表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コトノハダンス  作者: 九藤 朋・考葦亜房
4/9

咲く花しのぶ/新しい青

 咲く花はどれも美しい。雅な名前が付くような色が沢山そこにある。心をかしぐその温もりを私は自分の代わりに愛している。今日も花屋の店先を梯子して、色とりどりといっては月並みかもしれないが、個性豊かな花を見て回る。手に触れると壊れてしまいそうだから購入はしない。買うつもりのないウィンドウ・ショッピング。この様子を見た方が居たら、かなり滑稽に映るのだろうが、それを考えると、罫線の多い小説を読むみたいな複雑な気分になるので、考えないことにする。

 これが最後の店だ。オシャレな照明も無ければ、駅に近くもなく、更にそこまで品揃えが良いとも思えないが、不思議な魅力溢れる花が、人間社会と同じように存在する。例えば、この毒のありそうな青色の花。ラピスラズリ。アルカロイド。少し目眩がする美しさの青だ。名前が付いている色かは知らないけれど。

 瞼のシャッターで記憶に焼き付けようと、じっと見ていたら、店先に苦笑いをした一輪の花が来た。花びらに少し紫が入っている。自分を毎日咲かせる為に、種蒔を怠っていない綺麗な顔をしている。

「その花をご存知ですか?」


配慮した言葉を投げて寄越す。キャッチするのに手間取ったのを隠す為に、帽子を深く被り直す。後ろ髪が引かれて痛いが目を逸らす。店員さんは訝しげに、見ている。目が合わさらない。


「貴方、はなしの花になっていますよ。」


不安げに店員が言う。スマートフォンを探る花弄りをしているのに綺麗な手。花を生けても映えそうな手だ。


「あぁ……」


カミソリに似た切れる低い声。溜息の近似値。怖がらせてしまわないだろうか。心配だ。


「その花。新しい青を背負う花なんです。」


 空気感を悟ったのか、花屋になる彼女。新しい青?一体何なのか。


「YInMnブルー。アメリカで生まれた毒性の無い顔料の色らしいです。この色に当たる和名は分かりませんが、無いなら欲しいところです。単なる青には見えない美しい色ですよね。」


YlnMnブルー。近未来的な名前だ。化学の含有量が高い。この雰囲気に合わさる名前なんて果たして有るのか。

機瑠璃(はたるり)色」


機械、機会、機嫌、の機。何処か科学的な所を除かせながら、この美しい色が生み出す雅な機会をこいねがう名前。思い浮かぶと同時に口から出てしまった。少し不安になり、帽子を浅く被り直し、彼女の顔を見る。

 彼女の面には穏やかな笑み。受け取ってくれたのだとほっとする。何だろう。この、罪を許されたような泣きたさは。まるで彼女の胎内に入ったかのようで。こんなのは少し気違いじみている。美しい花には毒があるという。やはりこの美しい斬新な青にも人を惑乱させる毒があったのだろうか。毒性はないと、彼女は明言したけれど。だって毒のあるものを、毒があると公表する人はいないだろう。毒がないも毒があるに等しいのだ。ああ、思考の迷宮。


「綺麗な名前をありがとうございます。貴方がこの花の名付け親ですね」


 彼女は迷宮の出口を明るくするように告げる。自分が花の名付け親だなんて、大それていて現実味がない。彼女の言葉は彼女の優しさであり、それは公に認められる実を伴わないものだと知っていても嬉しくて言葉が出ない。機瑠璃色は言葉をさらっていってしまった。気紛れな春風のように。青いつみびと。機瑠璃は、手にすることが怖くて。だってあんまり眩しい青だから。だけど何かに、恐らくは彼女に背を押されるように、気づけばその一輪を買い取っていた。家に相応しい花瓶などあっただろうか。何とかなるだろう。歩き出して、尊い青に心を平らかにされた心地で、それがひどく快かった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ