大阪 其の三 大坂城を攻める③
「なんつーか、こりゃあ資料館って感じだな」
城内には、当時の造形を模した様子は見られなかった。
豊臣秀吉の事績を紹介したパネルや大坂夏の陣を紹介したミニチュアなどが並べられている。
歴オタの相棒にとっては既知のものが多いようだ。お陰でそれほど足を止めることもなく、スムーズに最上階までたどり着いた。
展望エリアになっていて、売店まである。一階にも大きな売店があったのにだ。
最上階まで登り切って気分が良くなったタイミングなら財布の紐もゆるむ、という大阪人らしい算段でもあるのだろうか。
商品は金ぴかに輝くものが多い。明らかに秀吉のイメージだ。相棒の言う通り、大阪の人間にとってこの城は豊臣のお城という認識なのだろう。
「これは、―――見晴らしが良いわねっ」
情緒に欠けた城内にちょっと鼻白んだ様子だった相棒も、展望エリアに出ると声が弾んだ。
「今は他に高いビルもあるけど、秀吉の頃はそうとうに遠くからでも目を引いたでしょうね。あっ、お堀に船が見えるわ。あんなサービスもあるのねっ」
「そうだな」
相棒に上の空で返答しながら、地上の風景に目を走らせる。
この後の、というよりこの旅最大のお目当ては地図上での直線距離で二、三キロと言ったところだ。
日本最大の高層ビル、あべのハルカスが見える。多分その手前辺りに見えるはずだ。
しかし土地勘のない目では見つけることが出来ない。あるいは公園の周辺には高い建物も多いので、それに遮られてしまっているのか。
「ところであなた、さっきから大坂城って口にするとき、どういう漢字を思い浮かべてる?」
「うん? 大阪城だろ? 大阪の阪、阪神の阪だろ?」
「違うのよ、前に函館でも似たようなことを言ったけど、大坂城の坂は坂道の坂なのよ。もともと大阪はそっちの字で書いていたの。函館と同じく明治の初めに正式に、“坂”から“阪”に変わったらしいわ。だからそれ以前のものに対しては坂の方を使うのが正解なのよ」
「へえ、そうなのか」
「函館と違って一応理由も伝わっていて、“坂”の字は“土”に“返”ると読めて縁起が悪いとか、“士”分が謀“反”するに通じるからとか言われてるみたいね」
「ふ~ん」
「と言うわけで、大坂夏の陣とか、大坂城とかは坂の方の大坂ってわけ。でも大坂城のある城址公園自体は昭和になって作られたものだから、阪神の方の大阪城公園なのよ」
「へえ」
上の空で答えながら目を凝らすも、やはり“道頓堀”は見つけられなかった。