マフラー
──私達は緩く交わる嫋やかな糸のようだ。逢うことすら、世間に遠慮した糸渡りのよう。右にも左にも振れることが出来ずに、独楽のように目を回すことしか出来ない。
──私達は緩く交わる嫋やかな糸のようだ。 何度も解けて強く結び直した糸電話の音のようにぼやけてハッキリとしない迂遠な会話を太陽が出ているうちは繰り返す。
──私達は緩く交わる嫋やかな糸のようだ。 太陽が居なくなり、月がその病的に痩せ細った身体を空間から取り出すと、私達はさらにそれを表すみたいに織り重なる。
──私達は緩く交わる嫋やかな糸のようだ。 だから、私は解れるのを怖がった。形にしなければ壊れてしまう……。そんな気がした。
そんなことを考えながら、マフラーを作る。彼に渡す為に。彼の為の防寒具ではなく、私の欲望の形。
傍迷惑な太陽が居なくなった後、これを渡しに行く。
緩く交わる嫋やかな糸。
そこに隠された意図。細く儚く、けれど確かに埋もれている。
太陽は無遠慮に晒し出す。嫋やかだから良いのだ。儚いからこその糸なのだ。
繊月ならばそれをわかってくれる気がして。
紺色の夜空の引っ掻き傷。
私の心の傷もわかってくれる気がして。
緩く交わる嫋やかな糸。
編み上げられたマフラーは、密やかな夜にこそふさわしい。