七夕
空ひらり。織姫の羽衣が揺れる。微細な星の屑をまとい、ちらちらと光りながら。雨は憂いだ。愛しいあの人との逢瀬は、年に一度だというのに。
宇宙に揺蕩い、織姫の頬にも雨が降る。
無情。その雨を拭う手はない。
たった一度の過ちで、大きな罰を負わされた。この悲しみは癒えることがない。
透明な水が嘆きの姫を降り込める。出口を塞ぐように。
織姫の細い指が、文字を宙に書く。それはあの人への想い。儚い恋文。それは決して届くことはない。 雨に指す傘と鵲を探す。黒く朽ちた昔日の後悔を背に抱え続けたせいで、すっかり猫背になってしまった。憂慮の原因である眼下の雲雲に視界が奪われてしまう。
雲の上なのに何故雨が降るのか。私には分からない。雲の先には晴れ間が広がっているとは限らないということだろうか。鬱いだ私の逃げ場と未来を塞ぐものはいつ外れてくれるのか。あの頃の熱病が憎い。
すっかり私のただひとつの願いのみに澄んだ心を移した墨も滲んでしまった。紙はもう酷い有様だ。これでは鳥が咥えることも出来ない。
揺蕩う宙に書いたよしなしごとであってよかった。
いっそ、羽が濡れて鵲がとべなくなってしまったら、雲を天の川を渡す橋にしてしまおうか。そうしたらきっと──せめて七夕の一日は。その偽らざる望みは夜の空に溶ける。色んな人の望みを溶かす空は明日の色付けに何を選ぶだろうか。