「非日常へのコール」
「皆…どうしたんだ…?あれが父上だと…?」
おかしい。
あの男の軍服は黄土色じゃない。
デバンド防衛軍の制服とは明らかに違う。
なのに皆、あれが父上だと——信じている。
目が正常に機能していない。
「おい、頂上直通のエレベーターはどこだ?」
ナウラが問いかける。
兵達がサモアの方へ視線を向けた。
(まずい)
サモアは答える前に列を離れた。
自然に何でもないふりで。
足が震えていた。
コンテナの影に滑り込み、息を殺す。
「あれ?」「どうした?」
そこにサモアの姿は無く、兵達は戸惑う。
その様子に気付いたナウラが問う。
「……サモアのフルネームと立場は?」
「サモア・ワグサム特尉官であります」
(バレた)
心臓が跳ね上がった。
「ワグサム特尉官ね…まだまだ甘ちゃんだということか」
あの男の声が、コンテナ越しに聞こえる。
低くて、落ち着いていて——まるで怒っていない。
それが余計に怖かった。
「半分は俺と来い。残りはサモアを探せ。
危害は加えるな」
「ハッ!」
足音が散らばった。
探している。
(父上は——今どこにいる)
直通エレベーターの場所は知っている。
だがコードは特尉官になった日に変えられた。
知らされずに。
「立場は一般兵と同じ」——父の言葉が今になって牙を剥く。
(ベリア兄さんに連絡するしかない)
サモアは足音を殺し、警備のいなくなったドックへと向かった。
======================>
その頃、アシマ・ワグサムはまさか似ても似つかぬ赤の他人が自分に成り代わり、あまつさえほとんどの者がその事になんの疑いも持っていない等、そう、夢にも思ってはいなかった。
「総司令、現在モスト重工で開発中の新型ランドシップの有人テストのスケジュールか届きました。ご確認下さい」
「ああ、ありがとう」
「今回の新型はデバニウム濃度の高いエリアであれば継続飛行が可能になるそうです」
「おお!それならば高所への救助活動も一層迅速に行える様になるな!」
「はい、それに実用化すれば十二峰への移動も捗るでしょう」
アシマが秘書官と新型輸送機の会話をしていると、アシマのプライベートアラームが鳴った。
「おっと、済まない遅いが今からランチの時間だ、少し失礼するよ」
「ごゆっくり…とは行かなくとも、奥様との時間を楽しんでいらして下さい」
「ああ、ありがとう」
アシマは嬉しそうに司令室を出て、併設された自らの居住区へと向かった。
「あら、おかえりなさい貴方、聞いてたよりは早かったわね?」
「ただいまニムス、早かったかな?と言っても普通はもうオヤツの時間だろ?」
アシマは帰るとすぐに妻ニムスにハグをした。
アシマは有名な愛妻家だ、それは対外的なパフォーマンスなどでは無い、ニムスはそもそも先代当主の娘、外国の将校であったアシマが恋に落ちたからと、その恋を実らせる為にどれほどの障害があるかなど想像に難くない。
アシマはそんな障害すら厭わない覚悟でニムスに愛を示したのだ。
実際はアシマの有能さと人柄でニムスの周りの人間もすぐに絆され、敢えて一番の障害を言えば、元々所属していたマバルバ国軍の上官らに何度も寂しがられた事くらいだ。
「私の残りの人生の内、君と過ごせる時間があとどれだけ残っているかを考えれば、これくらいは許してもらうさ」
「ふふ、貴方はキチンと責務を果たしてるから、デバンド市民は文句一つ言えないわね」
もう一度二人は強くハグをする。
「さて、じゃあ食事の準備をするわね」
「ああ、今日もニムスの料理を頂ける我が幸運に感謝するよ」
「もう、大袈裟ね」
そう言いながらもニムスは嬉しそうに昼食の準備をする。
<ポーンポーンポーン>と、ワグサム家の通信回線がコール音を鳴らす。
「あら?何かしら?」
「やれやれ、これはニムスの料理にはありつけないのかな?」
アシマはまた追加の職務でも入ったのかと、仕方ないなといった表情で通信回線を繋ぐ
「こちらコールベースワグサム、私はアシマ・ワグサムだ」
「ご無沙汰しております、父上」
「ん?おお!ベリアか!本当だぞ、もう少し…」
「ちょっと!兄さん時間が無いんだ!!父上!?ご無事なんですか!?」
「その声…サモアか?何故ベリアの所にいる…?やれやれ、配属前に言っただろう?コネで上がった凡骨だと言われない為にも…」
「それどころじゃないんです!!どうか今だけは何も聞かずに、とにかく今すぐ母上を連れてそこから逃げて下さい!!」
自分がアシマに連絡を取るとどういう対応が帰って来るかなどサモアは理解していた、故にその叱責を遮り懇願する。
「……よし、わかった、逃走のプランは?」
「!流石です父上…!相手は直通エレベーターを見つけられなかった、今ならまだ間に合うはずです、ランドシップでとりあえずモスト重工の兄さんのラボまで…」
アシマは自分の言葉を遮ってまで己の意思を貫こうとするサモアの想いを汲み取り、即座に思考を切り替える。
サモアが流石だと感服したのは、その相手の意思を汲み取る力である。
「待て、サモア」
ベリアの声に感情はなかった。ただ速かった。
「逃走に迅速さが必要であるなら、このラボまでは時間がかかり過ぎる。父上、こちらから迎えに行きます。ドックで落ち合いましょう」
「…なるほど、新型か」
「ええ。テスト前ですが——今夜が初フライトです」
短い沈黙。
「全く、父上には敵わないな…」
弟には聞こえない声量で、ベリアは呟いた。
事態の詳細はわからないが、弟の焦り具合からして、相当な事態だろう
何よりも、聡明な父が即非常事態だと察知したのだ。
「では、十五分後に落ち合いましょう」
「ああ、わかったーーーーーという事だ、ニムス」
「はい、準備出来ております」
通信回線を切り、振り返ったアシマの前には既にエプロンも外し、動きやすいパンツスタイルに着替えたニムスが立っていた。
「全く、君は何度私に惚れ直させるつもりだ?」
「お望みなら何度でも?」
二人はまたハグをし、屋敷の中庭の大木の中に埋め込まれた直通エレベーターに乗り込んだ。
もし少しでも「続きが気になる」と思っていただけたら、ブックマークや評価で応援してもらえると励みになります。
感想もお待ちしております。




