んだ。



「 お父様からのメールまだ読んでない?」



「え? あ、ああ。読んでないよ」



「あははは、そう。そうなんだー」



 七華が、ふふふっと笑う。



「なんだよ、気持ち悪い」



 次の瞬間、いきなり口を塞がれた。イチゴの歯磨き粉の味がした。


 あまりの衝撃に僕は今日、二度目の気を失った。


 ディスプレイの本文にはこう書いてあった。



『前略 父より いきなりで悪い。健と、二葉と、七華は、 血の繋がった兄弟ではない。 ワシが海外で飛び回っているときに拾った、 かわいそうな魔族(もんすたー)と人間の間に生まれた、孤児じゃった。改めていうが、血はつながってない。今後のことはお前たちの好きにせい』



 好きにせいってさ。なんなんだよ。困る。


 血が繋がってない!


 まじかよ?!


 嬉しいけど。


 って、いろいろツッコミどころはあるけど、と人間の間に生まれた孤児ってなんだよ!


次話から、バトル展開です。健、二葉、四織、七華。誰がいちばん強い魔族(もんすたー)なんでしょうね!

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