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その七 風の吹く丘

 マヤは立ち上がった。

 海から風が吹き付け、ぐしゃぐしゃの髪をそよがせる。焦げた油の匂いが運ばれてきた。


 ――マヤー――


 はっとして、後ろを振り返る。

 砂浜から続く丘は――――いつも夢に見た、あの場所だった。

 草花が揺れ、白い綿毛のようなものが舞い上がった。

 そして、その、なだらかな丘の上に女性が立っていた。真っ黒な服にベール。その下にうっすらと見える顔は、受付のあの女性のようだった。

「ミナさん……」

 ミナはベールをめくる。そこに現れたのは、マヤの顔――


 ジャンが立ち上がると、マヤの肩に手を置いた。

「あんたがヴィルジニーだな。依頼人か?」

「そうです。お疲れ様、ジャン・ラプラス。あなたの求めた答えは確かに渡したわ」

 ジャンの肩にガンマがひょいと現れる。

「ヴィルジニー、僕の仕事も完了した、でいいかな?」

「ええ。依頼の達成――ソドムの崩壊――を確認したわ。賢者の石以外の報酬は依頼書にあった場所にあります。ジャン氏の取り分もあるので、二人で処理して頂戴」

「あ、あの……」

 歩み寄ろうとしたマヤをヴィルジニーは手で制する。

「こちらに来てはダメよ、マヤ」


 マヤはヴィルジニーを見つめた。

「……一つだけ聞いてもいいか?」

「……一つだけよ」


「なんで……こんなことをしたの?」


 ヴィルジニーは柔らかく微笑んで、天を仰いだ。

「ソドムは――まるで、絵画の中の世界だった。何もかもがあり、何もかもが、偽物だった」

「……」

「あなたを探せと大公に命ぜられた時、私は、あなたを通して、始めて外の世界を見たの」

「……どうだったの?」

「……美しくて、素晴らしかった。でも――私は、まだ絵画の中だった……」

「……だから、額縁を壊したんだね」

「そうとも言える。だけど――」

「だけど?」

「私が美しくて素晴らしいと思った絵画を、あの男は壊す気だった……。

 それだけは、許せなかったの」

 マヤは、そっか、と呟き、長く息を吐いた。


「じゃあね、マヤ」

 ヴィルジニーは手を振ると、丘の向こうに消えた。

 マヤは誰もいない丘に向かって、軽く手を振った。

「じゃあね、姉さん……」

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