来訪者
モスト重工の主任研究員になると、各々にラボが与えられる、そして、鉱山用重機と兵器開発を主軸にしている関係上、そのラボは軍事用シェルターによって他のセクションと隔離されている。
本来はもちろん研究、開発時の万が一の事故による被害を、ラボ内部のみで抑え込む為であるが、裏を返せば外部からの兵器による攻撃にも耐え得るという事である。
ベリアのラボに辿り着き、少しだけ安堵する一向だが…
「つまり、エーシウム君はあの放送の男に見覚えは無いんだね?」
「は、はい…それなのに軍の方々は従ってるので、アシマ様に何かあったのかと思いベリア様にお声掛けしたのですが…」
「なるほど…我々が家族であるからあの男と私を見間違えなかったわけでは無いという事か…」
エーシウムは自分の直属の上司の父親、デバンドの守護神と誉れ高い呼び名を与えられた防衛軍、その総司令に外部の人間でありながら市民に認められて就任した傑物であるアシマを、よりにもよってその防衛軍が見間違えるという事自体が考えられない
「見間違え…ますか?あの男と…アシマ様を?」
「エーシウムさんの疑問はわかります、僕自身目の前であの男を見たがまるで似ている要素なんか無い、そもそも奴に似せる気がある様にも見えないんです」
唯一ナウラを目の前で見たサモアもそんなはずは無いと言う
「それなら…見間違え以外であの男を父上だと認識させる方法は…」
「催眠…か?」
「催眠…確かにそうであれば見た目が全く違っても認識を阻害出来るのかもしれませんね」
アシマの推測にニムスが同意する。
「奴が現れた瞬間から皆何の迷いも無く奴を父上だと認識していた…いつの間に催眠をかけたのかはわからないけど、今考えられるのはその辺りでしょうか」
「話の途中済まない、次はクラジールの外周線路が砲撃されたと、ミバイデンの放送が報道している」
ベリアが話に割って入り、情報発信の街「ミバイデン」の報道により得た砲撃の被害を伝える。
「詳しくはまだわからんが、直接奴を見なければ、私だと認識させられないのかもしれん、このモストにいる人々に顔を合わせに行ってみるか…」
「少し危険かもしれませんが、現状のまま閉じこもっていても仕方ないですしね」
アシマの提案にサモアも賛同する。
「そうだ、もし奴を何者か分からない人が多数いるならば、少し行動範囲を広げられる…まず私の指示では無い事を市民の方に知っていただき、少しでも混乱を鎮めよう」
「そうですね、まずは研究棟内の研究員に声をかけてみましょう」
「うむ、案内を頼む」
ベリアが先導し四人はは続いてラボを出る。
「しかしあの男…目的は無いと言いつつも都市封鎖か…」
「我々をデバンドに閉じ込めるという行動自体は目的ではなく、手段…という事ですかね」
「目的は無いが手段を講じる…?」
一向はナウラの行動を分析しながら歩く
「父上、この場所に研究員を集めます、一度顔を隠しておいてください」
「ああ、わかった」
ベリアは新兵器のテスト場のモニタールームへ案内し、そこから開発棟内へのアナウンスを流す。
「棟内の皆様、私はデバニウム第五研究部筆頭主任、ベリア・ワグサムです。防衛軍の行動に現在混乱の真っ只中でしょうが、私からわかり得る範囲でご説明をさせて頂きたいと思っております、よろしければ第五研究部のテスト場へとお越し下さい」
「さて…誰か来てくれる人はいるのか…」
「通路で誰ともすれ違いませんでしたし、皆さんもう避難してらっしゃるとか…」
「いや、ここの研究員なら、下手に避難するより、ラボやテスト場にいた方が安全だと考え…ほら、第五研究部のメンバー達だ」
ベリアがモニターを指差すと、テスト場にある開発中の重機や兵器の中から六名ほど人が出て来る。
「主任!無事だったんですね!アトモスシップで飛び出したと思ったら防衛軍の宣戦布告とか意味がわかりませんよ…」
「心配かけて済まない、私も全てを把握しているわけでは無いが…とりあえずそっち降りる」
宣戦布告をした防衛軍、その総司令であるワグサム家の次男であるベリアに対して、心配をする研究員達
「ちゃんと部下を大切にしてるようだな」
「はい、ベリア様はいつも私達を気遣ってくださってます」
「幼少より見本となる人間がそうしてただけのはなしですよ」
「あら、私の事かしら?」
「母上はもう退役してましたよ、もちろん尊敬してますが」
そういったやり取りをしながらモニタールームからテスト場へと降りていく
「皆、無事で何よりだ」
「それはこっちの台詞ですよ!十分にテストしてないアトモスで外気飛行なんて!」
「それは本当に申し訳ない、のっぴきならない事情があったんだ」
ベリアは素直に頭を下げて謝罪する。
「上司であっても叱責する時はキチンとする、良いちーだ」
「部下を想い、部下に想われる、こうあるべきですね」
アシマとサモアはそう嘆息する。
「こちらの方々は…?」
「その前に皆に一つだけ聞きたい事があるんだ、先程の宣戦布告放送、真ん中で喋っていた男に見覚えはあるか?」
アシマの存在に気付いた研究員、アシマの顔を晒す前にベリアが質問する。
「いえいえ、むしろ見た事が無いから余計わけがわからないんですよ」
「なんか軍服も見た事のないデザインだったし…」
研究員の反応に三人は頷き合う。
「皆様、混乱を和らげる為にと、ご挨拶が遅れて大変申し訳無い」
アシマが軍帽を取り頭を下げる。
「アシマ様!」
「ご無事だったんですね!放送ではお姿が見えなかったので心配しておりました!」
「まんまと防衛軍を乗っ取られた愚物に勿体無いお言葉でございます」
アシマはもう一度深々と頭を下げる。
「ベリア様!他の研究部の方々もお見えになりました!」
エーシウムがテスト場に来た研究員達を連れて来る。
「ベリア様!防衛軍に一体何があったんですか!?」
「ご説明頂けるというお話でしたが…」
他の研究部の者達もまさかの事態に早急な説明をもとめる。
「皆様、まずはこの度の防衛軍の宣戦布告については、私から謝罪を」
アシマが前に出て深々と頭を下げる。
「アシマ様!ご無事だったんですね!…じゃあそれこそあの男は一体誰なんだ…」
「皆様、私サモア・ワグサムから説明させて頂きます、どこまでご理解頂けるかわかりませんが、私の目で見て耳で聞いた事を全てお伝えします」
サモアはこれまでの経緯を全て研究員達に話した。
「あの男を…アシマ様だと思い込んでる…?」
「何一つ似てないぞ…」
「皆様の疑問はごもっともです、私自身見た事が現実であったのかと疑いたくなるほどでした」
研究員達は当然の反応を示すが、目の前に長男のカイムを除いたワクザム家が集結している事が信憑性を高めた。
「それで、これからどうなさるおつもりなんですか?」
エーシウムが疑問を投げかける。
「仮定ではあるが、少なくとも直接あの男を見ていない人には、あの男と私を正常に区別出来る事がわかった、奴の目的は以前不明だが…」
今後の方策を考える一同、その時丁度アシマの後方に空間の歪み、アジャストタキオンが発生する。
「なんだあれ…?」
「!?父上!こちらへ…うわっ!!」
見た事もない異様な光景にサモアがアシマを呼び寄せようとした時、アジャストタキオンが光子となって霧散する。
「…こりゃあまた、随分と人目に着く所で…」
「なんだ!?一体どこから!」
「な、何者だ!?」
「あ、いやぁその…決して怪しい者では無いんだけど…」
「ソウマ…それは自分で怪しいですと言ってるようなもんよ…」
「ごもっとも…」
トホホと、ソウマはメリルのツッコミに項垂れた。




