函館 其の九 ご当地バーガーを喰らう②
「いらっしゃいませ、ご注文は?」
店内へ入ると、すぐ正面にカウンターがあった。
注文はそこでするらしい。システムは大手ハンバーガーチェーンと似たようなもののようだ。
「ええと、何にすっかな?」
真剣な顔でメニューに視線を這わせる同士を横目に、店内を観察する。
至る所に映画のポスターやムービースターの写真が貼られていた。壁のみならず、天井にまで。
「おい、お前はどうするんだ?」
すでに注文を終えたらしい同士が急かしてくる。
「ああ、そうね、何かドリンクを、―――じゃあウーロン茶を一つ」
ハンバーガー屋にしては珍しく、ドリンクメニューの一番目立つところにウーロン茶の文字があった。迷わず注文する。
「以上でよろしいですか? では―――」
注文を復唱し終えると、店員さんは席まで案内してくれた。
「……何と言うか、どぎつい店構えねぇ。私、ピエロってちょっと苦手。ほら、一緒に映画見たじゃない」
「ああ、あの後編が微妙だったやつか」
「ええっ、何言ってるのよ、あの後編があるから良いんじゃない。もし前編だけで終わっていたらと思うと、もう……」
端的に言うと怖すぎる。
後編でしっかり例のピエロを退治してくれるから、さらに言えばピエロが大きな蜘蛛に変化してくれるから、我慢出来るのだ。大蜘蛛の類なら、元の世界にいた時に森の生態系を守るために何度か狩ったことがある。
「ああ、だからお前、リメイク版を見に行こうって言っても頑なに断ったのか。あれ、まだ前編しか公開されてないもんな」
言葉に出さなかったこちらの本音を読んだようで、同士がにやにや笑いで言う。
「何よ、あなただって一人じゃ行けなかったくせに」
「あ、あたしは行けなかったわけじゃなく、行かなかっただけ―――」
「―――お待たせいたしました」
店員が料理を運んできた。
「それはあたし、そっちもあたし、ああ、それもあたし、ウーロン茶だけこいつ」
同士の正面にだけ包装紙にくるまれたハンバーガーをずらっと並べると、店員は怪訝な顔で下がっていった。
女性としてもかなり小柄な同士がこれだけの量を一人で食すのは、やはり意外らしい。
もっとも彼女はこれでもドワーフの中ではかなり長身の部類であり、お陰で人間社会にも無理なく溶け込めているのだが。長い耳と完璧に均整の取れたスタイルを隠しようもない自分とは大違いだ。
「それにしても、あなた三つも頼んだの?」
「人気一位から三位まで注文して見た。さってと、はたしてお味は。―――よし、まずはやっぱり一位からだっ!」
相棒が一つ目に手を伸ばす。チェーン店の物と比べると、かなり大振りだ。
「……うまいっ。甘辛いタレがパンに合うな。味の系統としちゃ、てりやきバーガーに近い感じか。唐揚げが、―――ほふっ、揚げたてだな。タレにくぐらせてあるのに、パリッとしてら」
「なんだか、お店の人が聞きなれない商品名を言っていた気がするけど、何なの、それ?」
「聞いたことないか? 有名だぜ。この店の一番人気で、代名詞的メニューと言うか。要するに中華風唐揚げバーガーなんだけどよ」
言いながら、同士はパンをめくり中身を示した。
唐揚げが三つ―――うち一つはすでに半ばまで齧り取られている―――にたっぷりのレタス。唐揚げの色が濃いのは、中華風のタレに漬けてあるからなのだろう。
「―――別に見せなくて良いわよ。というかこの店自体知らなかったんだから、その代名詞なんて知るはずないじゃない」
「はぁっ、まあお前はそうだろうな」
可哀想なものを見る目を向けられた。
同士は続いて二番人気だという目玉焼きの挟まったバーガー、三番人気のとんかつのバーガーを平らげていく。
「うんうん、ご当地バーガーって言うからちょっとキワモノ系を想像してたが、どれもまっとうにうめえ。それに、食いごたえも十分だな。まさかあたしがハンバーガー三つで腹いっぱいになるとは思わなかったぜ」
そう言いながら、同士がお腹をさする。無駄に豊か過ぎる胸肉のせいで目立たないが、そこはぱんぱんに膨れ上がっていた。
「まあ、お気に召したのならわざわざ寄り道した甲斐もあったというものね」
「ああ、函館にいるうちにあと一回は、いや三回は来たいな」
同士は実に満足気だった。