日常部の日常
高校の3年間というのは人生において非常に多くのウェイトを占めると大抵の大人は言う。定年までの60年間のうちたったの5%でしかないのにも関わらず、一生忘れられないような経験をいくつも重ねてきたかけがえのない時間なんだそうだ。 例えば部活であったり、例えば勉強であったり、例えば恋愛であったり。何かにあそこまで熱中できたのは大人になってからはなかったと。良くも悪くも若かったんだな。そうやって振り返るのだ。
コツコツコツ。人気のない校舎に俺の足音だけが響く。節電対策で電気が消されている廊下はまだ日が出ているのに薄暗く、なんだか心細い。今はまだいいが、冬になればもっと暗くなるがどうするのだろうか。そんなことを考えながら目的の教室に向かう。
「もうすこしいい案出してよ!」
「いやそんなこと急に言われても……」
扉の前に着くとそんな会話が聞こえてきた。中にいるのは相嶋と木更津の2人のようだ。ガラガラと戸を開け中に入る。
「……あ、おはよう」
木更津から視線をこちらに移し相嶋が無愛想に言う。中にいたのはやはり2人だった。
「うーんおはようというには少し遅いかな。でもこんにちはというのもなんか距離がある感じがする…どう言うのが正解なんだろう」
「そんなのどうでもいいでしょ」
「ま、そうだね」
「おっす、とかでいいんじゃないか?」
「それでいいか。おっす!」
冗談っぽく手を挙げる木更津。いい加減なようで場を明るくのが上手いんだな、と言うのが知り合ってから半月経った印象だ。
「それでなんの話をしていたんだ」
「あ、そうあのね、四月ももう半分終わったでしょ?このままダラダラ毎日を過ごしてても仕方がない気がしてきたの。それでどうにかしようって話し合ってたの」
「どうにかってそもそもそれが俺たちの活動目的だったんじゃないのか?」
「いや、だからそれを変えようと思うの!」
……なんだそれはいくらなんでもそれは無計画すぎやしないか?
ここはC411教室。C棟の4階、11番目の教室という意味する。C棟はいわゆる離れでホームルームはなく、選択科目の教室ばかりの棟である。そこの最上階の4階、一番奥の11番目の教室。いってしまうと校内一の僻地、それがC411教室だ。そしてその僻地に俺たちの所属する日常部の部室がある。
日常部は相嶋が入学早々創部申請届けを出し、立ち上げた。主な活動は日常で起こった些細なことを報告しあい、何かの媒体にしてまとめること。それだけだ。なぜこんな不明瞭な部活が通ったのかはわからないが、上手いことやったのだろう。