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14.大好きな遊び

 

 島に遊びにやって来た一尾と二尾を幻獣たちが取り囲み、なんの遊戯をしようかと相談し合った。

『かけっこは? ボール遊びは? かくれんぼ? 湖へ行く?』

 どれも楽しそうで選べない。

『とりあえず、全部順番にやってみる?』

『あ、シーソーは?』

『シーソー?』

 初めて聞く遊戯で、一尾は首を傾げた。

 まずはやってみようということで準備をする。

 短い小さな丸太に細長い板を持って来る。二組用意し、片側にティオ、もうひと組の片側に一角獣が陣取り、幻獣たちは二手に分かれて並ぶ。

 片側をティオや一角獣が踏むと、逆の側にいる幻獣たちの身体が持ち上がる。ティオと一角獣が片前足の力を緩めると、今度は沈む。これを繰り返す。緩急をつけた動きに歓声が上がる。

『面白そう!』

『一尾もやらせてもらうか?』

『うん!』

 九尾の番が来た。

 ティオは思いっきり踏んだ。しかし、九尾はこれを予測していた。逆らわず力を利用して高く跳ねあがる。両前足を真っすぐ上に掲げる。

「きゅーっ」

 頂点に達した際、両後ろ脚を畳み、その間に尾を挟み込む。両前足でそれらを固定し、前転宙返りを数回行った後、すた、と後ろ脚立ちで着地する。両前足は再び高く掲げている。

「きゅふふん」

『わあ! きゅうちゃん、すごいね!』

『すごいね!』

 一尾がきらきらした目で歓声を上げ、リムも笑って同調する。

『流石は、きゅうちゃんだね、二尾にいちゃん』

『うん。本当に器用だなあ』

 こうやって様々な遊びを通じて、一部幻獣たちの尊崇を集めている九尾であった。



 木の枝に垂らした布に顔から身体を突っ込んで遊んでいた一尾が、飛び上がってうっかり巻き込んで布もろとも落っこちる。布が絡まったせいで着地は失敗、横ざまに倒れる。

 シアンは慌てて近寄った。

「だ、大丈夫?」

 布の隙間から顔を出し、ちょこんと見上げる。

『うん!』

『一尾、見せてみな』

 二尾が一尾から布を取り去り、ちょいちょいと身体のあちこちを突く。二尾のすることを首をひねって眺めていたが、脚を触られ顔を歪める。

『シェンシさんに薬をもらってくるから、じっとしていな』

『うん……』

 とたんに、しょんぼりと項垂れる。

『お兄ちゃんにみてもらった途端、痛いのが分かったんだねえ』

『ぼく、前にね、生垣に頭を突っ込んだのを引っこ抜いた時、シアンに大丈夫って聞かれたら、ちょっと痛くなっちゃったことがあるよ』

 でも、撫でて貰ったらすぐに痛くなくなったのだと言う。

『うーん、それはシアンに心配して欲しかっただけなんじゃあない?』

『違うもの! 本当にちょっと痛くなったんだよ!』

『それは心の働きの問題だな』

 九尾の揶揄いにリムがへの字口を急角度にし、鸞が仲裁に入る。

 心と身体は密接につながっているために、心が疲労すると身体に影響が及んだり、身体が衰えると心も暗く沈むのだという。

『だが、一尾のは高揚した気分のままなら気づかなかったことを、二尾が冷静に見極めたというところであろう』

『にいちゃんは僕よりも僕の身体を知っているってことだね!』

 鸞の締めくくりに一尾が嬉し気に顎を上げる。

『面倒見が良いからなあ』

『……』

『しかし、二尾は二尾できちんと自分のことも気をつけなくちゃいけないにゃよ』

『はい』

 ユルクにネーソスが同意し、カランが慮るのに二尾は面はゆそうに頷く。

 その日は静かに遊んだ。

 違う日に、ボール遊びをした。

 海中の魔獣の皮をなめし、縫い合わせて作ったボールが良く弾む。

 一尾は本能に任せてじゃれついた。前足で蹴ったり投げたりするのも良い。

 他の幻獣たちが投げてくれたのに、思わず飛び付きたくなる。

 すぐに他の者に渡さず、しばらくつき纏っていても、みな、微笑まし気に見守っている。そうしていた後、他者に投げたり蹴ったりしたら、不意をつくようで、面白いと言われた。

『ねえ、ユルク、ネーソス、ユエ、このボール、一尾にあげても良い?』

 素材を得た者と作成者にリムが許可をねだる。

『……』

『うん、良いよ』

『もっと作るの』

『大きさを変えると良いんじゃないかにゃ』

 それぞれ是と言い、カランが提案する。

『それは良い案でござりまするが』

『破損した時のことを考えて』

『もうひとつ予備を作っておいた方が良いのではござりませぬか』

『あは。わんわん三兄弟は随分一尾が気に入ったんだね』

『良い仔ですからね』

 わんわん三兄弟も案を出し、麒麟がおっとりと笑い、リリピピも同意する。



 二尾が不在の日の夜、一尾の部屋に九尾がやって来ていた。

 二尾の代わりに九尾が寝付けようとするも、不発に終わる。末弟は目を爛々とさせ、いっかな眠ろうとしない。もう少し遊んでいたいという。

『ねえ、一尾、いい加減眠ってよォ』

 寝床で寝そべりながら、九尾が一尾を見上げる。

『眠くないんだもーん』

 一尾は昼間に集めてきた形が風変わりな石や良い香りのする木の枝を並べて遊んでいる。寝る時間だと言われても、まだ眠たくないのだ。

『じゃあね、きゅうちゃんがお話してあげる』

『えー、もう聞き飽きたあ』

 気安いからか、そんな小憎らしいことを言う。九尾は構わず語り始める。

『昔むかーし、あるところに一尾という子ぎつねがいました』

『あれ、僕?』

 コレクションを放り出し、振り向いて、横たわる九尾に一尾が近寄った。その一尾を両前足で抱きかかえるようにする。一尾はおとなしく九尾の腹辺りで丸くなる。

『そうだよ。「えーん、えーん、一尾は泣いていました」』

『えー、僕、泣いているのぉ?』

 首をひねって九尾の方を見やりながら、一尾が不服そうに口を尖らせる。

『どうして泣いているんだろうね?』

『それをきゅうちゃんが話してくれるんじゃないの?』

『一緒に考えようよ』

 小生意気に返してきて可愛い、と内心九尾は笑う。

『転んじゃって足から血が出たのかな』

『えっ、血が出ちゃったの?』

 ちょっとばかり痛い話をすれば、すぐに素直な反応を見せる。

『それとも、他の妖狐にいじめられたのかな』

『えぇ!』

『あ、うん、それはない』

 九尾は自分の言をすぐに否定した。

『そうなの?』

『うん、だって一尾をいじめたら、即座に八尾が出て来るもの』

 小首をかしげる一尾の頬や後頭部をなでてやりながら、眠れ、眠れと念じる。

『八尾様が? にいちゃんじゃなくて?』

『さすがに離れていたら、二尾は気づかないよ』

『にいちゃん、遠くにいるのかあ。あ、でも、八尾様は気づくの?』

 しょげたり不思議そうにしたり、子狐は忙しい。

『気づくよ。一尾や二尾がいじめられて泣くようなことになったら、どこにいても気づいてやってくるよ』

 威厳たっぷりの大妖八尾はこと一族の末弟とその上の兄のことになったら狭量になる。だからこそ、一族の中でも力が弱い一尾や二尾に殊更手を出そうという者はそういない。

『いじめっ狐を懲らしめてくれる?』

 懲らしめるなどという難しい言葉を知ったのは、やはり、幻花島で絵本を読んでもらっているからだろう。予想通り、受ける影響は甚大だった。

 無論、デメリットもある。可愛くて素直な妖狐の子をシアンらが好むことは容易に想像できた。となれば、一尾にしろ二尾にしろ、精霊の力が及ぶ。

 そう考えると、精霊は八尾に似ている。関心を持った者には力を及ぼす。

 いや、力ある者であれば、自然とそうなるのかもしれない。

 力があるのに、その影響を考えてなるべく使わないようにするなど、シアンくらいなものだ。なお、その影響を緻密に計算するのが風の精霊である。

『うん。ぎったんぎったんに』

『きゃはは、ぎったんぎったん!』

 小さい子供は擬音が好きだ。一尾も例外ではなかった。

 そうやって、九尾のお話に聞き入りながら、徐々に目がとろけてくる。腹がふいごのように規則正しく膨らんではしぼむ。

『おやすみ』

『ん、にいちゃ……』

『寝入りながらもブレない子ネ!』

 きっと、二尾と過ごす夢を見ているのだろう。ならば、良い夢に違いない。

 九尾も安心して眠りについた。



面倒見の良い九尾。

生まれて間もないリムにあれこれ教えたり、

小さなリュカともすぐに仲良くなりました。

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