函館 其の一 五稜郭を攻める①
「着いたーっ!」
「ふう、ようやくか」
地図を片手に相棒が歓声を上げる。興奮のためが、長い耳がやや赤らんでいる。
水堀に掛けられた橋の先には、緑が生い茂った石垣が見えた。あれが件の五芒星の城郭だろう。
「あれ、でも左に見えてるのが城か? じゃあ、正面にあるのは何だ? ―――って、おいっ、入らないのかよ?」
「あったり前じゃない。まずはタワーに登らないと。あなたの疑問も、上から見ればおのずと答えが知れるわよ」
自分と同じく初めて来たくせに、相棒は分かった風な口を利くと、耳をぴくぴくとふるわせた。
「はぁ、まだ歩くのかよ」
「なあに? 体力自慢のドワーフが、この程度で音を上げるの?」
「この程度って、ここまでにどんだけ歩かされたと思ってるんだ。訳の分からないとこばっかだしよ。函館山に登っていくから展望台にでも行くのかと思えば、変な石碑を見せられたりよ」
「変なって何よ。碧血碑よ。大鳥さんが字を書いて、土方さんが慰霊されてるのよっ」
明け方に港に着くなり、海沿いの道を一時間、林道をさらに小一時間も歩かされ、着いた場所がその“碧血碑”である。
「函館山って言ったら、普通は展望台だろうが」
「あんなところ、女二人で朝っぱらから行ってどうなるってのよ」
「そりゃあそうだけどよ。だからって女二人で行く場所か、あそこが? 他に人っ子一人いない代わりに、虫だけは馬鹿みたいに飛んでるしよ」
「虫ぐらい何よ。ドワーフのくせに細かいわね。今日はたまたま、他の観光客がいなかっただけでしょ。むしろ貸し切りなんてラッキーじゃないっ」
「その後もなんだ。真っ直ぐここへ来るのかと思えば、ぐるぐると同じところを歩き回りやがって。一時間以上もかけてようやくたどり着いた先が、また石碑だ」
「仕方ないでしょ。まさか土方さんの最期の地を祀った石碑が、住宅地の中の普通の公園の奥にあるだなんて誰も思わないじゃないっ」
石碑と言うよりも半ば墓のようでもあった“土方歳三最後の地碑”は、遺影が置かれ線香をあげられるようになっていた。
墓前で何故か涙ぐみながら手を合わせる相棒を待つこと数分、さらに歩くことまた小一時間。ようやくたどり着いたのがここ、―――五稜郭だ。
「だいたいお前はなぁ―――」
「あー、はいはい、私が悪うござんしたっ」
相棒はエルフのシンボルの長い耳を両手でふさぐと、さっさと先を歩き始める。
「タワーってあの見えてるやつだろ? もちろんエレベーターはあるよな? 階段で登るとかマジで無理だからな」
「さあ、あるんじゃない? 私だってさすがにタワーの中のことまで細かく知らないわよ」
耳をふさぐのはポーズだけでこちらの声はしっかり聞こえているらしく、相棒はちゃっかりと返答してきた。