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V.C.T ザ・リアライザー   作者: しょきぬと
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災禍の後

 小銃を装備した部隊が無駄の無い動きで階段を登る。


「第一歩兵小隊、三階北側到着、周囲に人影無し」


「第二歩兵小隊、三階南側到着、周囲に人影無し」


「第三歩兵小隊、四階北側到着、周囲に人影無し」


「第四歩兵小隊、四階、南側到着、人影無し」


「突入時刻十秒後……五、四、三、ニ、一…」


 治安隊が日々の訓練で鍛え上げた連携を遺憾無く発揮しながら、校舎内を捜索している。


 テロリストと思われる謎の集団により、国内では有数の規模を誇る精霊信仰の宗教系学園の襲撃事件が起こったからだ。


 治安隊は正しくこの国の治安に関わる全てを担う精鋭の集まりである、建国から八百と数年経つ国の起源から連綿と続く長い歴史を持つ治安隊である、隣国の工作員による破壊行為や直接的な衝突はもちろん、テロリストによる案件にも幾度と無く対応してきた。

 しかし、今回の事件はそのどれとも違う不自然さが多かった。


 まず治安隊が到着した時には当然混乱の渦中にいた人達が、ふと我に返った様に…いや我に返った様にという表現では少しニュアンスが合わないが…

 そう、まるで夢から覚めたかの様に、何が起こったのかもひどく朧げになり、確か誰かがいた様な…程度の認識しか持たなくなってしまった。

 それは被害にあった人々のみならず、事態の詳細を確認していた隊員達も同じである。

 先程まで報告を受けていたはずのその内容は、記録兵が録音していた記録盤の肝心な部分だけノイズがひどく、とてと解析出来なくなっていたのである。


 現場となった校舎には確かに血痕や所々の異様な破損が残っており、全員で十二名の行方不明者が出ている。

 屋上に避難していた人々も救助はしたが、治安隊が遭遇した頃には既に正門付近にいた人々と同じ様に、何故屋上に避難していたのかを覚えていなかった。


「本当に皆忘れてるんだ…不思議だけど、逆にアレが夢じゃなかったって事がよく分かるわね」


 特異領域(シンギュラーゾーン)から実体へと戻って来たリナリィは、隣の校舎に避難していたという体を取って、友人達と合流していた。


「あれ?リナリィ…そんな耳飾りしてた?」


「これ?昨日買ったばかりなの、可愛いでしょ?」


 友人にそう尋ねられたリナリィの耳には三角錐の飾りが付いたピアス、その飾りの中では魂玉(アニムストーン)が光を受けた宝石の様にチカチカと明滅していた。


「ボクはカッコいいって言ってもらいたいなぁ」


(ごめんごめん、そうだったね)


 ソキウスの声は幻顕者(リアライザー)にしか聞こえない為問題無いが、そのまま返事をするとブツブツと独り言を喋っている人になってしまう為、心の中で返事をする。


「そういえばリナリィ途中で逸れちゃったけど、やっぱりテロリストの事覚えて無いの?」


「うん…私も()()()()()()()()()()()()()のよね」


 嘘は言っていない、リナリィはテロリストなど見ていないのだ、楽園(パラディーゾ)幻顕者(リアライザー)とその配下と化してしまった知人達なら見たが…

 知人達の変わり果てた姿を思い出し、心が痛む、そして自分と同じ様に楽園(パラディーゾ)に狙われる人、そしてその世界を救う為に自分も微力ながら頑張ろうと、決意を新たにする。


「最初の内は能力(アビリティ)も不安定である事が多いから、無理しない程度にね」


(うん、最初はソウマ君が一緒に来てくれるらしいから…)


「確かにそれは心強いけど、楽園(パラディーゾ)だって必ずしも一人とは限らないからね、ボクが危険だと思ったら強制的にでもディスコネクトするよ」


(うん、頼りにしてるよアウラ)


「まっかせてよ!」


 アウラ、そう呼ばれたソキウスは魂玉(アニムストーン)を激しく明滅させて張り切っていた。


 埒のあかない事情聴取や見つかるはずの無い犯行者探しは日暮れまで続き、当然であるが全く進展は無く、学校関係者は解放された。

 不憫ではあるが、治安隊の人達は今後も見つかるはずの無い犯行者探しにしばらく奔走するのだろう



         ======================>


 翌日、流石に学園はしばらく休校となったリナリィは自宅でいつもより少し遅い時間に起床した。


「…すごい、全く夢を見なかった…こんなの初めてかも…」


 もしかすると物心ついてから初めてかもしれない、全く夢を見ずに寝る夜を過ごしたリナリィは驚くほどスッキリと目を覚ました。


「おはようリナリィ、よく眠れたみたいだね」


 リナリィのベッドにピョコンと飛び乗るトイプードルに良く似た動物、トイプードルよりも胴が短く、四足歩行よりも若干二足歩行よりの骨格をしているようだ。


「おはようアウラ、なんだかすごく実感が湧いたわ」


 リナリィは目覚めて一瞬、むしろ全て夢だったのではという思いに駆られたが、今目の前に飛び込んできた自らのソキウスアウラを見て、一気に全てが現実だと実感した。


「そっかぁ、私もV.C.T(ヴィクト)に、幻顕者(リアライザー)になったんだ…」


「現界ではボクの存在以外は本当に普通の人と変わりないけどね」


 パタパタと尻尾を振るアウラをリナリィは抱き上げて抱える。


「うーん、この世界にもしまた楽園(パラディーゾ)が来ても私は何も出来ないのか…」


「この世界にいる間はボクが常にジャミングをかけてるから、楽園(パラディーゾ)漂流者(ドリフター)も入ってくる心配は無いよ」


「そうだね、もうあんなのに私達の世界をめちゃくちゃにされたく無いし、それなら安心かな」


 リナリィはアウラの頭を撫でながら言う


「リナリィ、ボクは別に子供じゃないんだから」


 アウラの尻尾は激しく振られている。


「あら、嫌なの?」


「別に嫌なわけじゃないけど、人前ではしないでくれよ」


「ふふ、わかった」


 こうしてリナリィは照れながらも内心喜んでるアウラを母親が様子を見に来るまで思う存分愛でていた。


 そして、遅めの朝ご飯を食べている頃、家の中で身に付けているとおかしい為、ポケットに入っていた耳飾りに変化しているアウラに、アルバートからの連絡が入る。


「リナリィ、アルからミッションだ、シフトするよ」


(! うん…わかった!)


 リナリィは戻って来た時の為に手にしていた食器をテーブルに置く


「アジャストタキオン展開…ユニバースシフト」


 リナリィはポケットのアウラが展開したアジャストタキオンに包まれ特異領域(シンギュラーゾーン)のイーバの中へとシフトした。


「お、来た来た、昨日は良く眠れたか?」


「ヤッホー!リナリィ」


「やぁ、おはようリナリィ」


 ソウマとメリル、そしてアルバートがイーバの中でリナリィを待っていた。


「皆おはよう、すごいね、夢を見ずに寝たのなんて初めてだったかも」


「ああ、あれびっくりするよな、まぁ夢はこれから思う存分見るからな」

 

 ソウマも自分が現界で夢を見なくなった当初を思い出す。


「アウラ、リナリィの幻顕力(RE)は満タン?」


「うん、オッケーだよ、アストラルもエーテルも問題無し」


 メリルがアウラに確認を取る。


「うん、制服もちゃんと幻顕(リアライズ)出来てるな」


「ソウマの出してくれたイメージをリナリィの幻体に重ねて幻顕(リアライズ)するだけだからね」


 リナリィはソウマとは違い白を基調に緑と青のラインの入った制服だ。


「なんか…ちょっとスカートが短い気もするけど…」


 ソウマとアウラのやり取りを見ていたリナリィか恥ずかしそうに言う


「スケベ根性か」


「スケベ根性だね」


「待て待て待て待て!そこは別に俺が短くイメージしようがリナリィ自身で調節すればいいだろう!?」


 メリルとアルバートの突っ込みに慌てて釈明するソウマ


「とりあえず部屋着で来るなんて状況にならなくて良かったわ」


「ソウマは最初パンツ一枚だったからね」


「いやいやそこは説明してくれなかったからだろ!?」


「聞いてくれれば私が教えたのに…」


 ソウマが幻顕者(リアライザー)として初めてユニバースシフトをした時、ちょうど入浴前だった為パンツ一枚のままシフトをしてしまい、メリルはそのままの格好で幻体を幻顕(リアライズ)してしまったのである。

 

 その後毎回その時に着ている服が反映されてしまうのも何かと不便であると考え、幻体のイメージそのものに常に同じ制服を紐付けるといる方法を考えた。


「さて、本題だ、今回は漂流者(ドリフター)の暴走を止めて、送還してもらいたい、ただ恐らく楽園(パラディーゾ)も介入してくるだろうから、最悪リナリィは先にディスコネクトする事も考えておいて」


 手を叩き、アルバートが話始めると、ソウマもメリルも雰囲気を変え、真剣に話を聞く


「仲間のハンナが先に行ってる、とりあえず楽園(パラディーゾ)を確認したら、リナリィはハンナと一緒に隠れておいてくれればいいからな」


「うん、わかった」


 真剣な眼差しのソウマを見て、リナリィも気を引き締める。


「大丈夫!リナリィはボクが守るさ!」


「そんな事言ってアウラが盾になっちゃダメよ」


 張り切るアウラをメリルが制する。


「わかっていてもつい庇ってしまうって事はあるかもしれないから、くれぐれも忘れずに、な」


「何よりも優先されるのは魂玉(アニムストーン)、だね」


 ソウマの忠告をしっかりとリナリィは受け止めて頷く


「よし、ハンナも待ってるし、そろそろ行くか」


「うん…ハンナさん、どんな人だろ…」


「じゃあ繋ぐよ」


 アルバートが胸の前で球体を持つ様に両手をかざすと、目標の世界に繋がるタキオンゲートが開く

 その頃初めてのミッションよりも、初対面のハンナと会う事にリナリィは緊張していた。


「リナリィ、行くよ!」


「あ、うん!」


「「アジャストタキオン展開…ユニバースコネクト」」


 メリルとアウラがアジャストタキオンを展開しタキオンゲートに突入する。


「リナリィを頼んだよ、ソウマ」


 アルバートは武運を祈って二人を見送った。

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