函館 其の八 ご当地バーガーを喰らう①
「ちょっと待ったっ!」
背後から耳を掴まれた。
「あ、あたたっ、ちょっともうっ、何するのよっ。私を異人さんにする気かっ! 何度も言わせないでよねっ」
同士とは身長差があるから、必然下方に捻るような力も加わる。冗談ではなくもげそうだった。
「悪い悪い。……お前、あたしよりも目が良かっただろ。あの緑の看板の向こうにあるの、何かわかるか?」
悪びれた様子もなく謝罪し、同士は指をさす。
次なる目的地へ向かう途中、ちょうど大きな通りにぶつかったところで、同士が指すのはその道の先だ。
「ええと……」
同士の言った緑の看板と言うのは、某家具屋だった。
お値段抑え目で、現金収入に乏しい異世界人には優しいカタカナ三文字の例の店である。この世界に来たばかりの頃はよく通わせて頂いたものだ。
「黄色の、何だか派手な看板が見えるわね」
「よしっ、行くぞっ」
ずっと詰まらなそうに後に続いてた同士が、ずんずんと先を歩き始めた。本来の目的とは別の方向へ。
「ちょっと、そっちじゃないわよ」
「史跡は逃げやしねえだろっ! まずは腹ごしらえだっ」
「腹ごしらえって、セ〇コーマートを見かける度に歩きパスタしてたじゃないっ。順位発表までしてっ」
ほぼ北海道にしかないコンビニチェーンだ。フェニックスのロゴにはつい異世界の故郷が偲ばれる。
フェリーを降りてすぐの店舗に立ち寄って以来、すでに十店ほどはしごしているのではないだろうか。
同士がいたく気に入ったのが百円ちょっとで買えるパスタ等の麺類だった。曰く、ペペロンチーノが一番で、カルボナーラと焼うどんが二位争いだとか。
「あれは間食。飯とはまた別腹だ」
「パスタが別腹なんて聞いたことないわよ」
「今聞いただろう。だいたい朝飯だって食ってないんだぞ」
「―――はぁ。もうっ、仕方ないわね」
確かに、函館に着いた時にはまだ地平線に顔をのぞかせたばかりだった太陽も、すでに中天に差し掛かっている。ここらで腰を落ち着けて食事という時間ではある。
しぶしぶと同士の後に続き、家具屋を通り過ぎ門前に着いた。
屋根の上に掲げられた巨大な看板を見上げる。
一番上に“ご当地バーガー日本一に輝きました”の文字。
真ん中には白塗りの道化師のロゴ。
一番下が店名だろう。ラッキーピ〇ロ。そう書かれていた。