吐息遊戯
美しき こともなき世を 美しく
呟きを落とすと、高杉晋作? と、すぐに元ネタを看破された。
僕は弱く緩く微笑し、頷く。
夕日の残照が君の白いうなじを艶めかせて彩る。
腕を絡みつかせると、ふわりと良い香りがした。振り向く彼女と唇を重ねる。
一つになった影が、部屋の中に居心地悪そうに佇む。
好きだよと告げると、私もよと返ってくる。
まるで遊戯。
けれどこの浮ついた遊戯の果ては見えない。
どこまで。いつまで。
君を好きでいることが許される?
君は僕の甘えを、知らぬふりで甘やかして。
熱を帯びて蕩けてふやけて融けてゆく。
融けてゆく。
すみなすものは 心なりけり
融解してしばらくした後、君は僕を見透かすように、そう言った。言の葉の甘さに心臓を誘拐されたような心持ちがして……息が出来ない。それを、嘲笑うように、人知れず動いていた、メトロノームだけが、均等に律動し、僕のことを否定する。
心の持ちようだと、信じて、良い、のか?
告白の終わりのない塗り絵をいつまでもして居られるのか? 僕達の関係に斜陽はまだしゃしゃり出てこないでくれるのか? 影はそのまま部屋の隅にうずくまっていてくれるのか? とてもそうは、思えなかった。淹れたての珈琲に入れた氷が溶ける過程を見ているようだ。思いがいつか冷めてしまうのではないかと、そう思ってしまうのは、本能の怯えなのか、理性の保険なのか。
顎をくいっと引かれる。
「私は好きだよ」
そう言って、彼女は僕に和やかな甘さをおとした。ちろちろと内部を這い回る舌が口から出さないようにしていたものを舐めとる。入れ替わりに、彼女の作る水飴が喉を潤す。押し付けていた不安を跳ね除けて、前向きな心が顔を見せた気がした。
惚けていたら、彼女は口を少し尖らせていた。唇の赤が頬にも薄く漂っている。
あぁ、そういうことか。
僕らは、さっきの遊戯の続きをした。