函館 其の十一 五稜郭の支城も攻める②
「うんうん、そりゃあそうよね。どこからでも簡単に駆け登れちゃいそうな高さだから、つい無いと思っちゃったけど、物資を運び込むための入り口は当然必要だものね。―――あっ、普通のお城の虎口と同じで、ちゃんと土塁が互い違いになっているのね」
相棒がうんうんとしきりに首を縦に振りながら前を進む。
出入口は単に土塁に切れ目があるだけではなく、一方が鉤状に二度曲がっている。敵が真っ直ぐに侵入出来ないようにする工夫だろう。
「ああ、これは確かに防衛施設なんだな」
外から見ると小さな土手にしか見えなかったものが、内部から見渡すと四方を囲む土塁であることがはっきりと理解できた。
「四稜郭の名の通り、長方形だな」
「ええ。でも四隅がちょっと突き出ているでしょう。あのおかげで―――」
「土塁にとりついた敵を横から撃ったり、ただの平面よりも射線を増やせるってわけか」
「もうっ、またっ! なんで言っちゃうのよっ」
ドヤ顔解説が鼻につくから、と胸中だけで言い返しておく。
「しかしここは、思ったよりもずっと悪くないじゃないか。五稜郭と比べたら格段にこじんまりしてるけど、それだけにタワーになんか登らなくたって形状がはっきり分かる。もっと観光客が集まっても良さそうなもんだけどな」
「うーん、やっぱり石垣無しの土塁だけっていうのが、地味なせいかしらね。一応五稜郭の支城という扱いだけど、実際には敵が来る直前に大鳥さんが急造した野戦陣地でしかないから、仕方ないんだけどね。むしろ野戦陣地がこれだけしっかりした形で残ってるのが、面白いところなのになぁ」
「実際に戦闘にも使われたんだよな?」
「短い時間だけだけどね。五稜郭との間の拠点が先に落とされちゃったから、撤退したらしいわ。もっと激戦になっていたら歴史に名を残したのでしょうけど、そうしたらこの土塁がここまで綺麗に残ることもなかったでしょうね。それに当然、大勢亡くなったでしょうし」
相棒は周囲をぐるりと見まわしながら言う。
近代城郭は“低く厚く”が基本らしいが、低くはあってもそこまでの厚さはない。そして形状こそ見事だが土塁だけだ。大砲など撃ち込まれてはすぐに崩壊してしまいそうだ。
つまりは追い込まれた側の、急場しのぎの施設と言うことだろうか。
「―――あっ、今日人気がないのはたまたまだと思うけどっ」
相棒は思い出したようにそう付け加え、微妙にしんみりとした空気を吹き飛ばしてくれた。