函館 其の七 五稜郭を攻める⑦
「あっ、そうだ。あなた、ちょっとここで待ってて。私もう一度タワーに登ってくるわ」
大砲を堪能し終え、さて退城と一つ目の橋を渡り、半月堡に至ったところで、相棒がまたぞろ馬鹿なことを言い出した。
「はぁ? 何だってそんなこと? 忘れもんでもしたか?」
「だってこうして身近に感じた後に、もう一度上から見てみたいじゃない。あそこは近くで見たらああなってたなぁとか、上からだとこう見えるのかぁとか、思いながら」
「いやまあ、その気持ちは少しは分からんでもないが。しかしあれに登るのだってタダじゃねえし、時間だって―――」
「まあまあ。あっ、せっかくだから上から分かりやすいように、半月堡の先端にいてよっ」
「ちょっと待―――」
長い耳を捕まえようとした手が空を切った。
相棒の姿はすでに遠い。エルフに本気で駆けられては、ドワーフが追い付けるはずもない。
「はぁ、仕方ねえな」
半月堡に登り、先端の石垣近くに腰を下ろした。
「しかし、自然石を組んだだけの石垣ってのは、ちょっと面白いよな」
元の世界では、そしてこの世界でも西洋や中国では、煉瓦造りか、あるいは自然石を使うにしてもモルタルなどで固めて壁とするのが普通だ。ただ石を積んだだけの防壁と言うと一時的な施設に思えるが、この国では数百年前の石垣が変わらぬ姿を留めている。
「そういえば、日本には石垣職人ってのがいたとか、あいつが語ってたっけ」
さすがに細かいことまでは覚えていないが。
そんなことを考えていると、遠く展望台にぴょんぴょんと跳ね、ぶんぶん両手を振る人影が見えた。
この国では珍しい鮮やかな金髪は、間違いなくそのあいつだった。