一話 (サーベツ家 ミエット婦人)
我がサーベツ家は騎士の位とは言え古くは建国当初から続く由緒ある騎士である。先祖は一騎当千の活躍を当時の帝王様に見出されて奴隷でありながらも、騎士の位を頂いたと聞いている。
しかし、それも七百年前の事であり我が家は衰退していた。政略結婚として選ばれたのが同じ騎士家のインケである。
作業的な夜の営みの結果、生まれて来たのが息子のグラフィルであった。最初の頃は愛おしいくあったのだが、三歳の生誕祭で倒れた際に息子の様子が様変わりしたのだ。
感情をあまり出さず、声もあまり出さない。それに過剰な魔力を身体に纏う様になり、ひたすら常軌を逸した鍛錬を行なっている。魔力を纏う事で身体能力を向上させる事は知っているが、鉄塊の棒を片手で振り回している時は目を疑った。
剣と魔法の教師役であった者たちは、逃げる様に去ってく、だが軍事と内政の教師役は教えれないと諦めていた。
私は息子に何故そこまで強くなりたいのかを聞く。
「勝つ為です」
短く当たり前の内容であったが、その目を見た瞬間、私は逃げる様に息子から離れた。余りにもその目が狂っている様に見えたからだ。息子の視界に映されたく無い一心で逃げる。
それ以来、私はアレを息子とは思えなくなっていた。
四年後、馬が欲しいとアレに言われだが、我が家にそんな余裕は無い。しかし、夫が馬の魔獣を与えようと言いだす。
魔獣とは、魔力が過剰に与えられた獣の事である。食料の代わりに魔力を必要とし、頭は良いが凶暴で魔力が全身を強化しているので、魔力量が多く適正のある魔獣使いしか使役出来ない危険な存在だ。
上手くいけば、魔獣に殺された事に出来ると言う。私たちの手で殺す事は難しいが魔獣ならば。期待を込めて処分される予定であった馬の魔獣をアレに与えた。
アレは踏まれ、噛まれても表情を変えず戯れて来る犬をあしらう様に接している。私たちは恐怖した、このままいけばアレは恐ろしい存在になると考えた。
知り合いに頼みアレを殺す手筈を整える。貧困街のゴロツキを雇い、次いで買収した平民に賊の情報を伝えさせる。
実際より少ない賊の数を憲兵隊に報告させる。巻き込まれる憲兵隊には申し訳無いが犠牲になってもらう。
そして、アレを憲兵隊に売り込む。多くの貴族が箔付けの為に憲兵隊の一員に一時的になる事があるので、怪しくは無い。
そうしてアレを戦場に放り込む。死んでくれる事を祈って。