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V.C.T リアライザー   作者: しょきぬと
19/21

突入・要塞都市

「ヒャハハハハ! 見ろよこの加速! シミュレーション通りの……いや、それ以上の数値だ! アトモスエンジン、絶好調だぜぇぇッ!!」


 上空数千メートル。白き流星と化したアトモスシップのコックピットで、ベリアの狂喜乱舞した声が響き渡った。

 Gに耐えきれずシートに押し付けられているサモアが、青ざめた顔で叫ぶ。


「兄さん、少しは乗員のことも考えてくれ! 後ろの子供たちが気絶しちまう!」

「甘いぞサモア! この弾幕の中で減速なんてしてみろ、それこそハチの巣だ!」


 ベリアの言う通り、アトモスシップの周囲には、防衛軍のドローンが黒雲のように群がり、地上からは激しい対空砲火が降り注いでいた。


 眼下に迫るのは、デバンドの最奥に鎮座する巨大な岩山――防衛軍総司令部だ。

 切り立った山肌には螺旋状に線路が敷かれ、そこを走る無数の装甲列車と、岩棚に配備されたランドシップ部隊が、空飛ぶ侵入者を迎撃すべく火線を集中させている。


「――そこだッ!!」


 船外で轟く咆哮。

 アトモスシップと並走……いや、それを追い越すほどの速度で駆ける「黒鋼の狼」がいた。

 ナハトゲイルの背に乗るソウマが、すれ違いざまにドローンの編隊を素手で引き裂く。


 ガガガガッ!!

 雷光を帯びた鋭利な爪が、ドローンの装甲を紙のように切り裂き、爆発の華を咲かせた。


『ソウマ、右舷3時方向、山腹の装甲列車から高射砲が来るわよ!』


「分かってる! 蹴散らすぞメリル!」


メリルの警告と同時に、ナハトゲイルが空中のドローンを足場にして跳躍する。重力を無視した軌道で、砲弾の雨を紙一重で回避しながら、迫り来る脅威を次々と粉砕していく。


 ソウマの超絶な立ち回りによって、一発の砲弾たりともアトモスシップに届くことはなかった。

 だが、至近距離で次々とドローンが爆散し、砲弾が相殺されることで生まれる強烈な衝撃波は、容赦なく後方を追従する機体を打ち付けていた。加えて、操縦桿を握るベリアが爆風と黒煙を避けるために荒々しい機動を繰り返しているため、船体は右へ左へと激しく振り回されている。


「うわぁぁぁぁッ! 揺れるぅぅッ!!」

「キャアァァッ!」


 急旋回と急上昇を繰り返す船内ではテオとハンナが悲鳴を上げ、ラオが必死に二人を支えていた。ニムスもまた、元軍人の平衡感覚で踏ん張りながら、子供たちを座席に固定する。


「舌を噛まないように口を閉じて! もうすぐ敵の中枢、ワグサム邸よ!」


 窓の外、弾幕を抜けた先に見えてきたのは、岩山の頂上にある広大な窪地。そこには、軍の司令部を兼ねた重厚な屋敷――ワグサム邸が要塞のように鎮座していた。

 だが、その周囲は青白い電磁のドームで完全に覆われている。


「チッ、有人機のお出ましかよ……!」


 ソウマが舌打ちする。

 山頂付近のドックから、大型の戦闘用ランドシップが浮上し、ホバー出力全開でアトモスシップの進路を塞いだのだ。飛行こそできないが、その巨体と重装甲は空中の敵にとっても脅威となる。


「警告する! 貴機は識別不明の未確認機である! 直ちに着陸し、武装解除せよ!」

「警告を無視した場合、全砲門をもって撃墜する!」


 通信機越しに響く、かつての部下たちの声。

 操縦桿を握るベリアの表情から、狂気が消え、苦いものが走る。


「……撃てねぇよなぁ。あいつら、真面目に任務をこなしてるだけなんだからよ」

「兄さん……」


 彼らは敵ではない。

 彼らはただ、総司令の命令に従い、国を守ろうとしているだけの真面目な兵士たちなのだ。


「……構わん、突っ込め」


 迷うブリッジに、アシマの声が響いた。


「そ、総司令!? しかし相手は……」

「彼らは優秀な兵士だ。我々が攻撃意志を持たないと分かれば、ギリギリまで発砲は躊躇う。その隙を突く!」


 アシマは通信機のマイクを掴むと、全周波数帯域に向けて叫んだ。


「総員、傾注! 私は総司令のアシマ・ワグサムである!」


『なっ……!?』『総司令!?』

『馬鹿な、総司令は現在、屋敷の執務室で指揮を……』


 無線から動揺の声が漏れる。


「現在、屋敷にいるのは私に化けた偽物だ! その証拠に、この機体にはワグサム家の人間が乗っている! 道を空けろ、我がデバンド防衛軍よ!!」


 一瞬の硬直。

 そのコンマ数秒の隙を、ベリアは見逃さなかった。


「っしゃあ! 今のうちにぶっちぎるぜぇぇ!!」


 アトモスシップが急加速し、呆気にとられるランドシップ隊のド真ん中を突破する。

 だが、屋敷の直上には、最後の壁――最新型デバニウムリアクターによる、高出力電磁フィールドが展開されていた。


「室長! フィールド出力120%! このままじゃ激突してバラバラです!」

「うおぉぉ! もう止まれねぇぞこれぇぇ!!」


 エーシウムの悲鳴。

 要塞山全体を守護する青白い鉄壁に対し、ソウマがナハトゲイルの上で身を低く構えた。


「メリル、出力全開だ! あの壁をブチ抜く!!」

『了解! 幻顕力(RE)借りるわよ! ゲイルダッシュ・アサルト!』


 ナハトゲイルが全身のフェアリングを展開し、蒼白の粒子を爆発的に噴射する。

 アトモスシップの直前へ躍り出た黒鋼の狼は、自らを巨大な弾丸と化して、電磁の壁の一点へと突撃した。


「こじ開けろぉぉぉッ!!」


 ソウマの拳と、ナハトゲイルの爪が同時にフィールドへ叩き込まれる。

 バリバリバリッ!! と空間が悲鳴を上げ、蒼白の雷光と電磁フィールドが激しく火花を散らす。


 その凄まじいエネルギー干渉は、瞬く間にフィールド発生装置へと逆流した。


『警告! 第3、第4リアクター、負荷増大! 臨界点を超えます!』

『ええい、爆発するぞ! 強制パージだ! フィールドを切れッ!』


 屋敷の周囲に設置された複数の巨大な発生装置が、黒煙を上げて次々と緊急停止していく。

 供給源を絶たれた青白いドームが、フツッ……と音を立てて消失した。


「今だッ、降りろぉぉぉ!!」


 熱波の残滓を切り裂き、アトモスシップが滑り込む。

 目指すは要塞山の頂上、ワグサム邸の中庭だ


ズゥゥゥンッ!!


 アトモスシップが、ワグサム邸の広大な中庭へと強引に接地した。

 美しく整えられていた芝生と石畳がめくれ上がり、土煙が舞い上がる。機体が完全に停止するや否や、ハッチが爆発するように開放された。


「総員、展開! 周囲を確保せよ!」


 真っ先に飛び出したのは、アシマだった。

 土煙の向こうから、ライフルを構えた警備兵たちが殺到してくる。


「侵入者だ! 確保しろ、抵抗するなら撃ち殺せ!」

「待てッ!!」


 アシマの一喝が、中庭の空気を震わせた。

 兵士たちが反射的に足を止める。その声には、長年彼らを率いてきた絶対的な指揮官の響きが宿っていたからだ。


「そ、総司令……!? なぜ、あのアトモスシップに……?」

「馬鹿な、総司令は執務室に……」


 兵士たちの間に動揺が走る。目の前にいるのは、紛れもなく敬愛するアシマ・ワグサムその人だ。だが、今の司令部には「もう一人のアシマ」が存在している。


「現在、司令部を占拠しているのは私に化けた偽物だ! これより私が指揮権を奪還する! 銃を引け!」

「は、はいッ!」


 本物の持つ威厳と、アシマの傍らに立つニムス――かつて「戦場の聖母」と呼ばれた彼女の姿が、兵士たちの迷いを断ち切った。

 道が開く。


「ソウマ君、行くぞ!」

「ああ!」


 アシマを先頭に、黒鋼の狼に乗ったソウマ、そしてベリアたち研究チームが続く。

 一行は混乱する司令部内を風のように駆け抜け、最上階にある「総司令執務室」の巨大な扉の前へとたどり着いた。


「……この奥だ」


 アシマが重々しく告げると同時に、ソウマがナハトゲイルから飛び降り、その重厚な扉を蹴り破った。


 ドォォォンッ!!


 爆音と共に扉が吹き飛ぶ。

 広い執務室の最奥。デバンド全土を見下ろす巨大な窓を背に、豪奢な椅子に深く腰掛けている男がいた。

 その姿形は、アシマ・ワグサムと瓜二つ。


「――遅かったな。待ちくたびれたぞ」


 男は手にしたワイングラスを揺らしながら、ゆったりと振り返った。

 その顔には、本物のアシマが決して浮かべることのない、傲慢で冷酷な笑みが張り付いている。


「貴様……よくもデバンドを好き勝手にしてくれたな」


 アシマが怒りに声を震わせる。だが、男――コマンダーは鼻で笑った。


「好き勝手? 人聞きが悪い。私はこの国の潜在能力を引き出してやっただけだ。平和ボケした貴様には扱いきれなかった『軍事力』という牙をね」


 コマンダーが指を鳴らすと、天井の梁からバサバサという羽音が響いた。

 フクロウの姿をしたソキウス――バキアが舞い降り、主人の肩へと止まる。


「それに、素晴らしい収穫もあった。……そうだろ? そこに隠れている(オーウォー)のお嬢さん」


 コマンダーの視線が、ニムスの背後に隠れていたハンナを射抜く。


「やっと見つけたぞ…ハンナ…だったか?」


 名前を呼ばれた瞬間、ハンナの体からドクンッ! と凄まじい波動が溢れ出した。

 それは彼女の魂の奥底にある(オーウォー)が、コマンダーの放つ幻顕力(RE)の波動に本能的に反応しているのだ。


「ひっ、ああぁ……ッ!」

「ハンナ!?」

「ハンナちゃん、しっかりして!」


 胸を押さえて蹲るハンナを、テオとラオが必死に支える。


「ハハハハ! 素晴らしい反応だ! その恐怖こそが最高のスパイスだ!」


 コマンダーが立ち上がり、両手を広げた。その背後から、どす黒いオーラが噴出し、執務室の空気を重く塗り替えていく。


「さあ、始めようか。デバンド全土を巻き込んだ、華麗なる『絶望の狂宴パーティー』を!」


電磁フィールドを破るとき光〇力研究所よろしく「パリン!」にするかどうか悩んでやめました

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