函館 其の十 五稜郭の支城も攻める①
「あった! ここねっ」
「今度こそ正解っぽいな」
途中、史跡名を冠した農園などに間違って迷い込んだりしながらも、ようやく函館最後の目的地に到着した。
白黒の人物写真―――五稜郭タワーの展示でも見た顔だ―――が描かれた立て看板があるから間違いないだろう。
「しっかし、ここも人気ねえなぁ。五が四になるだけでこんなにさびれるかぁ」
「た、たまたまでしょ。そういう日もあるわよ」
本日何度目かになる言い訳を聞かされた。
五稜郭から歩くこと一時間弱―――もちろんハンバーガー休憩を抜いた時間だ―――、たどり着いたのはその名も“四”稜郭だ。
真新しい立て看板と、いくらか古びた案内板がある。
立て看板は史跡にまつわる歴史を紹介したものだ。五稜郭や“土方歳三最後の地碑”にも、立てられたばかりと見える看板があった。相棒によると函館戦争から今年で百五十年なので、恐らくそれに合わせて作られたのだろう。
案内板の方は、史跡自体の紹介と注意書きなどが書かれている。
そして案内板の向こうに、小さな土手が見えた。あれが目的の四稜郭だろう。
「じゃあ、私は早速、―――っ、いたたたたっ! ちょっと、またなのっ! 今度は何よっ?」
「お前、いま駆け上がろうとしただろう。―――ほら、ここ読んでみろ」
相棒の耳を引っ張って、案内板に書かれたとある一節の正面に顔を据えてやる。
「ええっ! あの土塁、登っちゃダメなの!?」
「らしいな」
一見したところただの土手にしか見えないが、やはり史跡と言うことなのだろう。
「ええーっ、じゃあ、周りから見るだけってこと? いやいや、こう書かれているだけで、実際にはみんな登ってるんじゃないの?」
「かもな。でも確認するすべがない。何しろ今日は、たまたまひと気がないからな」
「ううっ」
管理人棟のようなものもなければ、他に観光客の姿もない。
「ほらっ、とりあえず行こうぜ」
「むぅ」
不満そうな顔をしている相棒を促して―――立場が逆だろうと思いながらも―――、先へ進む。
すぐそばまで近づいてみても、やはりそれは小さな土手にしか見えない。相棒の背丈よりもいくらか高い程度だ。
とりあえず周囲を一周、と考えて土塁沿いを歩くと、思いのほかすぐに切れ目が現れた。
「何だっ、ここから中に入れるんじゃないっ!」
勢いを取り戻した相棒が走り出すのを、今度はあたしも止めなかった。