一話 (憲兵隊 小隊長モルブー)
上司に呼ばれ、部屋で話を聞くと近くに賊が出没したという話であった。数は二十人程と言う。こんな時期に出るのは不思議であったが大方、西の戦場から逃げ出した農民だろう。
ザンビツ帝国は四方で戦争を行なっているが、力を入れているのは東の太陽共和国と北の蛮族共だ。逆に重要視していないのが南にある海を超えたアメール海洋国と西の八ヶ国連合の二つ。
西と北は見せかけとは言え農民を徴兵している為、練度が低い。結果、脱走して賊に成る者が多い。
特に周辺の都市の中でこのウルブスが最も大きい為、行商人や旅人が良く訪れて来る。なので賊の討伐は最重要に挙げられる。
動員していい人数を聞くと、二十人程と言われた。妥当な数だ、むしろ少し多い気がするのでその点を聞くと。
クソったれな理由であった。まさかお守りを任されるとは、それも八歳の子供だと。確か元は有名武門と聞いたことがあるが、どんな親バカなんだ。
訓練と実戦が違うことなど知っているだろう。これで少しでも傷付いたなら、俺の出世は無くなる。いや、諦めるな逆に成功すれば出世に繋がる。
直ぐに俺は討伐隊のメンバーを集める。出来るだけ優秀な者を選んだ上に馬も三頭、借りる事に成功した。
これなら無事に任務も成功し、お守りも完璧だ。
当日に現れたのは魔獣の馬、通称『魔馬』に跨り、身長が百六十cm近くある、落ち着いて此方に挨拶してくる自称八歳児だった。背に背負っている鉄塊は何でしょう?
驚愕したが、此方の指示には理解してもらえた様だ。なのでその魔馬を近づけないでください。行軍中は馬が魔馬に怯えてしまい乗る事が出来ないので、一番前でお願いできませんか?
素直に従ってくれるが、怖いものは怖いのだ。だが大人の意地を見せてやる。あの、速いので少し緩めて下さい。
賊を見つけ戦闘になったが、全然話が違う。何が二十人程だ六十人程いるぞ、平原では隠れる所なんて無い、このままではまずい。いずれ押し込まれる、出世どころか命が終わる。
いきなり膨大な魔力を感じ取り後ろ振り返ると、魔馬と共に此方に向かってくるグラフィルの笑顔がすれ違う際に少しだけ見えたと思えば後ろ姿を追っていた。
賊の中には笑っている者もいたが、俺たちは全員驚愕していた。つい、口から化け物と出た。
そこからは一方的な殺戮であった。逃げる者、戦う者、降伏する者、その全てを笑いながら鉄塊で粉砕していく。気づけば周りは血と臓物の海になっていた。
全員が助かった安堵より恐怖に凍りつく。唯の一人も言葉を発する事無く、殺戮は終わる。
かなり遠くに離れているそれが此方を見た時、俺は心の中で絶叫する。殺される、浮かんだのはその言葉だけであった。
しかし、興味を失った様に視線を切るとそのまま走り去って行く。瞬間、俺たちは地面に吐いていた。
しばらくして落ち着いた俺は、隊員に大きなかがり火を作るように命令する。ため息を吐きながら、片付けるぞと声を出す。
少しでも現実から目を逸らす為に。