大阪 其の二 大坂城を攻める②
桜門、というのをくぐり抜けると天守の建つ区画へ出た。
「うげっ、すげえ並んでるな。あれは、……入城チケット売り場か」
最後尾で案内をしていたスタッフに尋ねると、三十分ほども掛かるらしい。
「……どうする?」
「もちろん、並ぶわよ。大坂城は見てもいいって、約束したじゃない」
「はぁ、しかたねえな」
“食い倒れの街”大阪ということで、壮絶なじゃんけん十番勝負の結果、今回の旅は食がメインと決まっていた。とはいえ一箇所くらいは歴史探訪もということで、相棒が選んだのがここ大阪城だった。
「ねえねえ、あの城、どう見える? 特に最上階のところ」
列に並びながら、相棒が尋ねてくる。
「どう見えるって、……かなり派手な城だよな。黒塗りで、あれはなんだ、金色の虎の絵が描かれてるのか? それに屋根の上にあるのは金のしゃちほこってやつだよな」
「そう、派手なお城なのよ。何となくヒデヨシ!って感じがしない?」
「……まあ言われてみると、イエヤスって感じはあんまりしないかな」
「まあ徳川の大坂城が建ったのは家康時代じゃなく二代将軍の秀忠時代なんだけど、それは置いといて。―――そうなのよ。これは豊臣の大坂城の再現を目指した天守なの! あなたもさっき言っていたけど、やっぱり大阪の人達にとっても、と言うよりも大阪の人達にとってこそ大坂城と言えば“太閤はんのお城”なのよ。だから豊臣の天守の再現を目指したってわけ」
「へえ。それがお前の言う面白い話か」
「待って待って、まだあるわ。ほら、この天守、最上階から下は白いでしょ。これは徳川のお城のデザインなのよ。豊臣の頃は全部真っ黒だったと伝えられているわ」
相棒が指差す。確かに最上階のみ黒塗りで、他は漆喰の白色だ。
「豊臣の大坂城を再現しようにも、すでにその図面は失われていてね。外観を描いた屏風絵が一枚残るのみで、完全再現は難しかったのよ。そこで折衷案として豊臣と徳川の城のハイブリッド天守となったわけ。とはいえ天守と言えば一番に目が向くのは最上階の部分だし、見た目の印象としてはやっぱり豊臣のお城に近いんじゃないかしらね」
「へえ、徳川の遺構の上に、豊臣のお城を目指した豊臣と徳川のハイブリッド天守が乗ってるわけか。それがお前の言う面白いことか?」
「そういうこと。そもそも大阪の人にとって大坂城はあくまで豊臣のお城で、天守再建当時の人達にはここが徳川の遺構だって認識自体がほとんど無かったらしいわ。それから五十年くらい経ってからの調査で、ようやく豊臣の遺構がもっと地下の方に埋め立てられていて、表に出ているのは徳川の遺構だって判明したんだって」
「なるほどねぇ」
「でも、考えようによってはこれで良かったのかも」
「うん? どういう意味だ?」
「だって豊臣のお城を潰した上に立てた徳川の遺構のさらに上に、最上階が豊臣の意匠の天守を建てたんだもの。豊臣びいきの人からしたら、たぶんこれ以上ない痛快な話じゃない?」
「あー、確かに」
そんなこんなで話している間に、ようやく券売機が近付いてきた。