大阪 其の四 道頓堀で食い倒れる①
こんなご時世ですので、気分だけでも外出をお楽しみください。
「もうっ、すごい人ね。お祭りか何かやっているのかしら?」
「いやあ、これがこの街のデフォだろ」
「私、人ごみって苦手なのよね」
「よく言うぜ。大坂城だってすごい人だったろうが」
「いや、まあ、あれは何と言うか、別じゃない。同じ目的を持った仲間と言うか」
「ああそうかい」
我ながら都合の良い言い訳に、同士が気のない返事を返す。
いつもならもっとギャーギャーとけちを付けてくるところだが、今日はきょろきょろと視線を走らせるのに忙しいようだ。確かに、目には楽しい通りだった。
「あっ、あれはなんだ? ああ、たこ焼きか。あっちはそのまんまタコか」
立体看板とでも言えばいいのだろうか。ほんの少し視線を上げると、目に付く造形物がひっきりなしに現れる。大阪の、というよりもこの道頓堀周辺に特有の文化だという。
ただでさえすごい人ごみの中、頭一つ分常人よりも背の低い同士が上を向いてふらふらするものだから、危なっかしくて仕方がない。
「おおっ、出たっ!」
などと思っていると、相棒が突然足を止めた。
「ちょっと、危ないわよ」
注意するも、周囲の人々も歩調を緩めるか、あるいは足を止めているのでかえってぶつかる心配はなかった。
同士が指差し、人々がスマホを向ける先に見えたのは、興味の薄い私でも知っている有名な蟹の看板だった。
「動いてるなぁ」
「動いてるわねぇ」
しばし同士と二人見上げる。
動いている、いや、揺れていると言った方が良いだろうか。何となく頭の中で想像していた動きと比べると、かなり控えめだ。
「……で、どうするの? 食べていくの?」
「う、うう~~ん、予算がなぁ。いけないことも無いが、……いや、ここは我慢だ。―――いやいや、あそこで売ってるやつくらいなら」
同士は一人うんうん悩み抜いた末に、店頭の屋台で焼いている蟹の足だけ購入して、せめてもの気分だけでも味わうのだった。