函館 其の二 五稜郭を攻める②
「ふんふん、色々あるのね。あのぬいぐるみは―――、五稜郭タワーをモチーフにしたゆるキャラかしら? ううーん、可愛いけど、五稜郭じゃなくてタワーの方かぁ。あら、奥に何か。……銅像?」
「おい、買い物は後回しにして、さっさと登っちまおうぜ。つうか、お前の希望で来たってのに、あたしだけ並ばせてるんじゃねえよっ」
五稜郭タワーは、入るとすぐに売店が広がっていた。
そちらへ吸い寄せられていった相棒を尻目に、チケットカウンターで展望タワーの入場券を購入して戻る。
「いたたたたっ。ちょっと、耳が取れたらどうしてくれるのよ。異世界エルフじゃなく、ただの異人さんになっちゃうじゃないのっ」
片手にチケットを握り、もう片手で相棒の長い耳を捕まえた。
「はいはい。今だってただのコスプレ外国人にしか見られてないっての」
この女は自分に集まる視線を、エルフ故のものだと勘違いしているふしがある。
言うまでもなく実際には“ハイテンションではしゃぎ回る金髪緑眼エルフコスの歴女”に対する好奇の視線なのだが。
「いたっ、だから、痛いってば」
相棒を引きずったまま係の人にチケットを提示し、エレベーター―――あって良かった―――に乗り込んだ。人気の観光地らしく、中は込み合っている。
「おっ、なかなか凝ってるな」
「あっ、土方さんだ。あっちは榎本さん」
エレベーターが動き始めると照明が落ち、男達の白黒写真が壁に映写された。相棒は周囲をはばかる様子もなく声を出して喜んでいる。
ほどなく、最上階へ到着した。
「わあっ」
相棒は一声あげると、するすると人込みをすり抜け駆け出して行く。
「ちっ、エルフの身軽さをこんなところでフル活用しやがって」
「―――ちょっと、早く早く、こっちこっち」
周囲一面を覆うはめ殺しのガラス窓の前で、相棒が手招きする。
「……へえ」
隣へ立つと、特徴的な城郭の全容が見て取れた。
「どう? すごいでしょ?」
「何を偉そうに」
相棒は無い胸を張り、ドヤ顔で微笑んだ。