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コトノハダンス  作者: 九藤 朋・考葦亜房
7/9

水晶

 わななき震える手で水晶の一本を手折った。花よりも硬質な煌めきが私をそそのかした。

水の塊のように透き通っているのに氷より余程硬い。余りに熱い思いを持っている私を冷やす氷の代わりに必要だと思ったのだ。まわりとの温度差を縮めるために。

 相互理解は夢幻で、結局は少しずつ歩み寄るしかない。温度差はさして埋まらず、けれど徒労だとは思いたくない。

 たとえそれが夢幻であっても、舞台が夢の中であれば──信じた物が全て本物になる。

 真贋への疑念は捨てよう。透き通った水晶のように無垢なる心を持とう。

 そうすればいずれ水の凝りのような輝きが手に入る気がする。

 それは、希望的観測かもしれないけれど。

 希望は新しい星に似ている。観測することは難しいくせに、眩く光る。空に溺れているくせに。命はとうに燃え尽きているくせに。

 そんな欠片に私は縋るの? 貴方は縋るの? でも。きっとそれが生きるということ。

 その煌めきに生と死を紙一重する。その欠片を全て捨ててしまえば、目の前が真っ暗になる。パズルが出来ぬまま歪な穴だけ残る。そう言えばさっきから少し風通しがいい。

 この風は清涼を孕んでいる。私が、憎んで恐れて焦がれた清涼を。

 その冬のような寒々しさに対抗するみたいに去年の線香花火を捨てられないライターで燃やす。白いゴミ袋と気の利かない観葉植物だらけのベランダでぱちぱちと湿る音。私の内情のよう。焦がれた餅はヤキモチよりくえたもんじゃない。海苔を巻いて食おうか、きな粉をまぶして食らおうか。

 結局、私はそのいずれも選ぶことなく、手折った水晶を月にかざして夜を過ごした。




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